「……な、なえ……」
海乃が小さく声を漏らす度に頭の先から爪先まで痺れる。
本当に愛してる人を抱くって、こんなに気持ちいいものなんだ……でももう、これきりでいい……
「海乃……愛してる……大丈夫だよ、大丈夫……」
だから……
ゴトッ……ガサガサガサ……
……調子よくコトに及んでるって時に……
「……七恵?」
急に手を止めて壁を睨み付ける私を、不審に思ったのか、海乃が熱っぽい瞳を潤ませたまま声をかける。……
こんなに可愛いのにっ!
「シーッ……ちょっとだけごめんね、待ってて」
私は枕元に置いていたオウム貝を、壁に向かって思いきり投げつけて叫んだ。
「てめーら!コソコソ盗み聞きしてんじゃねえ!!」
壁の向こう側でバタバタと音が響く。
……言わずと知れた綾とミサオちゃんが、聞き耳を立てて壁にへばりついていたに違いない!……まったく!!
ジャマしやがって!
腹の虫が治まらず、私は壁まで歩み寄り、したたか壁を蹴りあげた。
壁の向こう側からバカ共が騒ぐ。
「ヤダもう、七恵ちゃんたら夜中に乱暴なんだから!……ちゃんと優しくしてるの!?」
「新婚初夜くらいビシッと決めろよ!」
……この、性別詐称者共が……!!ただのオヤジじゃないか!?
「その初夜に茶々入れてんのは、どこのどいつだ!?」ドゲン!
もう一度壁を蹴る。
「ちょっとイイ声が聞こえたけど――ヤッたか!?七恵!!」
嬉しそうに綾が、壁を小刻みに叩きながら言う。
「うるっせーっ!!こンの下劣な男共め!」
壁を向こうでミサオちゃんが泣いた。……男扱いした事は明日謝るとして。
静かになった壁に向けて、中指立てて声にならない心の声で、ご報告。
「ヤらせて頂きました!」
……いつぞやはご指導賜りありがとう、綾。
気を取り直して、いそいそと海乃のもとへ戻る。
「ごめんね……大事な時に。続き……」
覗き込んだ海乃は……眠っていた。私に乱されてあられもない姿のまま、すやすやと…………って、おい
っ!
よくこの状況下で眠れるなあ!?
寝ている海乃の唇にキスする……チュゥ……起きない。
首筋にキスする……チュゥ……起きない。
はだけた胸にキスする……チュパ……起きない。
知ってたよ……一度眠ったら何しても起きないことくらい。
薄明かりの中、お腹の傷を見た。……本当は大したことなくない……痛かったろう、辛かったろう……。
だけど……これが海乃の命の代償なら、何でもない。
「のぶと七恵の方が、ずっとずっとわたしの命に近いわ!」
私が海乃に「恋に落ちた」とその想いを覚えた時、海乃はそう言った。
のぶと私は、あの日から海乃の命にいちばん近い所にいつも居たはずだった。
あの日から……私たちは何も変わってなんか、いないのだ……
そして私は小さくため息をついた。
海乃の、中途半端にずり下げたパンツをきちんと履かせ、パジャマの前を合わせてボタンを止めた。
「……何も変わってないのよね、私も……」
……結局、最後までできなかった……
「海乃……海乃……」
やっぱり読んでも起きない貴女を、私はよいしょと抱き抱えて、狭い布団にふたりで納まる。
折れない程度にぎゅうっと抱きしめる。
やっと……やっと、私の女。もう離さない。ずっとずっと一緒に居よう……
「あ」
海乃を抱いて、眠りに就こうとしたその時、不意にのぶの事を思い出した。
「……電話とかするの忘れてた」
きっとヤキモキして、ポケベルとか、掛けまくってたんだろうな……見てもないけど……。
まあいいよね、明日行けば。
どうせ、これからもう、ずっと一緒に居るんだから……
……先に、海乃いただいちゃって、ごめん!
どうせ、これからもう、アンタのものでもあるから……いいよね?
両手に溢れんばかりの花を抱いて、私は眠りに就いた。