小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「海ちゃんは帰って来れるのか?」

「うん。必ず」

 パパが厳かに口にした問いに、私は自信を持って答えた。

「海ちゃんさえよければ、独りになった海ちゃんをうちの養女にしてもいいんだが……七恵どう思う?」

 養女って……同じ籍になるって事だよね……嘘!?これって、これって結婚じゃない!!

 頭の中で教会の鐘が高らかに響いた。更に、海乃のウェディングドレス姿!……ダメ。鼻血吹きそう!!

「是非っ!」

 なんて素敵な親なんだ!私はパパの手を固く握った。

「良かったぁ七恵ちゃんが賛成してくれて……これで海ちゃんがのぶちゃんと結婚したら、のぶちゃんも息子に

なるのね!」

 はあ?ママ何を?

「パパも花嫁の父が出来るし……秘かに憧れてたんだが、七恵に期待は出来ないしな」

 はあ?パパまで何を?

 ……待ってよ待ってよ、私の立場はその時点でどうなってるの?海乃は妻じゃなくて姉か?それだけなのか?

おいバカ親!!

「待てよ!うーちゃんが姉貴になるのは俺は困る!」

 今まで黙って……いや、笑いを堪えながら私たちのやり取りを眺めていた拓実が、突然憤慨した。

「どうして?拓実ちゃんだって海ちゃん大好きじゃない?お姉ちゃんになるの嬉しくないの!?」

「当たり前だ!姉弟じゃ結婚できないじゃないか!!」

 そうだ!よく言ったぞ拓実!

 なんで親の願望の為に、私は私の許に嫁いでくれた嫁を、よそ様の……しかものぶの許に嫁に出さなきゃいけ

ないのよ!?ならばいっそ当初の予定通り、友達のままでのぶに譲ってあげた方がなんぼかマシ……って、えぇ!?

拓実まで!?

「……あらやだ……こんな御目出度い席で、二人とも私欲に走ったりして……そういえば、何のお話だったかし

ら?」

 全くだとも。

 ともあれ、私のカミングアウトは、捻曲がった方向に話は飛んだが、事なきを終えたようだった。

 やっぱり綾には大感謝。

 それと……

 ねぇ海乃?貴女が今、どんな気持ちでいるのかわからないけど、辛かったり悲しかったりしてても、安心し

て。

 海乃は、こんなにこんなにこんなに、みんなから愛されてるよ。私ばっかりがムキになってたけど、みんな海

乃を待ってるから。



 あーチクショー!バカのぶめ!

 やっぱり何処に済んでるのか聞いときゃ良かった!

 海乃はきっと住んでる家を出る!せっかく見つけたのに……また逃げられちゃう!のぶの掴んだ前髪、絶対離

してなるものか!!



 夜はお風呂に入って着替えて……パパとママに断って、えぇえぇちゃんと申し送りした上で、綾の家に行くこ

とにした。

「七恵ちゃん……」

 ママが瞳を輝かせて部屋を覗いていた。

「ママね、ちょっと訊いてみたいんだけど……」

「何?」と、パタパタと身支度しながら答えた。

「ねー、綾ちゃんと……って、どういうエッチするの?」

 って、をぉい!!

 一瞬、呼吸が途絶えたぞ!

「な、何訊いてんだーっ!!こンの、バカ親ーっ!」

 私は思わず目の前にあったオウム貝を、ママめがけて投げつけた。

 って、私ったら何て事を!!アレは海乃に貰った大事な私の『真実の穴』なのにっ!

 ドゲン!

 ママがドアを閉めたので、したたか木製扉に打ち付けてしまった。

 慌てて駆け寄り、傷ついてないかを確かめていたら……オウム貝のデカイ口から何か吐き出された。

 それは2センチくらいの、くるくると巻かれた紙を赤い糸で縛ったもの。恐らく、貝の奥の方にセロハンテー

プで貼り付けてあったのだろう。黄ばんでパリパリに糊の渇いたテープが付いたままだった。ぶつけた衝撃で剥

がれ落ちたのだ。

「何?コレ?」

 ガサガサと糸を解きて、その巻物を広げた。



 ざわざわと胸の中を風が抜ける。

 海乃を失って穿たれた風穴が、じわじわと再生しようとしていた。



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