私は、震えた。ワナワナと。
あいつ……のぶのやつ、また始めやがった!!
綾の家に戻ると、彼は着替えの真っ最中だった。
「七恵……どした?あ、電車終わってたか……送る?チャリだけど」
脱いだばかりのナベシャツをまた着ようとする。
私が「泊めて」と言うと「え〜……」とぶすくれる。何よ珍しいわね!
「俺、今日デキないよ、眠くて」
「誰が抱けっっつった!」
「いいの?」
「ダメ」
私も眠かったはずが、すっかり憤慨していた。
「ちょっと私が言うこと繰り返して」
キョトンとして、ノーブラ……じゃない、ノンシャツの綾が半裸で私の前に立つ。
「『海乃さん、いなくなっちゃったんだって?』ハイ!」
「え?えーと……『う』……」
何で赤くなんのよ!?まさか『海乃』って呼べないの!?め、面倒くさいなあ!!
「……『うーちゃん』でいいから」
「『うーちゃん、いなくなっちゃったんだって?』はい」
「『あたしが慰めてあげようか』ハイ!」
「『俺が慰めて……』何だ?コレ」
あと3センチの所でキスを止めて、ベッドまで手を引いて連れて行ってから押し倒す。馬乗りになってから
強引にキスして「慰めろ」と言った。
綾は「いいよ」とニィと笑った。
……結局、ヤってやんの。で、綾は寝てるし!
私はひとりで起き上がってタバコに火をつけた。タバコを覚えたのも、綾といたからだっけなあ。
「結局、慰めたのは私の方か……」
誰かを愛する事と身体を重ねる事とは、そこまで繋がるもので、それまでも代わりになのものだろうか……
「のぶの気持ちなんか、全然わかんないよ!」
だけどこいつら、男共には身体で包んでやんなきゃわかんないんだ。そういう生き物なんだ。
放り出されたアルバムを想う。
誰とも同じではなかった海乃……誰かから受け入れられる事が考えられないから、愛することだけにまっす
ぐになれるって……嫌でもわかるよ。
そんな過去を全部切り離したなら、それはもしかしたら幸せなことじゃないのかな……
貴女が幸せならいいんだ。海乃が笑っていられるならいいんだ。
だけど、私は海乃の真似は出来ない。私が会いたいんだ!慰めなんて要らない。代わりなんて要らない。私
は必ず貴女を迎えるやる!たとえそれで貴女を傷付けても、私は貴女がどうしても欲しい。
朝、目を覚ましたら綾の腕にすっぽり収まっていた自分にギョッとした。
「おはよう、ハニー」
頭の上から降りかかる甘ったるい声に、無意識にアッパー入れてしまったがかわされた。
「何寝ぼけてんのよ!」
「だって恋人になるんでしょ?」
やだわ。そういう事には敏感なのね。
「海乃に嫌われた後ね!私はその前に、のぶの恋人になる!」
私のガッツポーズの後に、数秒おいて綾が布団を押し退けて起き上がった。
「はあ!?またなの!?またのぶに告白ゴッコ始める気かよ?何?この平穏だった1ヶ月はさ!もう放っておきな
よ、のぶなんて。他の女にくれてやれよ!」
「嫌だ!海乃じゃなきゃ、嫌だ」
「俺、前も言ったよな?傷付くのは七恵だぞ?」
「私はこれくらいじゃ傷付かない。私がこれから、海乃ものぶも、綾も傷付けるんだよ……それでも海乃の背
負ってきた傷には追いつかないけどね」
「……七恵、お前、何言ってんだ?まさかお前、うーちゃんからのぶを寝盗る気か!?」
「そうだよ」
涙が零れた。
「それはやめろ。そんなの愛じゃない」
「いいの。決めたの。だから綾にはお願いがある」
私は綾の前に正座して、三つ指をついて頭を下げた。
「私のヴァージン、もらってください!」