「ゲッ!!リョウちゃん!?」
華麗に登場を決めたミサオちゃんなのに、綾の姿に素顔丸出しにビビっちゃって可哀想に……
「ヨぉ!操男センパイ……随分とご無沙汰」
「リョウちゃん!!今、アタシの事、漢字で呼んだでしょう?アヤちゃん!?」
「誰がアヤだ!必要な時に限って捕まらないわ連絡は来ないわで、ウサギだぁ?てめえ、何隠してやがる!?」
何!?いきなりのバトルモード!?でも綾の態度……ミサオちゃん、何か知ってるの?
「嫌ね〜オナベは気が短くて!だから胃潰瘍とかなっちゃうのよ!……何も隠してなんか居ないわよー♪今はた
だ、ウサギちゃんと心の交流を深めてるだけよ」
「じゃ、そのウサギ連れて来いや」
「ヤダわ、リョウちゃんたら。ウサギって、臆病なのよ……もう少し慣れたらね」
ミサオちゃんが何をどう知ってるのかは分からないけど、流石に医者としては先輩なんだな……綾が全然圧さ
れちゃってる。
「……ふーん?まあいい。こっちも慎重にいきたいからな。それはそうとな、ミサオに頼みがあってな」
「あーら珍しい。なあにぃー?」
「お前の叔母に会わせろ」
「おば様って誰の事?いっぱい居て分かんないワ」
「決まってんだろ。オカノコーポレーションに嫁いだ、華代ババアだよ」
え!?綾、今何て言ったの?
二人のやりとりを、色とりどりのカクテルをカパカパ空けながら、ワケも分からず夫婦漫才でも見るように聞
いてたけど……いきなりキタよ!?知った名前が!?欲しいネタが!!
……て言うか、叔母!?
「ちょちょちょちょちょっと?ミサオちゃんとオカノって……親戚なの?」
ミサオちゃんはツンと微笑みながらカウンター中に入って行った。
綾は……何だか酷く苛ついた様子で、ミサオちゃんから視線を外そうとしない。
「うーちゃんが婚約してたオカノは、たぶん、関東一円の不動産を手掛けるオカノコーポレーションの御曹司
だ。まぁ不動産には関わってないようだから、三男あたりじゃないか?」
げ!和くんさん、お坊っちゃまかよ!?ちかちゃん超玉の輿!?……海乃に悪いコトしたかな……?
「オカノを一大財閥にの仕立て上げたのは、関東一の建設業を担う極道一家から嫁いだ華代夫人だ。ミサオはそ
の華代夫人の甥だ」
「しっつれいね!姪よ」
え……てことは……
「なんてコト言ってるオカマだから、極道ん家からは勘当だよ。医者にはさせてもらえたがな」
ひー!!やっぱりぃ〜?極道さん家の若ですかいな!?
「あら。アタシにとっては良かったわよー。あんな男臭い所!!でも未だに実家絡みの患者は多いのよ。でもみん
な『お嬢!』って呼んでくれるから悪い気しなくてね……だけど、昔はそっち絡みで銃やら刀やらの傷の手当て
に、闇医者扱いで呼ばれるから、心療内科で開業して逃げたの」
にこやかに解説してくれたけど……何か、凄い世界だ!
でもなるほど、そうか。そんな家のボンボンが事故起こしたんなら……人ひとりの人生を葬るくらいわけない
か……でもさ!そんなボンをフッてたら……まさか海乃、ホントに葬られてないよね!?
「横浜でオカノっちゃ、まずはそこからだろ?そしたらミサオに訊くのが早いと思ってな」
「……そんなにリョウちゃんは初恋の君が大切なの?」
「俺じゃない。七恵がな」
二人同時に私を見た。
な……何だか酷く緊迫した空気が……
う、うううん、確かに私は大切!私は小さくコクコクと頭を縦に振ってみせた。
「……わかったわ。岡野夫人に連絡してみてあげる。でも、何も出てこないかもしれないわよ!?」
「それくらいは、了承の上だ」
ミサオちゃんはカウンターから、奥の事務所に姿を消した。
医学界と水商売を又にかける二人の『人捜し』って……出版業界なんて目じゃないな。
おそるおそる綾を振り返ると、口許に笑みがこぼれていた。
「七恵。もうちょっとしたらさ、ミサオん家のウサギ、見に行こうな」
綾は笑っていた。
……ウサギ?……って、綾が動物好きなんて、初めて聞いたんだけど……?