小説『Tales Of The Abyss 〜Another story〜 』
作者:じーく()

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#60 殺意と拒否

































【戦艦タルタロス】


タルタロスの甲板にて。


「ティア貴女はこの大地、魔界(クリフォト)出身だったのですか……?」

ナタリアがそう聞くと……。

ティアは静かに頷いた。

「しかし……なぜこのようなことに? 話を聞く限りでは、 アクゼリュスはセフィロトに支えられていたのでしょう?」


ジェイドがそう聞く。

そしてその言葉に……。


「ッ…………。」


アルの体が震える……。

そう……【アクゼリュス】その言葉を聞いただけで……だ。



アルはずっと……悲しみにくれていたから……。



ファンさんだけではないだろう……

家族……ガーランドさん…そして……レイさん………。


そして………サラ……………。 

亡骸を見つけることが出来たのはファンさんと……他の住民の人たちだけだった……。


沢山の命が消えたのだ………。


さっきまで……普通に話していた人たちも……。


数週間前までは……楽しそうに笑っていた人たちも……。


自分の故郷とも言える街が………。


本当についさっきまで存在していた故郷が………一瞬で………。




「アル……あの、少し休んではどうですか……?」

イオンは原因を言う前にそう言った……。

今も苦悩な表情……悲しみの表情をしていたから……。

そしてアルにとっては……かなり辛い話しのはずだからだ。


「………大丈夫だよ………。イオン………。 オレも知りたい………から。どうして………皆が………。」


苦しそうに……悲しそうに……だが、そうはっきりと言った。


イオンは、それを聞くと……。

目を瞑り………そして、開く。


「柱が消滅したんです………。」


そう 告げた。


「どうしてですか………?」


アニスがイオンに聞くと………。

ティアがルークを見る。



「え??」



ルークは驚いていた。

そして………皆もルークを見た。


「お………オレはしらねーぞ!おれは!瘴気を中和しようとしただけだ!あの場所で超振動を使えば瘴気を消せるって言われて!」


ルークは必死にそう話す!



だが……その話を聞いて……アルは全てを理解した。


『消せる。』


(そう………か……… そういうこと………か、言ったのは恐らく………)

全て……つながった。

トリガーを引いたのは……ヴァンだ。

そして、破壊をしたのは…………。



「貴方は兄に騙されたのよ………。そして………アクゼリュスを支える柱を消してしまった………。」



ティアがはっきりと告げる………。

ヴァンがいったとおりだ。

【ここを支える木は……】と言う言葉。

あの時は……理解できなかったが……。



「そ………そんな………はずはっ………」



ルークは………後ずさりながら、唖然とした。

「残念ながら………その通りです………。柱はパッセージリングで作り出してます、ルークの超振動で………そのパッセージリングを消してしまいました… 僕が迂闊でした。ヴァンが………こんな事を考えていたなんて………。」

イオンが自分を責めるようにそう言う………。

イオンの性格なら………。

わかってたことだ………。だが………。


「イオン様………。」


アニスはイオンを見て悲しそうな顔をしていた。



「せめて、ルークには事前に話してもらいたかったですね、仮に瘴気が消せるなら……… 避難が完了した後でも良かったはずですし。」

「そうですわね………アクゼリュスは消滅しましたわ………何千と言う命が一瞬で………。」

ナタリアは顔を俯かせ………ジェイドはルークにそう告げる、軽はずみな事でこのようなことが起こったのだと………。

アルは唯俯いていた………


そして、自分の心の奥底にある………【ドス黒い感情】が湧き上がってくるのがわかる………。


ルークに………非が無いわけでは………

無い………のだ。だけど……。

そのドス黒い感情………それはまた………こみ上げてくる………

それは…………なぜなら……ルークは利用されただけとはいえ………柱を……故郷を消した張本人なのだから………。


(だ………駄目………だ………。)


アルは……必死に自分の胸を押さえる。

心の底に……その感情を隠してしまおうとする。

でも……次から次へと……湧き上がる。


(そんなの………考えちゃ………駄目………だ………争いは嫌いだ………それに、憎しみだって……何も生まないんだからっ! それはウソ偽り無いこと……なんだからっ。)


次々に迫り来る感情……

アルはそれを必死に……。

いや……違う、【自分を】必死に抑えていたのだ…………



あの場所で……ヴァンを相手に暴れた時、僅かに意識はあった…………。


(あんな…………まるで暴走…………。そんなのなんかいやだ………力に支配……怒りに……支配。とりつかれてしまってるされているようで……。)


