小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 海乃が居なくなって……冬に名高い恋人たちのイベントさえ、私には色を無くしてしまった。

 頼みの綾でさえ、クリスマスのホストはパーティで大忙しだ。

 ……そう言えば、彼氏出来たンだっけ?会ってないけど。

 結局、あれからのぶとは会ってない。電話もない。 付き合うって、どういうんだっけ?昔のぶに訊かれて、

あーだこーだと教えたら……海乃と歪んだ友達付き合いになっちゃったんだっけね。じゃ、これでも付き合って

るでいいのかな?セフレより会わないヤらない彼氏……めんどくさくなくていいな……

 学校も休みになるし、就職活動も考えなきゃなんないのに……つまんない年末。



 たったひとり、貴女がいないだけで私の世界は落ちぶれた。

 あの日、最後にもらった電話の泣き声ばかり思い出す……泣かない娘だったのに……でも中学の時は泣き顔見

たな。私がプチ家出した時、のぶにフラれた時、大人になった時……その度に貴女を抱きしめた。

 思い出を辿っているうちに思い立って、海乃の部屋から持ち出したノートを読んだ。物語は小学生の時から書

かれていた。だけど……、

「すごいムラがあるなあ……コレひとりの人が書いてるとは思えない」

 文体から内容から、バラバラだ。面白いのもあれば、クソつまらないものもある。

 うーん……と頭をひねっていると、閃いた。

 が、その時、電話が鳴った。私の想いが過去と未来で結ばれようとしたところでブッツリ途切れた。



 電話はのぶで、また死にそうな声で私を呼んだ。

 あーもう、いっそ死ね!

 と思いながら、のぶの家まで結局行く。腐っても『彼女』だから。

 のぶの家に行くと、店から上に上がって行くのが昔からのルート。店に出ているおじさんとおばさんに挨拶で

きるから。

 のぶの部屋は3階。2階の宴会用の座敷の上にあるから、慌てて行けばそれだけで息が切れる。

「来たわよ!」

 ドアを開けたら、のぶはちんまり正座して、頭の下げて土下座のポーズ。

「なななな何してんの?」

 私が床に這いつくばって、下から顔を覗き込むと、スマートに抱きしめてきた。いちいちドキリとさせるヤツ

だ!

「ごめん……七恵」

 はぁ!?アンタはそれしか言えんのか!

「……言ったソバから、ヤッちゃいました」

 はあぁぁぁあー!?

 鳩尾に一発、パンチを喰らわしてのぶを離した後に、胸ぐら引っ掴んで膝立ちさせる。

「アンタはー!そんなヤりバカがよく海乃の彼氏騙れるなー!!今度はどこの女だ!?」

「だから謝ってんだろがよー!いや、相手はよく知らねぇ、飲み屋で誘われたから」

「……なんだ」

 私は掴んだ襟を離して、のぶの身体を放り投げた。

「誘われたんなら好きにすれば!誰がアンタに言い寄ろうと、アンタが誰の上に乗ろうと、どうでもいいわ。帰

る」

 立ち上がった私の手を、のぶが掴んだ。

 振り返ると、また仔犬顔で私を見上げている。ほだされないぞと睨み返すと、力強く手を引かれて、のぶに抱

きすくめられる形で転ばされた。

「……ちょっと、のぶ……!」

 後ろから羽交い締めにされた上に、首に唇を這わせて囁く。

「だから、ごめん……って」

 心ならずともゾクッとくる。……畜生!

 そのまま床に押し倒された。

「嫌だよ……下におじさんたち居るのに……」

「ここ宴会場の上。今までここに何人女来てると思ってんだよ。親父もお袋もわかってるって」

 尚更嫌だわ!!

「……それに、またお前風呂入って来ただろ。スケベ」

「そんなつもりじゃ……」

「会いたくなったら呼べって、七恵言ったじゃん……」

 唇を重ねてくる……蕩けるキス……これがヤバい!

「覚えてるか?キスはさ、傷み分けじゃん……」

 その言葉が刺さって、私はのぶの頭を抱き込んだ……瞳は閉じずに。



 海乃、気をつけて。貴女の愛したサルはとんだ性欲魔神だ!


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