#117 別の形で……
その2つの衝撃は……当然タルタロス中に響き渡る。
「ッ!!この力は……。」
アルビオールの前に到着していたイオンはその波動を見て驚くのと同時に……。
「……やはり 僕と同じ……」
全て……悟っていた。
「ななな!一体何っ!!」
アニスも驚いて外へと出てくる!
その衝撃のあった先を見てみると2つの影が見えた……。
「お前……一体何者なんだ……。」
片方の影は膝を付いた。
「…………。」
シンクだ……。
「劣化してるとはいっても、導師の力を真っ向から弾き返すなんて……。」
シンクのアカシック・トーメントはアルの放った技に僅かだが押されたのだ……。
ダメージは無かったが精神的には有った。
自分には敵わない……そう思った自分が情けなくも感じていた。
【この男は、イオンと同じかもしれない】
この愚かな男はそう感じたからこそ……。
力を出し切れてなかった。
今ならそう思える。
「さあ……。何者なんかわからないよ。お前は自分が誰なのか……?一体何者なのか……?それが一切わからない恐怖を知っているか?」
アルはそう言う。
「捨てられた?屑?それがどうしたってんだ!!お前は……お前にも力があるじゃないか!捨てられたっていうのなら!何故そこで立ち止まってるんだよ!お前ほどの……それだけの【力】あれば……なんだって出来るじゃないか!…力なくとも賢明に生きようとしていた人たちは生きらないと言うのに……。」
シンクを掴みあげた!
「その事が憎いと言うなら、命ある限り抗ってみろよ!必要が無い……って言われたんなら!見返してやれよ!それだけのもの持ってるくせに!関係の無い今を生きている人たちを巻き込むんじゃない!!」
「……うるさいッ!お前に……お前なんかにわかってたまるか!自分自身を必要とされているやつが!」
シンクもアルの手を弾いた!
「ああ!わからないな!全然わからない!オレはお前じゃないんだから!お前だってわからないだろうが!自分の事がまったくわからない事がどう言う事なのか!!」
アルはそう叫ぶ。
「ッ……!」
僅かだが……
シンクはたじろいでいた。
「やはり……。」
その時だ……。
直ぐ後ろに……。
「い……イオン……。」
アルは無我夢中だった。
だから……イオンが直ぐ傍にまで来ている事……。
それがわからなかったようだ。
「ッ!!い……イオン様が2人!!まさか……シンクはイオン様の……。」
アニスも……。
「アルっ!!」
「無事か!!」
ティア、そしてルーク。
それに引き続いて皆がこの場に集まった。
戦いに気をとられていたが、船の動力はどうやら復旧できたようだった。
「皆………。」
アルは、皆の方を見る。
皆……初めこそは、アルのことの心配・そしてシンクへの警戒をしていたが……。
シンクの顔を見て、表情が固まっていた。
そして………
「そう……だったんですね。アル……貴方も気づいて……だから、1人で……。」
イオンが語りだした。
イオンはこの時悟ったようだ。
シンクの事もそうだが、今、アルが何故……1人で戦っているのかが。
恐らく、アルは【正体】に気がついていた。
それはシンクは勿論……恐らく僕の事も……。
アルは……凄く優しい人だから。
その事を知ったら……僕がどう思うか。みんながどう思うか。
そこまで……考えてくれていたんですね。
世の中には知らない方がいいこともある。
以前……僕が言っていた言葉。
「アニス……違うんです。彼は僕のレプリカじゃないんです。」
イオンは……シンクの方に歩み寄る。
「えっ……?じゃあ……。」
アニスは……わからなかった。
「イオンっ!!」
ルークも……皆も集まってきた。
「彼は……彼と僕は同じなんです。僕も本物の導師イオンではありませんから……。」
「っ………。」
アルの……予想は的中していたようだ。
「レプリカなんです。僕も……彼も2年前に亡くなった導師イオンの……ね。」
その場にいた皆……驚いていた。
「イオン……がレプリカ……?シンクだけじゃなくってお前も!イオンも!!」
「…………。」
ルークは驚きを隠せない。
そして……。
「アル……。」
傍にいたティアがアルの方へ……。
「………あっ、ティア。」
アルはティアの方を見た。
「だから……なのね。アルは知っていたんでしょう……?その……イオン様のこと。」
「ッ……。」
ティアも悟った。
なぜ……頑なに1人で戦うといったその理由が。
