小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「パパとママはさ、パニクってたけど、俺はななちゃんを男の見本として見て来てるし、うーちゃん好きなの知

ってっから……綾兄みたいな生き方だって、あんまり驚かなかったけどね」

 嘘をつけ!フツウ引くだろ!つか、姉に対して『男の見本』て何だ!?それより何で海乃への気持ちがバレてん

のよ!?

「ちょちょちょちょーっと待った!……なんで私が海乃の事好きとかって……そういう話になるのよ!?」

「はあ?今更何言ってんの?いっつもうーちゃん抱きしめてエッチなことしてたじゃん!」

「何言ってんのよ!エッチな事なんかしたくてもしてないわよ!ただ抱きしめて……あ」

 つい口を塞いだ私を、拓実は面白そうに眺める。

「……たでしょ?ななちゃんの顔、いつも飢えた野獣みたいで、俺、子供ながらに痛ましかったもん」

「何で子供に痛み入られなきゃなんないのよ」

 それはつまり、のぶが海乃を好きなのが丸見えだったように、私が海乃を好きなのもダダ漏れって事!?オーマ

イガッ!!

 これからどんな顔してカミングアウトしようかって時に、よりによって10コも下の弟に逆にカムアウトされな

きゃなんないんだ。

 昨日からこんな事続きでは、私の心臓はきっと海乃に逢える日まで持たない!あああ……逢ったらもう死の

う!だから逢うまでは死ねないけどさ!

「綾兄がさ、そろそろ受け入れてやってって、言ったんだよね」

 綾が? 受け入れろって……私のこと?

「俺、別に女好きな変態な姉ちゃんでもいいよ。ななちゃん、うーちゃんと居る時、輝いてんもん。パパやママ

だってわかってるよ。綾兄言ってたもん。綾兄は口巧いけど誠実じゃん」

 ……今になってわかった。綾はずっと、私のカミングアウトを手伝ってくれてたんだ。

 あの姿と生き方に微塵も迷う事なく、自分なりに納得しながら生きて来たのは、セクシャルマイノリティを克

服してきてるからだもんね……傍に居て、私にだってお天道様の下で堂々と生きて欲しいと思うよね。 先に拓

実を手懐けて、私の許に寄越してくれた事に感謝した。



 ……のも、束の間。チクショー!!騙された!あいつ自分の事しか考えてなかった!うわーん!!

 今、私の前ではパパとママがおいおい泣いてるんですけどっ!

 夜になって、綾の帰りを待たずに家に帰った。久しぶりに店を手伝ってから遅い夕飯を家族揃って食べた後、

私は「話がある」と切り出した。

 が、まずママが「その前に」と口を開いた。

「七恵ちゃんは綾ちゃんと、お付き合いしてるんでしょう?もう長く……」

「……ええーとまあ広く浅くで……長いですねえ」

「のぶちゃんとも……お付き合いしてるわよね?」

 げ!何で知ってんの!?こればかりはひた隠しにしてたんだけど!

「いや、のぶとは昔からご存知の幼馴染みとして、仲良くさせては頂いてますけど、ママの期待するよう

な……」バンっ!

 ちゃぶ台を叩いて私を黙らせると、ママは涙ぐむ。

「のぶちゃんの身体を弄んでるの?七恵ちゃん」

「身体って……そんな下世話な……」

「じゃあ心を弄んでるのね?」

 グサッ!それは……ヤバい、否定出来ない。

「……はい」

 俯いて返事した。……あれ?今、そういう話しに来たんだっけ?

「やっぱりそうなの!?じゃ綾ちゃんが正式な彼氏なのね!?」

「いや、綾くんじゃないだろう?……他に誰か居るんじゃないか?好きなひととが」

 パパまで割って入って来た。

「パパ!それはズルいんじゃないの!?」

 ママがパパを小突いて……って、どこから……は綾からだろうけど、どこまでの事を両親は知っているのだ?

何か話がズレ込んでる気がするんだが……

「いやいやそうじゃなくて……あのね、誰と付き合ってるとかじゃなくて、私は……私は……」

 ええーい!めんどくせえ!!

「女が好きなの!!のぶも綾も大事だけど愛してないの!私は……海乃が好きなの!!」

 ……言っちまった……

 そして、私は両親を泣かした。

 ママはちゃぶ台に突っ伏しさめざめと、パパは腕組みしたまま目を閉じてうち震えている。

 ごめんなさい……親不孝な娘で……


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