彼はスカートから抜き出した指をペロリと舐める……って、それ!
「そんなの舐めたら汚ないですよ!」
べちっ!!
いきなりデコピンを喰らった。
「この程度を汚ないとか言えちゃうガキがセックスしたがんじゃないよ」
額を押さえて「だって」と俯く。
「ちょっと触って感じちゃうような身体は、感度がいいわけじゃないよ。ヤりたいから脳ミソが指令出して感
じるんだ。だからね、全くその気がないと脳ミソが身体についてかない。そうでしょ?例えばさ……ホントは
そういうコトしたいような好きなコ、いるんじゃない?」
私の中でぐるぐる渦巻いたイライラを、この人はほどいてくれるかもしれない。……知らない人なのに?知
らない人だから。私は糸口を彼に預けた。
「うん。私、好きなコがいる。でも友達だよ。そのコには好きなコがいて、その好きなコはそのコが好きなん
だ。でも私は二人がくっつくのが面白くない。私は二人ともと仲がいいし大好きだから……自分だけ居場所が
なくなるのは嫌なの。そのコが好きだし……苦しくなるくらい好きだし、でもそのコが好きなコは私の幼馴染
みでずっと近くにいて……そのコが好きなのがわかればわかるほど、泣きたくなるんだ。私は……そのコが好
きなコも好きなのかもしれない……誰が好きなのか、ホントに好きなのか……」
不思議だった。ポロポロほどけていく。自分がイラついてること、苦しんでいること……私はそんな風に思
っていたんだ。自分で自分に言い聞かされた。
一緒にボロボロ泣けてきた。ボロボロボロボロ知らないチャラいホストを前に、泣いていた。
「じゃ、何でヤりたくもないセックスをしようとしたの?」
「それは……そのコを好きな幼馴染みが、誰とでもヤるから……でもそのコには好きだとも言えないんだよ。
でもヤりたいんだと思うみんなと同じように。だけど、それを言ってしまって、私は幼馴染みを傷つけた……
自分が嫌になった……それが、どれだけの事なのかって……」
ピンクの彼は、私の頭をポンポン叩いた。
「あ……ごめん。今の話じゃ全然わからないよね?」
「いや、解ったよ。丸解り。今の制服ちゃんの話の中には答えが隠れてるよ。大丈夫だよ、そのうち答えは見
つかるよ……同じ匂いがするしね」
……匂い?
私は周りをクンクンと嗅いでみたけど、さっぱりわからなかった。
その時、カーテンで隔てただけの隣の個室から聞こえた馴染み深い名前に、私は聞き耳を立てた。
「そういやノブのヤツ、2年になったら、普通の13歳に落ちぶれたって聞いたけど、どうなんだよ?」
「あー……何とか言う女子と仲良くやってるみたいでさあ……すっかり腑抜けたよ」
……それは私か?それとも橘?
ピンクのチャラ男、略してチャラピン(仮)が私をつついてカーテンを指差す。私は「しぃッ!」と指を立てた。
バスケ部の先輩たちだ……のぶを陥れた連中だ。
「……あいつ使えっからよぉ……また呼べねぇか?あいつに女、連れてこさせるわ」
「それ、イケるんじゃん?アタシが教えてやったからね〜……つか、あいつマジスゲーから……ホイホイ釣れ
るぜ、女。ヘルスにでも売んでしょ?儲かるじゃん」
「おうよ。二十歳までに稼いどかねえと、捕まっちまうからな。使えるヤツは使っとかねえとな」
……待ってよ……何の話よ?……のぶに何させる気だよ……
「お前、一発ヤって誘い出せ」
「それが……今のノブ、乗んないのよ……女の方拉致るってのは?」
「いいけど、それいつやるよ」
「学祭ならアンタも入れんじゃん?OBなんだし……」
学祭!?ダメだよ……そんな……
ソファ越しに立ち上がったひょうしに、ついカーテンに触れてしまった。
「誰だ!?」
しまった!!
カーテンが勢いよく開けられた。
それと同時に、チャラピン(仮)が……私の口を唇で塞いでソファに押し倒した!
うっそ!?ファーストキスなんですけど……
チャラピン(仮)は唇を離して、私の顔を隠すように少しだけ顔を横にずらして笑ってみせた。
「悪いねー、うちの彼女、激しくって」
言ってからまた唇を重ねて来た。
カーテンを閉める音がしたけど……私はまだ暫く、目を閉じたまま彼の肩に腕を回した。