「アルは優しすぎるんです……本当に……。」
イオンは……アルについてそうフォローを入れていた。
「イオン………。」
アルは……イオンの方を見た。
優しいというなら……イオンの方だって……。
「……良いんですよアル。気を使わなくても……僕は……モースとヴァンが2年前に創った。導師の死を公にすべきではないと考えて……。」
イオンはそのまま……続けた。
「えっ……に……2年前?私が……導師守護役になったころ……?」
アニスは……そのことに気がついた。
そのタイミングで……なったと言う事は……。
「まさか……アリエッタが守護役から解任になったのは……。」
そう、……アリエッタが解任になったのは【導師イオンの死】の時期と合致している。
即ち……。
「そうです。僕に導師イオンとしての過去の記憶はありません。だから、以前までの【イオン】をしるアリエッタは解任されたのです。僕は……導師イオンの7番目にして最後のレプリカ。病で亡くなった本物のイオンの代役なんです。」
イオンは…・・・そう言うと、ゆっくりシンクに近づいていく。
「……シンク。一緒にここを脱出しましょう。もうすぐ譜陣の効力が切れます。……僕は貴方とはこれ以上争いたくないんです。」
イオンはそう言う。
……が。
「……必要とされているレプリカの御託は聞きたくないね!!」
そのセリフは……アルに吐いた言葉と全く同じだった。
同じもの同士……、通じ合える。
そう信じた……だけど……。
「はっ!同じような事を二度も言うなんてな。ぼくたち屑とお前は違うだろう!」
届かない……。
「屑……そんな。そんなふうに言わないで……シンク。僕たちは同じじゃないですか。さあ……一緒に……。」
イオンは手を差し伸べようとするが……。
“バシィッ!!”
その手を弾く。
「いいや!屑さ!中身の無い空っぽの存在だ!」
シンクは睨みつけた!
「お前の何処が空っぽだ!何処が中身が無いんだ!!」
“ガシッ!!!”
払った手をアルがとる。
「放せよ…!」
シンクは振り払おうとするが……。
「お前……!オレと戦うとき凄く楽しそうにしてたんだぞ!?空っぽのヤツに……そんな表情できるもんか!」
アルは……必死だ。
周りの皆も……よくわかっていた。
「いいか!お前はお前なんだ!!イオンの代わりじゃなくシンクって言う存在だろッ!何もかも諦めるんじゃない!前に進んでいたら……必ず何かが見えてくるんだ!例え……どれだけ絶望だって。例え……全てを失ったって。自分が誰かわからなくたって……たとえ!!」
「捨てられたとしたって!!」
「ッッ!!」
シンクは……
心から震えた。
こんな気持ち……
“キッ!!!”
だが……。
“バシッ!!!”
「もう……もう遅いんだ!たとえ、そんな気持ちがボクの何処かにあったとしても。誰かのお情けで息をしているかぎりは………」
ゆっくりと……下がって行く。
「ただね……。」
シンクは、一瞬だけ……優しい目をしていた。
その目……オレはよく知っている。
「君とは違った形で出会いたかったね………。確かに……楽しかった。初めて戦いを楽しめたみたいなんだな………。」
そして、シンクは………視界から消え去っていった………。
「あ……………ッ……………。」
アルは、言葉が出なかった。
多分……アルは、きっとシンクを救いたかった……。
敵でありながら………
それでも……シンクの正体を知った時から……。
「アル……本当にありがとうございます……。」
イオンが……泣いていた。
「そんな………オレはやっぱり何も出来なくて……。」
イオンの涙を見たのは……初めてだった。
「……イオン様も……アルも……泣かないでください。」
アニスが……そう言う。
そう言うアニスも……涙を流しながら……
「………?ボクは泣いてませんよ。だってボクは……生まれてから一度も……涙を流した事………など……?」
指で目の近くを拭った。
間違いなく……涙が流れていて……。
「ボクは……泣けるんですね………。」
イオンは震えていた……。
「なんでだよ……レプリカだろうとオレ達は……確かに生きているのに……。」
「……生きてさえいれば友達にだって………なれた。なれた筈なのに………。どうして………。」
暫く……と言っても時間にすれば本当に数分で……。
ジェイドが、皆の指揮をとってくれた。
そして、ティアとナタリア、アニスは支えてくれた。
アルを、ルークを……イオンを………。