小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 目はギュッと閉じていた。のしかかってくる綾さんを反射的に押し返そうとしていたら、両手を捕られて頭

の上で押さえ込まれた。

「今から七恵は俺に抱かれるの……その為に会ったでしょ?シモの話は股開かなきゃ心開けないでしょ。だか

らスるんだよ」

 言われてる事がわからない……

「シモ……って?」

「下心……つまり、キレイな言い方すりゃ恋だ。下に心がついてるだろ?」

 わかってはいるんだけどやっぱり、こうも間近に綾さんがいると……海乃を抱きしめる時みたいにドキドキ

するし……すごく怖い。

「しがみついてな、俺に。力抜いて。喋らないで。でも声は出していい。痛かったら首を絞めな」

 わかってる……わかったってば!でも涙が出そうだ。

「終わったら、うーちゃんの話をしてあげるから」

「……どうやったら終わるの?」

 綾さんはクスッと笑った。

「身体に聞きな」

 キスから始まって……綾さんの手はキャミソールの中に滑り込んでいった。






 …………えー……っと。

 ……うん、終わった。

 身体中がピリピリして、息もあがっちゃった状態だけど……リレーのアンカーを走りきった達成感て言う

か……達成感?……やだ、何考えてるの、私!?

 ……つまり……こんなもんか……セックスって。

 舐めて触って、細かく弄るってだけだけど……くすぐったいじゃない、お腹の奥からゾクゾクする感じ

が……感じてるんだと、頭じゃなくて身体が覚えていく。

「気持ち良かったでしょ?」

「…………うん」

 とりあえず、それしか言えない。

「男とヤっても同じだよ。ま、痛いからね、今と同じ快感なんてないけどね」

 そうだった。綾さん女だった。……だからアレがアレしてどうって儀式はなかったけど……こんなんなるん

だ……自分の身体……

 ……だよね。だから?とても酷いこととは思えないよ、のぶ……あ、私今、すごくヤラシイこと考えた。

「……でも私が一方的に、得したみたいになってない?」

「俺が脱がないから?俺等みたいなのは指に性感帯ついてるから大丈夫」

 ……ヤバい。更にヤラシイ事、考えました、私。

「……何となく、わかる」

 抱かれる快楽と抱く悦楽があること……何となく、だけど……

「じゃセックスフレンド成立でいいよね……ッ痛!」

 キスしてきた綾さんの舌を噛んだ。

「海乃のことも抱いたの?」

 綾さんは笑った。

「どっちに対して妬いてんの?……って聞くまでもないか……それとも、ちょっと嬉しかったりして?」

 人の顔見て一層笑い転げて……素敵だけど嫌な人。

「七恵の大切なうーちゃんはさ、小さい頃からのウチの常連さんだよ」

「ホストクラブの!?」

 綾さん大爆笑……酷くない?

「違う違う、実家の方。駅向こうのハザマ病院」

「え!あの病院の?……病院の息子が何でホストやってんの?……じゃなくて、海乃……病気?」

「あー、何でそこで俺じゃなくてうーちゃんの話に戻すかな」

 綾さんは残念そうに頭を抱えるが、別に綾さんに大した興味はない……こともないけど、そんなのいつでも

いい。

「うーちゃんは病気ではない。病名はあるけど、生まれつきの体質みたいなものだ。気になるなら本人に訊く

のが一番だが、そんなもん訊いたら完璧に出所がバレる。俺とこういう関係だって、七恵はうーちゃんに言え

るの?」

 え……それは……言えない。

「ちなみにうーちゃんは俺のこと大嫌いだから、言ったら最後、絶交間違いなしだね」

 何それ!?言えるわけないと言うか……今の事実を消したい程だ!

「ちょっとズルい!だから……だから訊いてるのに……何でそんなハンパな事だけ教えるのよ!」

「キミがうーちゃんの事を聞いたからだよ」

 私は『キミ』と言われて傷ついた。

「……だって『うーちゃん』なんて呼ぶから……名前の海乃から?」

 綾さんは立ち上がってソファに移ると、タバコを取り出して火を点けた。白い煙が細く立ち上る。

「違う……ウサギみたいだったからだよ」



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