#82 シンクとイオン
突然の襲撃だった。
六神将……ラルゴとシンクは多勢に無勢と見るや否や、
ラルゴ達は姿をくらませていたが、
「くっ!お前たちは奴らを追え!」
グランコクマの軍長がそう叫ぶ!
それを合図に兵たちはいっせいに捕縛に向かった。
「……六神将ですか。こんなところまで…」
ジェイドは粗方状況を理解したのかそうつぶやいていた。
「……ッッ!」
アルは右の腕を抑える…。
どうやら…
あの力…発動こそしていないのだが…。
「古傷………か……。やっかいなのを……抱えたな……。」
腕に鈍い痛みが残っていた。
「アルっ!」
アルの異変に気がついたティアはすぐさま駆け寄り……。
“キィィィィン………”
治癒術を腕に施してくれた。
だが……一向に身体の芯にくるような痛みは取れない。
でも……気持ちは伝わる……。
「……ありがとう、ティア。オレをとめてくれて…。」
そんなティアを見ながら…自然と言葉が出た。
………感謝しかでてこない。
「いいのよ!そんなこと!それより…傷は…??」
ティアは、心配そうにそう聞く。
……アル自身、この怪我に治癒の力は以前も試した事はある。
だが……全く効果はないと言うわけではないが。思わしくない結果だった。
どうやら、アルの固有の……【あの力】を使うと出てくる後遺症のようで、治癒術だけでは、あまりよくはならないようなのは実証済みだった。
「もう、大丈夫だよ。それより………。」
アルはルークに抱えられたガイを見た。
「ガイのほうが心配だよ。突然……ああなっちゃったんだから。オレはもう大丈夫!ガイに治癒術をお願い!」
そう言った。
今は……アルにはガイを助けれない。
彼も……傷を負ってしまっていたからだ。
「ティア!頼む!」
ルークもそう頼む。
「わかったわ!」
ティアはガイの方へ行き…
術をかけようとしたが…。
「無駄です…。」
イオンがゆっくり…ガイのほうへ来る。
「第七音素では…カースロットは解けない。しかも…抵抗できないほど深く侵されたようです。」
イオンは…
ガイの腕の傷を見て…。
そして、さっきの行動を見て・・・
そう結論付けた。
「そ…そんな……。」
ルークは…
心配の表情を隠せない。
「何処か…安静にできる場所を貸してくだされば、僕が解除します。」
イオンがそう言うと…。
「イオン様!!」」
アニスが…心配そうに駆けつける。
「イオンなら…できるのか?」
ルークは…そう聞く。
「はい…。と言うより僕にしか出来ないでしょう。これは本来…導師にしか伝えられていないダアト式譜術の1つですから…。」
…………………
「……イオン。」
アルが…ゆっくりと立ち上がり…。
「はい。」
イオンもアルのほうを向いた。
「ムリだけは…やめてくれよ。オレが…言えた義理は無いと思うけど…。本当に心配をかけるだけだからさ…。」
自分の現状…。
そして、以前ティアにしてしまった事…。
それらを思い出しながら…そう言う。
「……はい。ありがとうございます。…ですが、心配要りません。本当に大丈夫です。これは…僕の役目なんですから。」
イオンは…そうはっきりと言った。
「………。」
アニスは…何もいえないようだ…。
そして、ジェイドの案内で…。
首都グランコクマの宿屋のほうへと向かった。
宿屋へ向かう道中の事だ…。
「…………なあ、ジェイド。」
アルが、ジェイドのそばに来て…周りには聞こえないほどの声で話す。
「……なんですか?」
ジェイドは、振り向かず。そして、アルにあわせて…聞こえないように聞いていた。
「……答えられるのなら答えてくれ。イオン…そしてシンク……。そしてさっきイオンが言っていた……ダアト式譜術。ジェイド……イオンは……【どっち】……なんだ…?」
そう…聞いていた。
以前…ジェイドが話していたある事を思い出しながら……。
「…………ふむ。」
ジェイドは…めがねを上に上げると…。
「やはり…貴方は気づきましたか…。……大した洞察力ですね。」
ジェイドは…ふぅ…っとため息をつき…そういった。
「…………答えになっていない……よ。……どうなんだ?」
アルは…心配そうに、そう聞いた。
「…恐らくは……あなたの想像通りでしょう。ですが……事を荒立てないように。イオン様自身が答えてくれる事を待つのが一番です。」
ジェイドは…真剣な口調でそう言う。
いつもの軽い感じじゃなかった。
だから……。
「そう…だよな……。うん。わかってる。」
アルは…少し表情を落としていたが……。
すぐに何事も無かったかのような顔に戻していた…。
でも……もし想像通りだったとしたら……。
(イオンは…………。)