小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 漫才劇・ロミオとジュリエットは大成功を収めてしまった。

 のぶの抜群のアドリブセンスに救われただけだったはずが……海乃の脚本にヤスの演出が絶讚された。

 ……同時に、翌日には陰ながらではあるが、のぶと海乃の熱愛報道がじわじわと広まっていた。が、当の二

人はそれに全く気づいてなかった。まぁ、いい調子である……ちょっと複雑な気分だけど……

 お陰で学祭2日目の観劇動員数は異例であった。

 しかし、海乃はそんなことより、劇の後の縁日巡りで頭がいっぱいだった。

「わたし、だるま落としが欲しいの!やってみたくて!」

 恐らく今晩はずーっと付き合わされるだろう。



 余裕で漫才劇の幕を引き、一先ずは自由時間となる。残り二時間ばかり、祭りを楽しんだ後に撤収にかか

る。

 私とのぶは先に縁日に向かうと海乃に告げていた。海乃は着替えに一番時間がかかるので、その隙に海乃に

だるま落としを買っておいてやろうという計らい。

 ……だったが、縁日を前に、隣にいたはずののぶが消えていた。

「のぶ……?」

 周りを見渡していたら、不意に後ろからガムテープで口を塞がれた。両手も後ろに取られ、引きずられるよ

うに……校舎裏にある、今は倉庫に使われている旧体育館に連れて行かれた。

 中に放り込まれて転んだ先に、既に殴られ蹴られたであろう痛々しいのぶがいた。

 その前には、固太りでデカイ……あの、怪しい居酒屋で怪しい相談をしてた先輩が、ぐちゃぐちゃとガムを

噛んでいた。

 ……ちょっと待ってよ!!私等、拉致られたの!?

 うっそ!?……綾さんの嘘つき。のぶのばか!

「ほぅ……こいつがノブの気に入りの女か」

 って、待て!!私がのぶの女なの!?

 のぶの隣に転がされて「どういう事よ!?何で私!?」と囁きかける。

「ばか!橘の名前出せるかよ!!……つか、絶対逃がすから。お前、足速いだろ」

 確かに海乃は足が遅いし……こんな場面には呼びたくない。

 ……て言うか、何なの!?このジャンプ漫画的な展開は!?このごっつい先輩なんて『北斗の拳』に出てきそう

な面構えで嫌になるわ!のぶーッ!頼むから未知なる力で変身してくれ!!

 先輩は執拗にのぶに女の子を誘えと強要する。でものぶは絶対に従わなかった。

「俺はアンタに言われなくとも、もう女は誘わねえ!」

「じゃあよぉ、この気に入りの幼馴染みとかの女、どうかしていいのかよ?」

 勝手に話を進めるな!

 風が窓ガラスを揺らす。きっと縁日の前で私たちを探す海乃を思った……

「やめろ!鬼瓦!!」

 のぶの声に思わず吹き出してしまった。

 鬼瓦!?そこまで漫画っぽいと笑えるわ!

 こちらを睨んだ鬼瓦に、綾さんの言葉を思い出して私から提案を仕掛けた。

「先輩、ならば勝負しましょう、3on3で」

 のぶが「バカ!よせっ!」と叫んだから……ホントに上手いのかもしれないけど、逃げるチャンスくらいあ

るだろう!

「よし。乗った。こっちは3人だが、お前等は2人でやれ。その代わりオフェンスでいい。時間無制限で2点

先取で勝ちだ」

 つまり、1回でもシュート決めれば勝ちってことでしょう!

 とりあえず、後ろ手に縛られたガムテープを切らせた。

 鬼瓦の子分だか舎弟だかの二人が、雑然と積まれた物を退かし、コートを作り始めた。

「お前はバカか!鬼瓦はストリートバスケで金賭けてるヤツだぞ!……でもお前が言わなくてもヤツは仕掛け

て来ただろうし……お前はとにかく隙見て逃げろ!」

 私は頷いた。

「ノブ!おめえからだ」

 鬼瓦がのぶにボールを投げて寄越した。

 コートの外から私にボールを投げるが、すぐにカットされる。本当に鬼瓦は上手いんだ……

 取っては弾かれ、投げれば阻まれ、のぶは鬼瓦にいいように遊ばれた。

 ドリブルしたまま動けないのぶがワンバンして私にパスを送った時、私は二人の舎弟にそれぞれの腕を、取

られた。

「貴様!七恵を離せ!」

「聞こえないなぁ、ノブ!」

「タイマンかよ!!」

 のぶがチョロチョロと鬼瓦の脇を抜けてシュートを狙いだした時、体育館のドアが勢いよく開いた。

 振り返った先に、海乃がいた。


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