小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「……勝ったな……ママ」

 パパが腕組みしたまま天井を見上げて呟く。その瞳があまりに遠くを見ているので、私と拓実はつい、その視

線をたどって天井を見上げる。眩い電灯がチラチラと点滅しかけていた。嗚呼そろそろ取り替え次期だ。

 ……じゃなくて。

 パシッとママが通帳と印鑑をパパの前に差し出す。

「……あの〜、私の話、聞いてます?」

 おずおずと尋ねると、パパは通帳を手に、にこやかに微笑む。まるで向日葵のようだ……

「聞いてるぞ!よく話してくれたな。パパは七恵を信じていたよ!お陰でママのへそくりゲットだ!」

「七恵ちゃんはもう少し誤魔化すかと思ったのに……意外と素直に落ちたわね……んもう!負けちゃったじゃな

い!!全く一途なんだから!!」

 私はわけが解らない!でもどうやらこの両親は、娘の一世一代の大告白をネタにへそくりを賭けていたらし

い。……信じられない。

「ねえ……待ってよ。パパもママも知ってたの?私の……そのぉ……」

 両親揃ってキョトンとした顔して頷きやがった!

「……綾から聞いた?」

「ううん。綾ちゃんを問い詰めて吐かせたの」

「でも綾くんはキチンと誠実に話してくれたぞ」

 私は全身の力が一気に抜け落ちた。

「初めはね、パパと悩んだのよ、これでも。中学生の頃からどう見ても七恵ちゃんは海ちゃんが好きじゃない?

ベタベタベタベタ……もう何かしちゃってるんじゃないかって、気が気じゃなくて……なのにそのうち海ちゃん

のお宅以外の外泊も増えて来たし……」

「ちょっと待って!どう見てもって……私、そんなだった?」

「違うの?」

「いや、違わないけど……」

 やっぱりダダ漏れてた……のぶの事バカに出来ないじゃん!つか、親ってよく見てるんだ!怖え!!

「そうしたら、そこに綾ちゃんの出現よ!」

「初めは酒を買いに来たんだが、実は……って、七恵の事を話してくれたんだよ」

 私の事って……「なななな何を!?」

「綾くん、ハザマ病院の息子さんだろ?それで海ちゃんの幼馴染みだって言うじゃないか。それで仲良くなっ

て、勉強みてやったりとか聞いて、ああそうかって」

 ……微妙にキレイにまとめられてるみたいだけど?

「でも綾ちゃんてカッコイイし、医大生でホストだって言うし……それで、思い切って七恵ちゃんの事も相談し

たの。あの娘、変態かもしれません!って」

 どういう相談だよ!?

「そうしたら『僕も変態なんです』って……」

「あれで『女です!』には驚いたけどな!綾くんは丁寧に教えてくれて、そういう生き方もあるか!って……七

恵の事も納得いったわ!お前は海ちゃんと居る時が一番いきいきしてるもんな」

 パパとママは仲もよろしく、交互に話してくれた。でも……

「理解してくれてるのは凄く感謝する……ありがとう。でもそれで何で賭けなんてしてるのよ!?」

「綾くんが海ちゃん捕まえるって……電話くれたから。こりゃいよいよだって、ママと話し合ったんだけど

な」

 ママはむくれたままだ。

「ママは……のぶスケが息子に欲しかっただけだから」

「それよ!何で、その、のぶと付き合ってるって……」

 のぶに関しては、ついゴニョゴニョと語尾が濁る。やっぱり昔からのぶを知ってる親たちには、私がしてる事

は気まずい。

「それは戸川から聞いた。いつの間にか育ちやがってお盛んだって」

 おじさんのばかっ!

「……のぶスケ、海ちゃん帰ってきたらどうするんかなあ、七恵は」

「そんなの別れるに決まってんじゃん」

 海乃のために付き合ってたんだもん。

「だから七恵がフラレちゃうだろ?海ちゃんに」

 パパ酷い!当たってるだけに酷い!それが親の言う台詞か!!

「だからママはせめて綾ちゃんと、と思って……へそくりを賭けたのよ!」

 ママ……!

 ………………ってさ、理解され過ぎてて嬉しいけど、説得力ないって!!


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