小説『Tales Of The Abyss 〜Another story〜 』
作者:じーく()

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#113 決意再び



























【タルタロス】










その甲板にて……。


「……………。」


アルは、シェリダンのある方を眺めていた。

彼の傷は、ティア・ナタリア・イオンの3人が集中的に治癒術を施してくれた。

ティアは、凄く心配してくれて……治癒中もずっと傍にいて手を握ってくれていた……。



でも、アルは、表情は暗い……。



アストンさん、そしてその他多数の技師達は無事だった。

敵は、あの後撤退をし、必要以上の虐殺はしなかったようだ。

タルタロスで出航するときに……

職人のみんなは、笑顔で見送ってくれたのだ。

こんな……事があったのに………。


「ッ………。」


そしてアルは自分の手を見た。


「は……ははっ なんて……なんて無力なんだろう……?こんな無力なオレが……何かを守る?また……守れなかったのに……?」




そう呟く。




その手は、凄く小さな手に見える……。








仲間からは……凄い……強いともてはやされていると言うのに……。

それは、仲間だけではない。

敵にだって……相当にマークをされている程なのに……。

実際には何も……出来ない。出来なかった……。

結局は……何も……。

強さなんて幻想なんだ。

そう思ってしまう。

多少何かを出来たところで……。

何も……守れない。









「アル………。」


肩に感触が……。


「…………ティア。」

その感触はティアのものだった。

「ティア……オレってさ……。」

ティアの方は見ずに呟く。

「オレって……本当に……本当に……なんて……無力なんだろう……。」

体を僅かながら震わせてそう言う。

「………。」

ティアは言葉に詰まっていた。

「……絶対に助けるっていっておいて……オレ……何も出来なかった……。あの笑顔を守ることが出来なかったよ。」

アルは……俯きながらそう呟く。



「……はは。やっぱり酷いなオレ……。本当に一番つらいのはティアなのに……ずっと 支えて、一緒に生きていきたい人に……こんな事を……。」



無力さに加えて…情けなさも感じていた。


「アル……。」




“フワッ………”




ティアはそんなアルを……後ろから抱きしめた。



「あなたは……無力なんかじゃない……。私は……本当に、私はあなたがいてくれるから……アルがいてくれるから私でいられるんだから……。お願い……それを忘れないで……。私はあなたに守られているの。……アルは決して無力なんかじゃ……ない。」



そう……言ってくれた。










この旅で……

この戦いで……。

何度も……何度も……。

心が折れそうになることが多かった。

一度や二度ではない。

いや……心が壊れてしまった時だってあった。

……一つ一つを乗り越えて……強くなっていかなければならない……。

強くなる……

なれるんだ。

それを教えてくれた。

どんな事よりも大切な事を……。




【オレ……オレは1人じゃないんだから】





アルは……ティアの手をとる。


「………ありがとう。……ティア。オレは、落ち込んでなんかいられない…よね?大切な事が残っているんだから……。」


強く……手を握った。


「アル……。」


ティアも僅かに表情が綻ぶ。







心優しい……私が愛した男性……





彼が……心折れそうになったら……。




私が支える。




これまでも……そして これからもずっと……。










「ティア。」

アルはティアに向きなおす。

「ん……?」

ティアは、優しい表情で首をかしげた。



「絶対に……この作戦は成功させよう。何があっても……」

「ええ。勿論よ。」




ティアも頷いた。



そして……。





“ギュっ……。”





アルはティアに抱きつく……。

「ッ……」

ティアは突然だったから、驚いていた。

……アルは真剣な目だったから

「そして…ティア……一緒に帰ってこよう。一緒に……みんなと……。」

必ず……

この腕の中に存在する暖かさ……。




【愛しい女性。】





必ず守り通してみせる。

今度こそ………絶対に……。











アルの決意……。

それは腕を通して伝わる。

痛いほど……伝わる。




「ええ………ええ!勿論……必ず……。」




ティアもアルの体に手を回す。

お互いの決意を……感じながら……。

























そして、同刻。


「……………。」

……心に傷を負ってしまったのはアルだけではない。

ルークも同じだった。

(オレ……動けなかった。)

ルークは……蹲り考え込む。

(アルは……必死に助けようとして……行動をしていたのに……オレ……。)

「オレが悪いんだ……非力だから……。くそっ……オレが……ほんの少しでも……アルの力になれれば……あの時にっ……。」

ルークは……自信の非力を……悔やんでいた。



その姿を見ていたガイは……。

「ルーク……。」

ルークの傍へと行く。

「また……助けられなかった。皆……皆……。これじゃ、アクゼリュスの時と同じだ……。」

アクゼリュス……。

全ては自分自身が招いた結果。

そして、1つの街が滅んだ。

……大切な仲間の故郷が……。

「同じじゃないさ……ルーク。少なくとも彼らはオレ達と一緒に戦ってくれた。違うか?」

ガイはそうルークに伝えた。

同じ志を持って……共に戦ってくれた仲間だと。

そして……。

仲間が、ルークを責めたりしない。

あれは……お前の責任じゃないと……

仕えたかったようだ。

だけど……。


「でも……もう、消えた命は戻らない……。みんな……みんなが生き返るんなら……何でもするのに……オレの命だって……いっそ……いっそ……」


“ガクン……”


膝から崩れ落ちる……。


「いっそ… 死んで 償いたい………。」


その言葉を聞いたミュウは!

