小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 長い沈黙が流れた。

「いやね……それ、無理だから……」

「何でよ!?こんな恥ずかしい事頼んでるに、7年もセフレしてる私のヴァージンは要らないって言うの!?ケチ

ぃ!!」

「いや、そうじゃなくて、最初に言ったじゃん!それは出来ないって。俺、身体は女だから……」

「わあってるわよ!!」

「んじゃ、男に頼め!のぶに頼め!」

「やめてよ!私はビアンよ!!誰が男に抱かせるか!!」

「じゃ何の為に処女捨てんだ!?」

 二人で額を押し付け合って怒鳴り合っていたところに、水をぶっかけられた気分で、我に返った私は赤面し

ていた。

「……のぶとイタして……痛がったり出血とか……初めてでした!なんて……バレるの、絶対嫌だ!」

 口に出すと、妙にいやらしくて恥ずかしい……

「……そこまでヤる気あるなら、カッコつけないでヤりゃあいいじゃん。恋人やるんだろ?」

「嫌だよ!……綾がいいんだよ……全部教えてくれたじゃん!そっちの責任も持ってよ……」

「……あー、今のグッと来たわ……協力してやりたいけど、それは無理」

 綾は私を抱き寄せて頭を撫でるけど、私もそんなので宥められるほど子供じゃないの。

「……持ってるんじゃないの?アタッチメントなブツ……」

 綾のよしよしがピタリと止まる。私の肩にガッチリ顎を差し込んで固まっている。

「……お前、まさか俺にディルドを使えと?」

「そうよ。綾の分身クンでしょう?バレずに男で通せたって、自慢してたじゃない」

 ディルドってのは、張型、つまりは男性器を模した『お道具』なわけだけど、女同士のセックスでは、使わ

なくてもいいけど、使う人はフツウに使う代物……って、レディスバーのお姉さんに聞いたけどなぁ。

「そんなんでいいわけ?一応、儀式[セレモニー]じゃない……」

「だって。初めては綾がいいもん」

 綾はきゅーって抱きしめて……

「可愛い。いつの間にか自分から服は脱ぐわ、人の身ぐるみは剥ぐわ、年上を呼び捨てにして挙げ句に足蹴に

するような女の言うこととは思えない」

 ……それにはカチンときた!でも間違ってない。

「んじゃ、新しいの買ってくるから覚悟して待っとけ」

「何で?買わなくても持ってるでしょ?」

「ばっか!他の女に使った物ので七恵は犯させん!」

 あ、やだ。嬉しい。

 ホントにホストは口がうまい。



 のぶに会いに行った。

 仕事先の料亭の外で待ち伏せた。

 出てきた時、例の女の子も一緒だった。

「のぶ!おつかれさまー。飲みに行かない?」

 明らかに憔悴しきった顔ののぶは私を見るとニコリと笑った。

「行く」

 おお!仔犬みたいだ。今、フリフリと振られた尻尾が見えたぞ!

「のぶさん!……今日はいいんですか?あたし……大丈夫な日ですよ」

「彼女面してんじゃねえっつの!」

 へばりついた彼女を払い除ける冷たい態度ののぶに安堵した。

 彼女に「一緒に飲む?」と誘ってはあげたけど、プイッと一人で帰って行った。……悪いけど、のぶはやら

ない。ザマアミロ!

「何か七恵と飲むの久々だよなあ」

「たった1ヶ月ぶりじゃん。のぶ、どれだけ彷徨ってるのよ」

 のぶは黙ってしまった。きゅうんと尻尾をまるめて……まるで捨て犬だ!



 飲み屋に行ったら、のぶはとにかくハイペースで飲みに飲んで、あっという間につぶれてしまった。……バ

カじゃなかろか。

「なあ七恵ぇ……海乃どおなった?」

 肝心な事さえ、つぶれなきゃ訊けないのか。情けないなあ。

「全然ダメ。大学にも退学届出されてた」

 アンタも荒れてないで少しは動けよ!

「……また会えっかなあ……」

「当たり前じゃない!ねえ、それよりさっきの娘とはどうなの?付き合ってんの?」

「バカじゃねぇの?付き合うわけねえじゃん。2回ヤっただけ。俺、彼女居んもん」

 すんごい酔ってる。珍しいくらい。酔ってるからか、本気で思ってるんだか、彼女とは恐らく海乃の事だろ

う……心配する事なかったかな。

「なぁー知ってる?あいつ、全身真っ白なの」

 酔っ払いの言葉に私はギクリと振り向いた。


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