「ちょっと止めてもらえる?二人が海乃を大好きなのはわかったけど、海乃が好きなのはのぶなのよ、腹立たし
い事にね……」
視界の隅にちょっと誇らしげに照れた顔したのぶを捉えた。
「そこの猿!!いい気にならない!だいたいのぶが好かれてるって、胡座かいてちんたらやってんのが悪いのよ!
だから、私が……」
ヤバい……涙が込み上げて来た。ここは泣く所じゃない!
「アルバムと海乃の物語ノート、それから……私が解る限りの海乃に関する事をまとめたから……ちゃんと読ん
で理解して……ちょっとでも……ちょっとでも厳しいと思うなら、もう海乃の事は探さないで。逢おうと思わな
いで……忘れてちょうだい」
のぶはしゃがみこんで私の顔を覗き込むと、頭をぐしゃぐしゃーと撫でた。
「俺のためにそこまでしてくれたのか……悪いな。何か、いろいろあって驚いたけど……アイツの事は俺は全部
受け止めっから……ごめんな、七恵」
……って、プチ切れした、私は。
「……私は、のぶのためにやったんじゃない……私は、私のためにやっただけ!!」
のぶはキョトンとしてから眉をしかめる。
「ごめん。やっぱりお前は俺の事、本気で好きだったのか……だよな、昔っからいつも、俺と海乃のジャマばっ
かしてたもんな……」
ば……ばっかじゃねぇ?と言いかけた時、綾が後ろから私の身体を包んで来た。
「七恵は自分の人生を全部うーちゃんのためだけに使ってんだよ」
それで更にまたプチ切れた。それでもプチよプチ!
「うっさーい!くっつくな!!間男のくせに!」
くっついてきた綾を払いのけて立ち上がる。
「そうじゃない!海乃のためでもない!!ただ……海乃がアンタを好きだったから……」
ホントに涙がこぼれてきた。悔しい!でももう嘘ついてられない。もう止まらない!
「だからのぶに好きだって告白した!海乃は私がのぶを好きだと思ってた……でも私がのぶとくっつけば、私を
通して自分も少しは近くに居られるって言ってたから……のぶを他の誰かになんかやりたくなかったんだ!彼女
志願したのもそう!海乃の代わりになるって言ったのもそう!アンタが他の女を想うなんて我慢出来なかった!
アンタはすぐにチョロチョロチョロチョロ女と遊ぶから!!アンタだけを想い続ける海乃を忘れるなんて許せなか
った!!どんな手を使ってでも、アンタを捕まえておきたかったんだ!!」
「七恵、お前……」
のぶが信じ難いって顔で立ち上がって手を伸ばすが、私はその手を払った。
「さわるな!バカみたいに安心しやがって……!!私はずっと海乃を探したんだ!仕事だって……海乃が気がつい
てくれるかと思って出版に行った!あの娘の書いた物を世に出すためだけに!!……そんなうまくは行かなかった
けど……」
「仕事って……だから七恵……何でそこまで……」
……ブチ切れた。プチ、ではない、ブチだブチッ!!
「決まってんじゃない!!好きだからよ!私が好きなのは、綾でもなければのぶでもないわ!!私が好きなのは……
愛してるのは、海乃よ!!!!」
有らん限りの声でのぶの真正面に言い放った!……バカか私は!?
のぶは仔犬のような可愛い瞳を丸く大きく、夜の猫のように見開いた。
「え!?……えええええええええええーっ!?」
そう長く息を吸い込んで叫んで一歩怯むと、その場で崩れコケた。……驚き過ぎだ!ばかっ!!
「わかってるわよ!!どんなに想ったって叶わない事くらい!どんなに傍に居たって友達以上になんてなれない!
女同士なんだから!!でも好きなのよ!どうにもならないの!!キスしたいし抱きたいし結婚したいわよ!だけど何
一つ出来ないのよ!!わかる!?わかんないでしょ!?邪魔だってするわよ!アンタになんてあげたくないもの!だけ
ど!だけど……海乃はのぶが好きなのよ……うあーん!」
天井に向かって、私は子供のように泣いていた。