小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 ……全てが嘘だったんだと悟った。

 どんな漫画も小説も映画もドラマも、『セブンティーン』の読者体験談も!嘘で固めたときめきフィクショ

ンなんだ!

 何が、甘噛み初体験だ!!

 何が、幸せの絶頂だ!!

 ばかばかばかばか!

 世界中の女たちはマゾに違いない!マゾヒストの幸せを重ねて信じた私がバカだった!いてーよぉ!

 私があんまり泣いて暴れるから、綾が手を止めた。

「そんな痛いか?初めて何か入れるわけじゃないじゃん」

「痛いわよ!!綾の細長い指とワケが違うじゃない!」

 身体が痛くて泣くなんて、子供の時以来じゃないの?

「どうせ綾にはわかんないわよ!」

「わかるよ。俺だって経験済みだ」

「嘘!」

 思わず身を起こす。何か途中まで入ったままだけど。

「何を驚くよ。セックスを極めるならどっちも体験して当たり前でしょう」

 そうなの!?男として生きて来ただけじゃないの?何、その仙人思考!!

「じゃ痛かったでしょう?」

「そりゃね。でも七恵は大袈裟過ぎ。緊張して力入り過ぎだって。お前、何年俺と寝てきてんの?もうちょっ

と信用しろよ」

 人がこんなに痛がってるのに笑ってるよ、この人は……

 でも……キスと同じで、どんな痛みも許せる人と交わす約束なんだろうなと思った。

 綾と初めてキスした時は、果たしてそんな人なのかと疑問に思ったけど……許せるから一緒に居るんだろう

し。今、綾に身体を開く選択を決めたのは、間違ってない。……たぶん。

「少しは力抜けた?もうちょっとだから頑張るか!」

 私が頷くと、両手を持って首に絡ませた。

「ちゃんと俺にしがみついてなね」

 ……とか言っても、今度は頑張ってしがみついちゃって、またまた力が抜けないよ!

 と、しがみついてる綾の肩が小刻みに震えだした。笑っていた。

「俺さ、生まれた時からこんな生き方してきたけど、別に男になりたいーとか思わなかったんだよね。俺みた

いな奴らはみんな男になりたくて、服装変えて動作も変えて手術までするけどさ、俺は構わなかったんだよ

ね、今のままで。……気持ちは男だったけど身体は女なのはもう仕方ないじゃんって。でも俺初めてかも

な……今、凄く男になりたいわ。何で男の身体で生まれなかったかなぁって、悔しい思いしてるよ……」

 どき……お腹の下の方に詰まってるナニかが、どくりと脈打った……ワケないから、私がドキドキしてるん

だ、全身で。

「それって……私が今こんなだから?」

 自分の声が震えてるのがわかる。

「うん。痛い思いさせてごめんね。でもそれよりさ、俺は七恵と結婚したい!」

 下腹部に一気に熱い波が押し寄せた。

「ぎゃん!!」

 瞼の裏が一瞬真っ赤に弾けた。……気がした。

 綾が私の上にぐったりして覆い被さる。荒い息のまま、耳許で囁く。

「やっと全部入った。無事、貫通おめでとう」

 私まで息が上がっていた。

「……ずるい。あんな事言って……不意討ちするなん……」

 キスで言葉が遮られる。

「本気だってば……本当に七恵と結婚したい。ずっと大事にしたい」

 私プロポーズされた?

 でも、今この時にそれを思うのって、女の方じゃない?……まあ、綾は女だけど……

「でも叶わないから悔しいよね」

 私は綾の背中を抱きしめる。今日は黒いナベシャツ着用なのが悔しいけど……だから男の人だった。女は大

変だけど、男も大変そうね。

「叶わない事なら、私が男に生まれたかった。そしたら……こんなめんどくさい事しなくても、海乃と結婚出

来た」

 私がうわ言のように言うと、私の上でまた笑いだす。

「だから初めに言ったじゃん、七恵の気持ちを誰よりわかってやれるのは俺だって」

 綾の綺麗な笑顔に私もつられて笑う。

「ありがと。……綾、あのね……もう抜いて、ソレ」

「……どうして?これからがセックスでしょう」

 嘘!?これで終わりじゃないの?



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