第一章 記憶の無い少年
#2 戻らない記憶
オレは、家の近くに有る高台へ来て空を眺めていた。
オレがこの家に来て数週間たち…
体の方は特に問題なく回復したが……
「……やっぱり何も思い出せないな…」
記憶……
それのみがいつまでたっても戻らなかった。
「やあ おはようアル。どうしたんだい?こんなとこで」
そこに恩人であるガーランドが高台に来た。
「ああ、ガーランドさん… いや特に理由は無いですよ。ただ空を見ていただけです…」
そういうと少し表情を暗くし、
再び空を見上げた。
「そうか…」
そう言うとガーランドはアルのそばまで来た。
「隣…良いかな?」
アルのすぐ横に立ち聞いた。
「ええ かまいませんよ。」
そう言うと二人並んで座った。
「記憶… まだ戻らないようだね。」
暫く無言だったが
空を見ながらガーランドは静かに話した。
「……ええ」
「君がたまにとてもつらそうな表情(かお)をすると、サラから聞いてね。心配していたんだ。」
空を見ていたが、
言い終わると同時にアルのほうを向いた。
「私の友人にも記憶障害を持ったものがいてな、何か…すごいショックを受けて発祥したらしいんだ。根気いいケアと彼の故郷に連れて行ったことで何とか回復してな…それも約2年もかかったんだ。 君が不安なのはわかるよ。あの時の奴を見ているようだからな・・・ 大丈夫だ。記憶障害は何かのきっかけで起こるもの、いつか必ず無くした心の鍵が見つかり分かるようになるさ。」
いつもの陽気な表情じゃなく、
真剣な表情だった。
「ガーランドさん… 本当にオレはあなた方にお世話になりっぱなしですね…どうもありがとうございます。」
何度目だろうか?
本当に心優しき家族なのだ……
いくらお礼を言っても足りないくらいだった。
「ハハハ!礼は良いって、私も君には感謝しているんだ。いつも鉱山の仕事であまり娘にかまってやれていなかったからな。 特にここ数年はいろいろと問題があってさらに輪をかけて相手に出来なかった… 君のおかげでサラは大分元気になったよ。どうもありがとうな。」
そう言って手を差し出した。
そして2人は握手を交わした。
「あ!やーっとみつけたっ!」
暫く2人で話をしていると…
下から声が聞えた。
「おーい。パパ!アルおにいちゃん! あさごはんのじかんだよ!」
声の主はサラだった。
「おー!わかった!」
「はやくきてねー!」
そう言うと家の方へ走っていった。
食事の手伝いの最中だったのだろう。
「さ!行こうか。」
そう言ってガーランドは立ち上がった。
「あの…ガーランドさん。」
一緒に立ち上がり話しかけた。
「ん?なにかな?」
「オレに何か手伝える事は無いですか?体の方は何とか回復しましたし、このまま何もせずにお世話に成りっぱなしというのも悪いので…」
「そうだな…… 力仕事は他にもあるが……人数は揃ってる… うーむ…」
暫く腕を組みながら考えた。
「よし。なら私達が留守の間は私の娘の勉強相手になってくれないか?家庭教師ということでどうかな?」
ピント人差し指を突き上げて答えた。
「えええ! オレ役に立てるかどうか… それにこの世界についてもよく思い出せないし……」
「ハハ!いいじゃないか、娘とともに勉強してくれ!君が勉強する姿を見せればきっと娘も真似をする。娘は君の事がお気に入りだからな。今の君の知識も広がるし娘も勉強する… 一石二鳥じゃないか。」
笑いながら答えた。
「後、もし鉱山の仕事で手を借りたくなったらすぐに貸してくれ!…これでどうかな?」
ウインクしながらアルを見た。
「……わかりました! よろしくお願いします!」
「ああ!じゃ まず朝飯だな。早くせんとレイとサラに怒られる。」
「あはは… そうですね。行きましょう。」
そう言い自宅へと帰っていった。