小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「……俺が海乃を嫁さんにしていいの?」

 のぶが尻尾を振った……犬みたいに。

「じゃ、問題ないじゃん!海乃どこ?」

 いきなり外に出ようとするのぶの手を両手で抑えて止めた。

「まだ!話は済んでない」

「何で?まだ何かあんのか?……七恵、何赤い顔してんだ?」

 嘘!?赤い!?……だってそりゃ言いにくい……

「……海乃にさ、望まれて私、うんって返事しちゃったンだけど……それ、私ひとりで決めるのもどうかな……

って」

 ついモジモジしてしまうが、私のキャラじゃなくてイラつく!

「何を?海乃の願いなら叶えたいんだろ?アイツあんまり望まないじゃん?何が?……てか早く言えよ!バカな

な!!」

 あー!腹立つなあ!!

「私に!海乃とアンタの子供産んで欲しいって!」

「はぁあああぁぁ!?……それマジ?」

「マジ!!でも、それって借り腹とか体外受精とかじゃ済まないんだよ?それって……」

 のぶが真顔で私の肩を掴む。やだな、ドキッとしちゃうじゃない。

「わかってるよ。そうじゃなくて、マジに俺と海乃の子供産んでくれんの?七恵が」

「……出来れば海乃オンリーが望ましかったけど、のぶは海乃の一部だもん……だけど、それってだから、つま

りまた……って、のぶ!?」

 驚いた。のぶが私を抱きしめた!きつく優しく……って、こういう力加減はあまり慣れてないと言うか……

「マジ嬉しい」肩越しにのぶの声が響く。

「家族、作れんじゃん。俺と海乃と七恵で、家族になれんじゃん」

 不覚にも涙が出そうになる。

「……いいの?だって……」

 身体を離したのぶが、私みたいな照れた様子もなく、私を見返す。

「何を今更。お前、俺と何回ヤって来てんだよ?付き合ってどんだけだ?2年……半くらいか?で、だいたい週

2くらいヤってたよな?……とすると、100……200いや300回くらい?」

「な……何を計算してんのよーっ!?」

「海乃だってわかって言ってんだろ?安心しろ!お前の身体は、性感帯から排卵日まで全部知り尽くしてるか

ら、一発で決めてやる!」

「そういう問題かっ!?」

 私はのぶの腹をしたたか蹴り飛ばした。

 だって、屈辱だわ!人がどんな想いを抱えながら、サルと寝てきたと思ってんのよ!?チクショウ!ビアンの身

体を知ったように言ってんじゃないよ!……ったく……!!恥ずかしいったらない!

「……いってぇ。乱暴だな、お前は……でもさ、やっぱりそういう事だったろ?うさぎとかめとつるは、末永く

幸せに暮らすんだって」

 お腹を擦りながら笑ってのぶは立ち上がる。

 敵わないなあ……運命の赤い糸を繋ぐふたりには。何の疑問も抵抗もなく、ハチャメチャ男はハチャメチャ女

に辿り着く。

『のぶが嫌がるはずがない』海乃の根拠のないのに自信に満ちた言葉が裏付けられる。まるで綿密に話し合った

ように、同じ場所に辿り着く。本当に、私はこいつらが愛しいよ!

「海乃……階段の下で待ってる。寒いのに……のぶの住んでる家を外から見たいんだって。呼んでくる」

「いいよ、俺が行く!」

 のぶが顔中を笑顔にして、ジャケットに腕を通す。

「指環買った?」

「買った」ジャケットの右のポケットから、紅いビロード張りの小さなケースを見せる。

「……ね。オウム貝のピアスって持ってない?」

 私は髪を掻き上げて、海乃との約束のノーチラスピアスを見せた。のぶは目を見張った。

「……それ!七恵が放り込んだのかよ!?その気持ち悪いピアス!かわりに海乃の真珠のイヤリング持ってった

ろ?返せ!」

 ポケットから揃いのノーチラスを摘まんで突き出した。あったあった♪私はそれを摘まみ取った。

「気持ち悪いなんて失礼な!それを入れたのは、海乃。私が同じのを持っていたのは偶然。でも、だから、導か

れたんだよ……これは私と海乃の約束のエンゲージピアスなんだけど……のぶにも着けてあげよう!開けてたよ

ね?穴」

「ああ……片ピだけど……いや、どうして海乃!?え!?いつ!どこで?」

 ガタガタ言ってる間に、左耳に穿たれたピアスホールに揃いのピアスを嵌めてやった。

「それは海乃に聞いてね。海乃の前髪、いつもアンタはちゃんと掴めてるんだからさ!さあ!行って来い!」

 私はのぶの背中を押した。

 ドアの前でのぶが振り返った。

「七恵!」

 ジャケットの左ポケットから、何か取り出して投げて寄越した。



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