その場にいた全員が息を飲んだが、いちばん初めにミサオちゃんが沈黙を破って吹き出した。
続いて綾が目を伏せたまま笑い出した。そのままお腹を抱えて涙を流して笑い、真ん中に寄せて置いてある、
のぶ作の折りを跨いで海乃の前に腰を下ろすと……キスした!ぎゃーっ!!
仰天する私をよそに、綾は海乃を抱きしめる。慈しむように。
「強くなったなあ……うーちゃん。いつの間にか、ちゃんと人を愛せるようになったじゃん……のぶはもとよ
り、七恵も愛してんだ。それなら俺は安心だ」
応えるように海乃も手を添える。
「……あーちゃん、ありがとう。七恵の事ものぶの事も。あーちゃんが居たから、みんなとまた逢えたのよ
ね……あーちゃんはいつまでもわたしのお兄ちゃんよ」
「……王子様だって!」
ちょっと泣けそうないい場面なんだろうけど、私は海乃を抱きしめたままの綾の顔に近づいた。
「取り込み中に何ですが、何!?私を好きなような事言っといて、舌の根も乾かぬうちに私の女に手を付けるよう
な事をサクサクとやってんじゃないわよ!!」
海乃がクスクスと笑い出した。
「俺はうーちゃん姫のお兄ちゃん王子だけど、七恵の永遠の間男でもあるから。ずっと愛してんぞ!!」
綾は海乃を離し、でももう一度私の肩も一緒に抱いた。
「仕方ないから認めてやる。七恵の子供は俺がきっちりとり上げてやるから、安心して家庭を築け!」
ミサオちゃんが涙ぐみながら笑った。
「リョウちゃん産科の知識も資格もないじゃない。アタシが行くわよ、その時は!」
泣きたいのは私だ……
私は……周りにいるみんなが好きだった。本当はみんながみんな欲しかった。だけどそんなこと、許されない
事だから……私は全てを海乃に託した。貴女を愛した事を誇りにしながら、貴女に想いを注ぎこんだ。
なのに海乃は許してくれた。愛してくれる。
オウム貝に流し込んだ想いを、嘘ではなく本当の事にして私に返してくれる。
『このオウム貝は、本当の事を嘘にして吐き出す、伝説のオウム貝なのよ』
……稀代の嘘つきめ!
海乃を想う十年は長くなかったよ。この先、十年、二十年、もっともっと先までの時間を共に居られる事を思
えば、それこそそれは瞬きする間に星まで光が届く一瞬の刹那。
私は……私は、報われたんだ。
ありがとう……心から言える。
「七恵、のぶより先に新婚初夜だ!絶対キメろよ!!」
こっそり耳打ちしてきた綾に対して私は誓った。
てめえはいつか絶対殺ス!!