「ダメですの!!!ご主人様!!!そんなこと言っちゃいやですの!ご主人様が死んだらいやですの!うああああああああん!!」

ミュウは、ルークにしがみつき泣き叫んだ。

「……ミュウ……。」

そんなミュウに……。

ルークは感謝をしていたが……。

やはり……。


「ルーク!」


ガイが、声を上げる。

「お前……アルにも言われただろう!それにティアにだって!」

ガイは……そう叫んだ。

以前に アルに聞いたこともあったのだ。

あの街で……どう ルークが立ち直ったのか。

信じていたのは間違いないが、その過程を知りたかった。

ルークがどうやって乗り越えたのか。

……ガキの頃から世話を焼いているぼっちゃんだ。

嬉しいことここにきわまれりだったのだ。

そんな男がまた同じような事を言ってるんだ。





「死んで償おう何て考えるんじゃねえ!」


“ガシッ!”


ルークを掴みあげる。

「自分の脚で立って、自分の手で 償っていくんだ!失敗はあるかもしれない。そりゃあ、何度も何度も失敗するだろうよ!だけど!」

「ッ……。」

ルークは……ガイの目を 決して逸らさず見ていた。

「死ぬのは償いにならねえ!それは、全てを投げ出して……逃げるってことだ。責任からな!生きているオレ達がやらなきゃならねえんだ。……そうだろう?」

ガイは……徐々に声のトーンを落とす。

その目は……穏やかに……優しかった。




親が子にしつけをするように……。

出来の悪い弟にしつけるように……。




「あ……ああ。」

ルークは……ルークの目には次第に光が戻って行くようだった。

「そう……だよな?オレ……また、間違うところだった。」

ルークは……ガイの言葉でそう答える。

アル……そしてティア。

あの街で、オレに歩く事。

前を向いて歩く事を教えてくれた大切な仲間。

そして、ティアに言われた【わかっていない。】その言葉。

簡単に死を選べる……。

ガイの言うとおり……それは逃げているだけなんだ。

「オレは……オレは………。」

ルークは、力を……込める。

「オレは、できる事をするんだ。今回のこの作戦……オレは必ずやり遂げる!絶対に……それが……」

ルークは……シェリダンの方を向いて。

「イエモンさん達に……出来る唯一の償いだ!」

そういい切った。

その目は……もうさっきまでのルークではなかった。

「フッ……。」

ガイは、微笑むと。

手を離した。

「今は、皆落ち込んでいる。言葉に出してないかもだけどな。」

ガイはそう言うとルークを前に出す。

「今度はお前が元気付けてやれ。元気になれたんだったらよ?」

そう言って笑っていた。

できる事を1つずつでもやる。

ルークが決めたことだ。

「ああ……。」

ルークは返事をすると、タルタロス内へと入っていった。




「吹っ切れた……な。あいつ」

ルークを見送ったガイは、そう呟く。

「本当に成長していってる。間違いなくな。」

その顔はほんとうに穏やかだった。

「見ている背中が良いものなんだろうな……。へへっ オレなんか7年も一緒にいてるってのに……アイツはたったこれだけの期間で 成長させちまうのか?……ちょっとばかり妬けるな。」

そう呟くと……ガイも船内へと入っていった。










ルークは……船内へと入ってい行く。

そこで出会ったのは……。

「ノエル。」

そう、アルビオールの操縦士であり……アストンさんの孫のノエルだ……


「ッ……。」

ノエルは、ルークの声にはっとすると……


“ぐいっ……ごしっ………”


素早く、涙を拭った。

今の今まで泣いていたのだ。

「あ……あの……。」

ルークはガイに言われたように……するつもりだったが、

やはり中々言葉が見つからない。

当然だろう……。

ノエルは……犠牲になった人たちの……。

そんなルークに……

「ルークさん。」

振り返ったノエルは笑顔だ。

無理をしているのはわかるが……精一杯笑顔を見せてくれた。

「私はね……おじいさんの意志を引き継ごうとおもいます。この計画が完成する所を見届けたいんです。私は……アルビオールの操縦士ですから。……これからも……。」

悲しそうな表情の奥には……

強い決意も見えた。

「ノエル……。」

ルークはその表情に安心を覚えた。


「だから……今は少しだけ……1人にしてください。少しだけ……お願いします……。」


ノエルは、タルタロスへ搭載しているアルビオールの前に立った。

「ああ……。」

ルークは頷いた。

ノエルは……笑顔で………。

笑顔で……一筋の涙を零していた……。





















船内にて……。

「アル…。」

「あっ、ルーク。」

ルークは、アルに出会った。

出会ってまず初めに言う事。

それはルークは決めていたようだ。

「その……ごめん!」

ルークはアルに頭を下げた。

「わっ……ど……どうしたの?」

突然謝られて、驚いていたようだ。

「その……あの時オレ、役に立てなくて…。」

あの時……。

それは、タマラさんとの時の事だ。

「ルーク……。」

アルは……直ぐに理解した。

そして、ルークに言おうとした時。

「今回の作戦……それは絶対に成功させよう。オレ……今度こそ やってみせる……。アルの役に立てるように……!」


アルが言うまもなく、ルークはそう返していた。

「あ………。」

そんなルークを見てアルは……

安堵をしていた。

自分が言うのもなんだけど………。

ルークは本当に変わった。

以前に比べて格段に……。

これが成長……なんだろう。

本当に自分が言うのもなんだけど…… 苦笑

「ルーク。オレなんかの役に立つより……。」

アルは笑って。

「この世界の役に立とう?個人じゃなく……この世界で生きている人たちの……さ。オレもまだまだ、だから……頑張るって決めたから。それにルークは……本当の【英雄】になるんだろう?」

そういった。

「……ッ。……そうだな。」

ルークは……頭をあげた。

「そうだよな……オレ……オレも頑張るよ。そんな立派な者になれるかわからないけどさ。」

ルークはそういった。

「その点はオレも同じだよ。……頑張ろう。ただがむしゃらにさ?」

「ははは……。」

最後には、互いに笑いあっていた。




もう……2人とも大丈夫……。



だった。









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