小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「……ねえ、フツウここまで、やる?」

「七恵は持ってないの?うーちゃんボックス」

「……」

 いえ、確かに持ってます。ここまで細かくないとは思うけど……

 うん、そう、のぶにとっても、宝物なんだよな……



 そんな宴も酣[たけ]なわな頃、アパートの外階段をカツンと踏みしめる音を聞いた。

 ヤバい!のぶだ!……って、ヤバいのは私じゃなくて綾だ!!

「ばかー!だから言ったじゃない!綾出てってよー」

「いいじゃん別に、知らない仲じゃないし、カムすんだろ?」

 ……にしても、不法侵入!!一段一段、階段を上る靴音が近付く!!

「隠れてよバカーっ!」

 私は慌てて部屋のユニットバスに綾を押し込んだ。そう、靴も忘れずに!

 ガラッと流し上の窓が開いて、のぶが顔を覗かせた。

「やっぱりお前か、七恵。ドア開けろよ」

 間一髪だ!綾の痕跡の無いことを確認してから、ドアを開けた。

「おかえり、のぶ」

「何でまた勝手に来てんだよ……まさか、お前海乃を……!?」

 靴を脱ぎながら、私を強い眼差しで睨んで来た。

「それはまだよ。今日は別件で来たの」

 両手を挙げて、丸腰を主張。のぶは小さく「なんだ」と唱えながら私の横を通り過ぎたところで、ボトリと鈍

い音を立てて車のキーが落ちた……のかな?

「…………見た?」

 その声に振り返ると、ワナワナと震えるのぶの後ろ姿と……めいっぱい、引っ張り出された引き出しが……う

ひゃーん!!出しっぱだったよー!!綾のバカ!

「ご、ごちそうさま」

 のぶはゆっくり引き出しを閉めて、真っ赤な顔で振り返った。

「今日は何の用で来た?アイツ見つけてもねえのに来んじゃねえよ!」

 かなり不機嫌な声で言う。でもねでもね、教えてくれたのはヤスなの、ヤス!とりあえず、ポケットから例の

横浜のホテルのライターを出して渡す。

「ごめん。こないだうっかり持って帰っちゃって……」

 あのメモリーボックスを見る限り、綾が言うように、血眼になってこのライターを探したに違いない。だって

このライターは、海乃とのぶの愛の軌跡を見てきた生き証人だものね……って以前に生きちゃいないが。

 のぶは目を見張り、私の手からライターを受け取ると、電灯に透かすようにしてライターを眺めてから、私に

冷めた瞳を投げかける。

「……お前、ここ行ったのか?」

「え!?」ギクリとした。何で?

「俺のこいつはガスの量が半分くらいだったはずなんだが……増えてんのはどういう了見だろう?」

 そっとポケットに手を入れてみたら……ゴロっともう1個入っているのを発覚。ああ、そうだともさ!そっち

はちょいと前に、私がそのホテルから頂戴してきた、私と綾の愛……があるのかはちょっと疑問な軌跡を見てき

た方のライターだった。しまった!……ていうか、使い捨てライターのガスの量とか覚えてるなよ!!

 のぶはズイと私に詰め寄った。

「あのさ七恵、俺はお前と付き合いながらずっとずっと思ってたんだがさ……」

 ……ヤバい。こいつ、何を言おうとしてる?いや、もうこれは何を言われても私には不利なんじゃないかと思

われるんだが……ああ、嫌な予感の胸騒ぎ。

「お前、別に俺の事、好きじゃねえだろ?男としてさ。もしかすると、昔からずっと…………そうだろ?それど

ころか、俺には浮気すんなとか言いながら、お前、男いるだろ?いるよな?俺と寝た後は絶対そいつと逢ってる

だろ?なあ?」

 鼻先が触れそうなほど目の前で、綺麗なだけの顔寄せてさ……ちょっと待てよ、のぶさんよぉ!?今更そこまで

言い当てられたら、私はぐうの音も出ませんです。ですが、今はそんな事を弁解するより……って、誤魔化しき

れないかなあ?

 その時、あろう事かバスルームの扉がカチャリと開いたりした。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。こんばんは。七恵の間男です」

 忘れかけてた隠し玉が、ご丁寧にグラサンかけて出てきやがった!
 


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