小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 男女の間柄に於いて『友達』というくくりは、便利なモノで、その関係さえあれば何でも許されてしまうら

しい。

 のぶはまた女の子と遊び出したけど、決まった『彼女』は作らなかった。

 女の子はみんなその気になっていたが、私が毎週月曜日になると、デート中だろうが、お楽しみ中だろうが

お構いなしに押しかけて、毎度同じ愛の告白を炸裂させていれば、女の子は結構キレイに身を引いてくれた。

とりあえず、私は一般的には美少女らしいから。

 のぶほどの美少年(とんだお笑い草だ!)に決まった彼女が出来ないのは、とびきり可愛い友達が二人も貼り

付いているから。それで十分だった。

 海乃はまた他の女どもは微塵も気にしなくなっていたし、私とは相変わらず仲良しだし、ベタベタしてくる

のぶに対しても平然としている。

 のぶの身に何事も無ければ、海乃がとばっちりで傷つく事もないって法則が、ちょろっと気に入らないけ

ど、平和なら私はいいし、たぶん海乃も平穏であると思う。



 春が過ぎて夏が終わろうという時、のぶがヤスと喧嘩した。

 で、ヤスが私を訪ねて来た。何で?

「いやぁさぁ、オレね、橘さんと付き合いたいなぁって思ってさ、」

「だめ」私はヤスを追い払いにかかった。

 話の途中だが、話は終わった。帰れ!

「いや待って待って待ってよ!なんでのぶと同じ対応すんの!」

 なに?わかった、話を聞こう。

「だからぁ先にのぶに聞いたの。仲良いし。そしたら殴られたんよ」

 ……素敵な対応するじゃないの。

「だっからてっきりのぶが橘さん好きなのかと思って……宣戦布告のつもりで殴り返してぇ、まぁ喧嘩になっ

たんだけど、散々やり合ってからのぶが言うには『橘には好きな奴がいるから諦めろ』なんだよ」

 ドキン!何よそれ?自分の事言ってるわけ?だったらとっととキメればいい……いくないけど……

「でさぁ、ここからが本題よ。橘さんの好きな人ってさ……」

 嗚呼……とうとうこの時が!まあ確実に嘘教えるけどね。

「七恵……って、ホント?」

 ……え!?私!?

「嘘だろぉ?って思ったけど……仲良いもんな。そっちもアリかなって」

 え!!嘘、アリなの!?

「……七恵、お前、顔真っ赤なんだけど、やっぱマジ?」

 ギックぅー!嘘、やだ、ホント?いやいやいやいやあり得ないから!

「だ、誰が言ったの?それ」

「のぶだけど?」

 ……なんだ。

「そんなのガセだよ。決まってんじゃん!」

「何だ、違うんだ。そうなら七恵に口聞いてもらおうかと思ったのに……」

「何それ?私なんか止めて俺にしろって?そんなに海乃が好きだったの?」

 残念だったな……ヤス。

「え?好きってさ、付き合ってからなるもんじゃね?今から付き合ってたら、来年高校行く頃に、ラブラブに

なれそうじゃん?」

「……何よ、それ……」

 私はにわかに機嫌が悪くなった。

「だって、現実に考えて今の『好き』なんて今だけじゃん?もっとオトナになったら、もっとオトナの恋愛す

んじゃん?今はそのために数こなしたいじゃ……ぃ痛っ!?」

 話の途中だったが、つい手が出た。気がついたらヤスをはたいてた。

「だったら、そんな数に海乃を混ぜないでくれる?頼むなら好きになってから来て」

 のぶが喧嘩になるのが解る。私でも喧嘩する。

 ヤスの言う事はわからないでもないけど、そんな先を見越しただけの恋なんてしたくなかった。

 だって。私たちはみんな、今、恋してるんだから。

 わかった。海乃が本気なのは知ってたけど、のぶも本気なんだ。私だって本気だ。

 だから怖かった。そうやって、ただ『好きだ』って感情だけで寄りついてくるだけじゃないんだ。でも、そ

れなら私の嘘は有効だろう。

 私は海乃の笑顔を守りたいだけだけど、それは私が私の気持ちを守ることでもあるのだから。


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