小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「な……んだと……?」

 いやもう、畳みかかる謎解きにいっぱいいっぱいののぶを見てるのは忍びなかったが、私も何て切り出してい

いのかわかんなかったから……とりあえず、綾にお任せの方向で、二人のやり取りを拝ませてもらう事にしよ

う。

「だから言ってんじゃないか。俺の女に次から次へと手を出してんなって……うーちゃんにしろ七恵にしろ」

「ちょっと!勝手に海乃と私を綾の女に数えないでよ!」

 やっぱり任せてはおけない!

「ちょっと待てよ!うーちゃんて、海乃かよ!?拓実みたいな呼び方してんじゃねーよ!つか、てめえの女かよ!?

七恵はまだしも」

 おいこら!私を『まだしも』でまとめんな!!

「羨ましいか!うーちゃんうーちゃんうーちゃん!!」

「……てめえ!……殺す!!」

 ……何の喧嘩だよ?こいつら……

「うーちゃんが5歳の時に、入院中に家に帰りたいって言った事があった。あまり騒ぐから、俺が陽に当たらな

いように服を貸して、外に出してやったら……迷子になってお前の家に保護された。お前はあの時うーちゃんに

何した?キスとかしたろ!?帰って来た後、嬉しそうに『王子様に会った』って言われたぞ!あれ以来うーちゃん

の心はお前の所に行きっぱなしだ!!お前が俺から盗っていったんじゃないか!」

 ちょっと綾、それ知ってたんだ……と言うか、逆恨みじゃない?それ。

「……待てよ、先輩……それ何の話だよ?」

 綾は私が持ち寄った紙袋から、海乃のアルバムを取り出してのぶの前に開いて見せた。

「この娘……!!」

「隣にいつも写ってるのが俺だ。羨ましいか!」

「羨まし……違ぇよ!……この娘が……海乃かよ!?」

「何だよ。お前はそれもわかってなかったのか。うーちゃんは……いろんな事を懸命に背負って来てんだ!戸

川、俺と七恵は、お前にそれが背負えるか、うーちゃんの丸ごとを背負っていけんのかを聞きに来たんだ」

 ……綾、私は確かにそれをしに来たが、アンタはただ面白がってついてきただけじゃない……何カッコつけて

んだか……。ていうか、『七恵の間男』で登場したヤツが何で海乃争奪戦に加わってんのよ!?恐るべし初恋パワ

ー!……ホント男は面倒臭い!って、女だろ!?

「じゃあ……いつだったか七恵が書いてきたって話は、アイツから聞いてたのか?」

 のぶが今にも泣きそうな顔で私を見る。……汚ない!この仔犬顔で泣きつけばどんな女も落ちるって……のぶ

はわかってないから質が悪い!

 私は持ってきた特大紙袋をドンとのぶの前に置いた。中には海乃が書きためた物語ノートが入っている。

「あの話は海乃に聞いたんじゃない。そのアルバムもこのノートも、海乃の家から私が勝手に持って来て、それ

で知ったの。あの話も今までの他の話も、書いたのは海乃よ。海乃はずっとアンタばっかり想って生きて来たの

よ」

「…………!」

 のぶは開きかけた口をつぐんだ。

「別に戸川はわかんなくていいよ。俺らが知ってるから」

 おいおい、綾ってば何を言い出すんだ!?

「な……!?何スか、それ!?俺にはアイツを養えないとでも言いたいんスか!?」

「ああそうだよ!知ったような口ばっかききやがって!」

「先輩よか知ってる事もあると思いますけどね!俺、アイツから幼馴染みの話なんて一度も聞いた事ないんスけ

ど!」

 うんうん。だって海乃は綾が嫌いらしいからね。私も聞いた事ないわ。

「俺らの間柄は人に言いふらせないような事ばっかりだからな!あんな事やこんな事やはとても言えないからな

あ?」 

 いやいや、綾の思い出はそりゃ言えないわ。一方的に綾が悪いし……

「白騎士がまともな事するわけないスよねえ?」

「キスしたくらいで舞い上がってんじゃないぞ!金猿が!」

 ……こいつら何の喧嘩してんのよ?

 埒が明かないので流石に止めに入る事にした。

「ロープ、ロープ、ロープ」ゴングを鳴らして。



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