小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「……」

 海乃はじっと……3秒くらいだろうけど、のぶを見てから「……わかった」と答えた。

「そういうわけだから、後で七恵ん家行くわ」

 片手を上げて遠くの席にと戻っていくのぶの背中は、心なしか丸まっていて……笑っているのか、泣いてい

るのか……きっと赤い顔をしているのだろう。

 もう海乃の表情に迷うことがなくなった私たちは、同じ不安を抱えているはずだ。

 後ろの席からのぶは海乃を見ていた。

 海乃のすぐ前から私がのぶを見ていても、目が合わないどころか、それにさえ気づかないほどピンポイント

で海乃だけを見ている。その集中力には感服するけど憎々しい。

 あ。顔背けた。

 視界の前方のヒヨコが後ろを向いたのだ。それから私を振り返って見て……「ふふ」と笑った。

 ……ちょっと何か嫌な感じがした。



「なっ……なんだよーッ!?あの可愛さは!!」

 家に来るなりのぶが言った。恐らく……いや間違いなく、海乃のことに違いないが……同じ気持ちの私たち

だから思う同じ意見だろうが、クラスの皆なはさほど海乃を可愛らしく思ってないよ。……私にはあまり関係

ないけど、男子的にはどうなんだろう?

「だけど海乃はやっぱりのぶのこと名前で呼ばないね」

 のぶの背中が一気に哀愁を背負い込んだ。苦しめー!

「……あれも間違いだったんだろうな……」

 あれとは、海乃がのぶの「惚れてんだろ」冗句に「うん」と答えたあれだろう。

 あぁ、そうであってくれ。忘れておしまい。

 だけど思うんだ。二人がいつも一緒に居てくれたら、二つの笑顔が、私を幸せな気持ちにしてくれるのかも

しれないなぁって。私には、無理じゃん。だから……

「それはのぶが告白しないからだ」

 のぶは難しい顔をしてボソリと何か言ったが聞こえない。

「のぶは海乃が好きなんでしょ?告白して付き合っちゃえばいいじゃん」

 海乃はきっと断らないから。

「……だから……付き合うって……どう……すんの?」

 ……………………はいぃ?

「何、今更言ってるの?今まで山ほど女子と付き合って来てるじゃない!……そりゃ……今まではのぶが好き

じゃなかったり、女子から積極的だったりしたかもしれないけど……やることは同じだよ!」

 ……たぶん。私だって男子とかと付き合ったことないし、第一、誰かを好きって思ったのも、私、海乃が初

めてなんだから……付き合い方なんて、わかるはずがない!だけど、友達は皆な言ってた。好きな人同士で長

い時間を共にして、一緒に笑って一緒に泣いて、気持ちを分かち合って……だから身体にも触れたいって。

 ……あれ?じゃ今の私って、海乃と付き合ってる?足りないのは、海乃からの想いだけで……って、いちば

ん大事なところが欠けてるけど。

 その点、経験豊富なのぶには簡単な事だと思うけど……何をそんなにビビって、訊いてきたりまでするわ

け?

「……今までと……同じこと!?」

 なのにのぶは顔面蒼白になっている……

「今までと同じって……お前、あんなことやそんなことを、ああやって……こんなにして、あんな風にまです

るってコトかよ!?」

「はあ!?あんなことやこんなことって、何よ!?」

「だから……アレとか……いや、いいかもしれないけど……痛いかもしれねえし……フツウ……いや、俺なら

死ぬ!女ってスゲーって思う!でも……そんな……あれして、あんなとかこんなが……付き合う基本な

ら……」

 いや待て、そうじゃないとは思うけど……あんたはどんな付き合い方をしてきたんだよ!?

「……だめだ……そんなこと橘にできねーよ……」

 いや、しなくていい。寧ろ、するな!

「あれは好きなヤツにするコトじゃねえ……人として。俺は……好きな娘とは、付き合えねえ……」

「……いや、だから、それが何だかわからないけど、しなきゃいいじゃん!」

「バカか!!したくなったらどうすんだよ!?」

「する気なくて、キスするかぁ!!手ぇ握るかぁ!?」

「バカやろう!キスは別だろうが!!」

「何それ!?じゃ海乃をどうしたいのよ!?」

「友達になる!!」

「……は?既に友達じゃ……」

「七恵。お前と同じ位置の友達になってやる!!」

「…………」


 バカ万歳。


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