小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 ……とか思ってるけど、やっぱり嫌だ。

「綾、のぶにはもうちょっと黙ってたいな……」

「ふーん?のぶの恋人の座はキープしておきたいか?」

「ううん、そうじゃなくて……のぶとは対等な立場で、海乃に辿り着きたいから」

「今更ライバル意識剥き出したところで、既に完全に負けてると思うよ?うーちゃんはのぶを誰より愛してるか

らねい!?」

 ああもう!この大人はシレッと私にトドメを刺すことを、最早楽しんでいるとしか思えない!

「わかってる!だけど、海乃は私の為にのぶを切り捨てたんだ!本当は……絶対私からだって奪いたかったはず

だ。だから、私が行かなきゃ!……負けるのは、それからでもいいでしょう?」

 ……は、カッコ付けすぎか、わざわざ綾の前で。

「……というより、私が先に逢いたいだけ」

「だけど、先に逢えたらお前はのぶと『結婚』なんだろ!?ただの脅しとしての嘘だとしてもだ!複雑なんだよ

な……協力するのも」

 ちょっと考え込んだような綾が可愛い。やっぱりそう取るか。

「私はのぶとなんか結婚しないよ」

「だって言ったんだろ?結婚してもらうって!」

「うん。海乃とね。私、私と結婚しろなんて言ってないもの」

「何だよ?それ」

「私は『結婚してもらうからね』としか言ってないもの。のぶも綾も何焦っちゃってるわけ?海乃を誰が見つけ

るかじゃないもの……海乃はのぶと結婚するの。それだけは決まり」

 綾がホッとしたようにため息を漏らし、その場に座り込んだ。

「売られた喧嘩って、よく聞いたりしないのね。男って単純だぁねぇ?」

 チクショー!私が結婚したいわ!…………何度も言うけどね。



 仕事の方が〆切で、イライラしながら2週間、何の収穫もなく過ごしてしまった。

 途中、のぶの様子を見に店に行ったが、のぶは居なかった。喧嘩したまま、今月の時間シフトを聞いてなかっ

たのだが、のぶは大船の支店に本当にヘルプ板前に行ってしまっていた。

 恐らく、昼間は横浜をブラつきながら海乃を探してるって、寸法だろう。

 私があんまり顔を出さなかったので、店では絶賛大喧嘩中と噂されていた。確かに間違ってないし、のぶもそ

う答えたに違いない。皆、どこか腫れ物にでも触るように、私には丁寧に接してくる。

 ヒデ君なんて、自分のせいだとオロオロしっぱなしだった。だから、喧嘩はするって言ったのに……

 とどのつまりは、のぶは店でも愛されてるって事だ。それは良かったと素直に思える。

 でも、そんな事が解るより、のぶに逢えない事を私は今、寂しいと思うよ。



 綾の誘いで次の週末に、ミサオちゃんのお店まで行った。一向に捕まらないし連絡さえ来ないミサオちゃんに

痺れを切らして、遂に奇襲をかけるとの事だった。私としては横浜のお家を訪ねたかったんだけど、とにかく留

守らしいので却下された。

「お店も出てなかったんじゃないの?」

「最近は出てるらしいぞ。ただ、診療後に一度帰って、遅くに店に来るらしい」

「……なんで?」

 そんな二度手間かけなくても……そこに居ればいいのに?今までだって……

「なんかママね、ネコ……じゃないな、ウサギだったかな?……飼い始めたんだって。ご飯作って一緒にご飯食

べるのに帰るんですって」

 お店の女のコ(やっぱりオカマだが)がシェイカーから緑色のカクテルを搾り出しながら教えてくれた。

「ウサギ?……ウサギって、そんなに……ご飯作ってやるほど手間かかるの?」

「さあ?でも寂しいと死んじゃうらしいわよ」

「ハッ!死ぬわけねえだろ」

 妙にイライラした綾が、私たちの会話を鼻で笑う。

 そんな時に、夜の蝶は舞い降りる。

「おーつーかーれーちゃーん☆ア・ナ・タのミサオちゃんデスっ!」


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