小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 そうなのだ……

 好き合って、共に生きようと夫婦になれば、子供を欲しがって当然だと思う。同性婚なら諦めるしかなくと

も、のぶと海乃は男と女だもの……だけど、海乃にはそれが叶わない……だからだから、その気持ちは解るよ!

だからそれを私に頼む気持ちも解る……だって私と海乃だって共に生きようって……って……え、やだ、私と海

乃もそうってこと?やだ、ちょっと嬉しい!マジ!?今更だけどいいのかな?うん、嘘でも一時の気の迷いでもい

いの!そんな現実が私の中に、一瞬でも海乃と共にあれば、私はそれで本望だ。

 いや、ホラだから、いいんだ、海乃のために子供を産むなんて何でもない。

 ……いや待て私!取り乱し過ぎだ!そうじゃない!そうなんだけど……それだけじゃ済まない……

 だって……のぶと私も、男と女なんだよ……

「わかってるよ」

 海乃が微笑む。

 やめて。三人で結婚生活してゆくのは認められるけど、そこでのぶと私だけに夫婦みたいな事させないで。私

が一緒になるのはあくまで海乃なの。それはのぶにしたって同じはず。

「わかってないのは七恵の方だよ」

「どうしてよ!だってそんな、のぶと……」

 海乃が人差し指を立てて、私の唇を制する。

「わたしはのぶと一緒になるのよ。心も身体も。だから、七恵に産んで欲しいのは、わたしの子供よ」

 頭の後ろで、季節外れの大輪の花火が弾けた。

 ……ワタシトウミノノコドモ……

「うん。産む」

 理屈とか戸惑いとか、一気にぶっ飛んで、私の中では一発で心が決まった。

「ほんとう!?ありがとう!七恵」

 涙ながらに抱きついて来る愛しのハニー……でも、

「こらー!七恵、コロッと騙されてんじゃねーぞ!」

 歴代の間男・綾が叫んだ。

「この女は世紀の嘘つきだぞ!?お前、利用されてるだけだぞ!」

「酷い!あーちゃん!わたしは七恵を愛してるもん!」

 海乃がすかさず喰ってかかるが……嘘でもいいからもう一回言って!

「俺はお前を子供の時から見てんだ!どれだけ無茶やらかす気だ!?」

 綾も相当頭に血が上ってるな……私はため息が出てしまう。

「……綾、煩いよ。利用されてて何が悪いの?いちばん理想的な家族が作れるって私は思えてるんだけど?……

それでも納得がいかないんなら、どうせハザマ病院にかかるんだろうから、海乃の細胞に移植してよ。卵子サン

プルあるんでしょ?私が産むから」

 綾は苦い顔をした。

「うーちゃんの細胞なら身体中のサンプルがあるよ、確かに。でも、卵子の冷凍保存は生憎出来ない」

「じゃあ卵子じゃなくていいから、実験で構わないから遺伝子いじってよ!海乃の子供、産ませてあげて

よ!」

「それはダメ」

 制したのは海乃自身だった。

「わたしの遺伝子は使えない。みすみす片端の血なんて……」

「海乃ちゃん、もういい!」

 今にも泣きそうな海乃を、ミサオちゃんが抱きしめた。

 海乃の気持ちを初めて全部受け止めて、私は口を噤んだ。

「うーちゃんの気持ちが解らないわけじゃないよ……別に俺じゃなくていいんだ。だけど、七恵まで使うな」

 綾が静かに訴えた。……って、何かそれって……

「……あーちゃん……」

 ぱちくりと目を見張り、海乃が身を乗り出した。

「……七恵が好きなのね?」

 珍しく綾が私の事で赤面した!

「悪いか!!せっかくお前にフラレると思ってたら……ったく!俺はうーちゃんには幸せになってもらいたいけ

ど……七恵は幸せにしたいんだ!」

 ……何か、何だか……私、モテてるみたいじゃないの……嬉しいけど……なんて不謹慎かしら……

「……」

 海乃が黙って綾を見つめる。

「……何だよ?何か言いたい事あるなら言えよ」

 未だ赤い顔した綾に、ニヤリと笑みを投げかけて、海乃は笑顔で言い放った。

「ざまあみろ!!」



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