小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



 綾から連絡があったのは、あれから9日も経ってからだった。

 珍しく私の家に行くとだけ言って、電話を切った。

 私は、待っているだけの9日間など、出来るはずもなく、のこのこ横浜まで出向いた。しかし、ミサオちゃ

んの家を知らない私は途方に暮れて、先日聞いたばかりの晴香の家に電話して、何故だか晴香とご飯を食べ

た。

 私が岡野を殴り飛ばした話に喜んで、弟くんに電話までして、その後の岡野の様子まで聞いていた。

 岡野は、歌舞伎町でぶつかったチンピラに因縁つけられて殴らせたと騙ったらしい。……私はチンピラか

よ!

 東京までは車を出して送ってくれた。夜も遅くなったので、お嬢ちゃんは旦那さんに預けて。挨拶だけだっ

たがお会いした旦那さんは、凄く普通のサラリーマンで、綾やのぶみたいにホスト臭が全くしない人で、先ず

はそこに驚いた。

 だけどもっと驚いたのは晴香の行動力で、深夜に立ち寄ったサービスエリアのトイレで、まんまと襲われ

た!右手負傷中だと思ってーッ!でもホントは私、両利きだからいくらでも抵抗出来たんだけど……近付いて

囁かれちゃうと海乃とダブっちゃって、いいようにさせちゃったよ!うううう……ごめん。海乃。やっと逢え

るかって時に、穢れた私で。ついでに、勢い余って穢したら……ごめん。



 家で綾が来るのを大人しく待っていた。

 何だか知らないけど、パパとママと拓実まで待っていた。

「ごめんな、会ってきちゃった。うーちゃんに」

 家に来た第一声がそれだ!……って、

「なんだそれーっ!?」

 私の心を読んだかのように、叫んだのは拓実だった。まあ、私の叫びを代弁してくれたから、私は拓実を制

して綾に近寄った。

「……海乃、元気だった?」

「うん」

 綾は静かに微笑んだ。

「……死なせずに逢えたのね」

「いや、逢ったその場で切腹されたよ」

「うそっ!?」

「嘘だよ。つか、うーちゃん覚えてなかったよ。『死んでやる!』も……嫌いになった原因も」

 今度は照れたようにはにかむように笑った。

 ……やっぱり腹が立つ、この男。いや、女。

 だけど、9日前より易しい顔をしている気さえするよ。

「よかったね」

「でもな……お前、負けたぞ。のぶに」

 はあ!?どういう意味?

「のぶは……うーちゃんと逢ってやがった!」

 ええええーっ!?や……やっぱり、海乃がのぶに?でもそれなら仕方ないか……。

 ガタリ!パパとママが驚愕の表情で立ち上がった。な……何?パパは真っ直ぐ電話へ向かい、短縮ダイヤル

2番を……2番?それ『とがわ』じゃない?のぶの家に何を……!?

「おー!マサかい?ヤラレタ!お前さんの勝ちだ!のぶスケがリードしてたわ……ああ、わあったよ。ちゃん

と払うよ〜わあった。越の寒梅も付けたるわ」

 ママはため息をついて、私を睨む。

「もう……七恵ちゃんたら、情けないわね!」

 ……って、アンタらまた娘をネタに賭けてたのか!!信じられない!もう……親替えたい……いや、それよ

り!

「じゃあ、海乃とのぶは一緒に居るの?」

 綾はニヤニヤ笑いながら、首を振る。

「いや。あのバカは酔い潰れてて、うーちゃんに逢えた記憶はない。ミサオに介抱されて、良い夢見たなって

帰ったらしいぞ?」

 それからパパたちに向かって「というわけで、今回はドローで!」とウィンクを投げかけた。

 パパとママがハイタッチして小躍りを続ける中、綾は早々に立ち上がる。

「行くか?」

 綾の差し出す手を握り返して、私は大きく頷いた。

 私が立ち上がったその時、繋いだ手に拓実が手のひらを重ねた。

「ナナちゃん、俺、楽しみに待ってるよ。ねーちゃんが二人になって帰って来るの」

 私は、思いっきり歯を見せて、ニッと笑って親指を立てた。


-123-
Copyright ©魚庵(ととあん) All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える