アルは必死に自分自身と戦っていた…………が…………。


その試みは露と消える…………


次のルークの言葉によって…………。




「お…………オレが悪いってのか…………?師匠(せんせい)が…………やれっていったから………… あそこでつかったら英雄になれるって…………。お前らオレを………責めるのか…………? オッオレはアクゼリュスを救おうとして…………!オレばかり………俺は何も…………オレは悪くねえぞっ!! オレは悪くねぇっ!!悪くねぇ!!!」





“ピキィィ…………”





アルの中で何かが音をたてて崩れた。


“パシッ………。”


「あ……ア……ル……?」





“ザッ…………ザッ…………ザッ…………”



アルは、イオンの手を振り払い…………歩き出す。

その目は虚ろ…………だ。



ゆっくりとした足取りで、ルークに近付いていった。



「なんだよ…………っ! お前っまた オレを殴るのか!! なんでおればッか責めるんだよ!!師匠(せんせい)の言うとおりにしただけなんだぞ!!だったら、悪いのは師匠(せんせい)じゃねえか!!」



“ピキ…………ピキッ…………”


ルークの言葉の一つ一つを聞くたびに……何か崩れる。


それは……。

ルークの言葉はまるで起爆装置の解除コードのようだ。




アルは…………無言のままで…………。



だが…………表情が普通ではない。



そして、手に力が集約していく…………

それが、わかる。

周囲の皆にもはっきりと、

一度見ていることもあるのだ。

……そう、手の周辺の空間が歪んでで見えるからだ。

そして、その反動で、また……腕から血が出ているが……。

アルは自分の傷など、もはや気になってない。





“ゴゴ………ゴゴゴゴゴゴ……………。”





そして…………【あの時】のような鳴動が…………周囲を襲ってきたそのとき!




「「アルッ!!!」」



“ガシィッ!!!”


ジェイドが右手を…ガイが左手を……抑えた。



…………ジェイドとガイが【止めてくれた】のだ。




「何をするつもりですか!?」

「しっかりしろッ!アル!今はそんなことしてる場合じゃねえだろ!」



ジェイドがガイが力強く抑えてくれた…………。


「ガ…………イ………… ジェイ…………ド…………」


アルは震える体を自分でも必死に抑える…………。


「たの…………む。オレを…………この場所から…………連れ出して…………っ。」


2人に懇願する…………。



そして…次のアルの言葉に皆動揺を隠せなかった。




「じゃ…………ないと…………オレ…………オレは…………」



ルークの方を………見て、そして逸らせる。



「……ルークを…………殺してしまうっ…………!」



湧き上がるのは殺意。

今の体を支配しているのは怒りだった。




「なっ!!!」



ルークは驚愕の表情を浮かべていた…………

初めて敵以外の…………人に殺意をぶつけられたからだ…………。

アルの目は………今までのそれとは全く違った。

そして、アルの息は荒い…………。

肩で息をしながら、この場から離れさせてくれと頼んだのだ…………。

体は……自分の意思ではコントロールできそうに無いから、

……そして殺意をルークに向けながら、体はそう反応していて……。

それでも、そんなことはしたくない…………。

必死に抗っていたのだ…………。

相反する2つの感情と…………戦っているのだ。

そんなアルの言葉に……アルの姿に皆が言葉を失っていた…………。





動き出したのはジェイドだった。

「はい…………。私が、ブリッジまで連れて行きましょう。 私自信もこの場にいると馬鹿な発言にイライラさせられてしまいますからね…………。」

そう告げ、

アルに肩を貸して離れようとした時、



「じぇ……イド…… ゴメン……ちょっとはな……れて……。」



アルがジェイドにそう告げる。

アルに触れているジェイド肩には……。

アルが尋常じゃないくらい震えているのがわかる。

だが……離れてくれと言った意図がわからなかった。


「アル?」


心配そうにジェイドはアル見ると………。


「ごめ…………ん…………。 」


“ドンッ………!”


アルは・・ジェイドを突き放すと…………。


「う……くっ…………。」



頭上に、必死に右の手を上に掲げる。

見ているだけで痛々しい姿だった。

次の瞬間!



“カッ!”

“ズガアアアア!!!!”



紫色の天より雷が落ちてきたのだ!







「なっ!!!」

ジェイドは驚き目を見開く。

そして、皆も同様だ!

