小説『おかっぱ頭を叩いてみれば』
作者:しゃかどう()

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彼女のスカートは膝のちょうど上である。ぴっちりと。そして体育着は濃紺の上下セットのジャージを着込む。夏でもそれをやるものだから、みんな彼女を不思議がった。
俺はバスケ部の一年生だ。小さいころからやっていたおかげで、レギュラーもこの間の大会で手に入れた。そしてそれと同時に、恋人も。
「りょうや」
呼びかけられて、何だと答えた。空野春子という2つ上の先輩は、学校じゃあきれいだと評判の生徒だ。いつもはキリリとした人であるが、俺と二人のときはすごく甘ったるい声を出す。それが気持ち悪い。
「何、考えてたの」
今日は彼女が部活がないと言うので、一緒に帰ろうと言ってきたのだった。断る理由もないから、うんと言った。
「何でもないよ」
ははは、と渇いた笑いが口から洩れた。最近はいつもこうだ。
あんな友人もいない、勉強のできる極度の運動音痴のやつのことなど考えなくてよいのに、考えてしまう。
肌は病人のように蒼く、最近はそれに拍車をかけてもはや緑色になっている。ばっちりと開いた目は、どんなに同じクラスの生徒が授業で寝ていても、ぱちりとも瞬きせずにがんびらき状態なのだ。
「うそ」
空野春子はそんなことを言う。彼女と同じ部活らしかったが、たぶんこの人にそんなことを言ったらあのおかっぱ頭はガンガン殴られてしまうだろう。空野春子はそんな女だ。嫉妬深く、甘え上手。そんな奴はあまり好きではない。なんでつきあってしまったのかと言われれば、その場のノリとしか言いようがない。
ふわ、と甘い匂いがした。昔、まだ母親が優しかったころに嗅いだ匂いだ。なんだか涙が出でて来そうになる匂い。嫌いではない。少なくともこの女よりは。
「あ」
おかっぱ頭だった。彼女の通称は【ボブ】で、恋愛感情ではなく、非常に気になる人物だ。
転校してきたときは、美人だなあと思った。女子たちも特有の塊をつくって彼女に押し寄せた。だが、待っていたのは終始無言を貫き続ける彼女だった。最後におかっぱ頭が発した言葉は、「すいません」だった。
「りょうや?ああ、ボブか」
「同じクラス、なんだよね」
彼女は白いケータイを出してメールを見ているようだった。そして、たまに、ふふ、と笑って見えた。少々気味が悪い。
「最近めっきり、痩せちゃってさあ」
空野春子はそういった。心配そうと言うより、どことなくからかった口調だった。
「疲れちゃったのかなあ」
「なんか顔色悪いしな」
大丈夫かな、そう俺が言った時に、空野春子は顔を思いきり歪めていた。

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