突然の閃光。

雷鳴が轟いたのだ。

それは……直視することもままらなかった。


そして、目が慣れたとき……。


皆は全て理解する。


そう……落雷の場所にいたのは………。

あの閃光……雷に当たったのは……。


“ドサッ………………”


あの雷を放った(おそらく)アル本人だった………。

服は、所々焦げ目が付き………。

体が痙攣していた。


「ッ!!!アッ…アル!!!」「ッ!!」



ティアとイオンが……アルが倒れたのをみたその瞬間駆けつけた。


ティアがアルの頭を抱きかかえるが………アルはピクリとも動かなかった……。




そして、ジェイドが近づきアルの手を取り……状態を確認する。

「脈は……大丈夫です。………しかし、驚きました。 彼は、自分自身を攻撃って……。意識を絶ったのでしょう……。 感情に任せ……【あの時】のように暴走しないようにと……。」

現状をほぼ把握したジェイドがアルを見ながらそう言う。




「なんで……だよっ!皆して………… 皆して!俺ばっかり責めるんだよ……! お前らだって………何もできなかったじゃねえか! それにアルの奴だって!!それなのになんでおればっか!!」


ルークは驚いていたが……再びそう言う。

その言い方にはアルの事はまったく考えてない…………。

そう……全ては自分の事だけを考えている。

誰もがそう感じた。




「確かに僕は無力です…………。アルの力にも……なってあげたかった。ずっと……ずっと……傍で彼を見てて…………。彼は……あんなに僕に………ッ」




イオンが顔を俯かせた.





「イオン様っ!!イオン様は悪くないです!こんなサイテーな奴ほっといていきましょ!!」





アニスがイオンを引っ張って連れて行く。

アニスも我慢ならなかったようだ。

湧き上がる怒りに身を任せれば…………楽になるだろう。

だが、それに、必死に逆らって…………あまつさえは、自分自身を攻撃してまで…………。

全ては……全ては………



【仲間】を傷つけまいとしたのだ。



そんな人に向かってこの男がとった行動がこれだ…………。


「ティアっ!私のトクナガ使うから!アル……ここより絶対タルタロスの中の方がいいと思うから連れてくよ。」

そうティアに言う。

アニスも……早く離れてしまいたかったようだ。

アニスは、トクナガを利用し、 イオンを連れて……そして、アルを戦艦の中へと連れて行った。




ルークは……まだ 納得がいかない。

そういった表情をする。

それを……見たナタリアは……。


「…………変わってしまいましたのね。 記憶を失ってからの貴方はまるで別人ですわ…………。」


ナタリアも初めから驚きの表情を作っていた。

言葉も出なかった。

だけど……。

ルークの言動、そして、アルの行動と結末を見て。

そして、アルの行動を見たうえでのルークの言動を見て…………。

弁解の余地など無い。

そう思ったのだ。



そして、ナタリアはそれ以上何も言わず……タルタロスの中へと入っていった…………



「なんだよ!一番悪いのは師匠(せんせい)だろ!!!…………なあ!そうだろ??ガイ…………。」

親友であるガイに縋る様にそう聞く…………

そう……自分は悪くない…………。そう言ってくれると信じて…………だが…………。

返ってきた答えは…………。



「ルーク…………。あんまり幻滅させないでくれ…………。」



その一言だけだ…………。

多くは言わない。

怒鳴ったり……罵倒したり……しない。

ただ……その声は低く……暗いものだった。



「!!!!」



ルークは………表情が強張る……。

親友からも…そういわれ……。

ガイもタルタロスの中へ入っていったのだ。






そして最後に残ったのは…………ティアだ。

初めて一緒に旅をした一番最初の人だ…………。



「ああ…………なぁ……ティ…「少しは…………」ッ!」



ティアはルークの言葉を聞かないよう…………。

話を割りながら言う…………。




「良いところも…………あると思ってたのに…………」




「!!!」





そしてルークは1人になってしまった…………。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




いや…………まだ残っていた…………。

「ご主人様…………。」

それはミュウだった。

「僕…………ご主人様の気持ちわかるですの…………。 村の皆に僕も迷惑かけたですの………… だから…………」

必死に……励まそうとする……が。

「うるせええええ!お前なんかと一緒にするな・・・ おれ・・・おれ・・・は・・・・ う・・・うわああああああ」

今のルークには……逆効果だ。

膝をつき泣き叫んだ…………。



「ご主人様…………。」



そんな彼に今でもついてくれているのはミュウだけだった。














【戦艦タルタロス・ブリッジ】




「ティア…………このまま 進めば良いんですね?」

ジェイドが船を操作しながら・・・そう聞く。

「ええ…………もう直ぐ見えてくるのが・・・ユリアシティです。」

そう言う…………。



そして暫くして船の先を見ると…………。

ユリアシティ。

そう呼ばれる街に着いた。


「アル………。しっかり…………」

ティアは、航海の間……。

ずっとアルの治療に専念していた。

勿論、ナタリアやイオンも手伝いながら……。


アルも……そのおかげもあり何とか…………意識は戻り……怪我も癒えてきたようだが。



…………彼の心には一切の余裕はないようだった…………。












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