小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 どんなに甘い時であろうと、例え偽りのない愛であったとしても、きっと私は堪えられない。堪えきれず声を

漏らす。……やっぱりダメだ!

「あーはっはっは……」



 私は「じゃあ……また名前呼んで」と言った。「その手は喰うか」とのぶは言った。でも結局のぶは自分から

食いついた。海乃に辿り着いて果ててしまう。

 何たる想像……いや、妄想力だ!

「のぶ、黄金のサルも形無しね」

 クスクス笑いながら身を起こすと……のぶは照れもなく誤魔化すでもなく、険しい顔で俯いたままだった。涙

こそ流してはないが……泣いていた。

「のぶ?」

 そっと頭を撫でた。

「……俺、何やってんだろな……七恵がさ、こんな事までしてくれてんのにさ……ずっと後悔してんだ……逢え

なくなるなら、離すんじゃなかったって……」

 静かに泣くのぶは、これでも酷く傷ついているんだと気付いた。

「悪いと思ってる……本当に……いっそ怒り散らしてくれりゃいいのに」

「……誰に?」

「お前に……アイツに……」

 ベッドのマイヤー毛布を被せて、毛布ごとのぶを抱きしめた。

「仕方ないな……じゃあ、これからは女遊びはきっちりお買い物しなよ。それなら私が怒る範囲じゃないも

の」

 毛布から頭を出してのぶが「範囲だろ」と笑う。

「寂しくなったら……私がいるじゃん」

 ……仕方ない。私はのぶが可哀想でならなかったんだ。

「でも!ここは嫌。おじさんとおばさんに……勘繰られるのは……」

 そこはホラ、子供の範疇としてさ。

「俺、言っちゃったよ。七恵と付き合う事にしたから部屋には来んなって」

「!何で言うのよ!?」

「何か喜んでたぞ。ななちゃんが嫁かぁ!って」

「何よ、それ!のぶの嫁なんて冗談じゃないわよ」

「ハハハ、俺もだ」

 のぶは笑うけど、親パワーは結構厄介なんだぞ!うちのママにバレたら……勝手に式場予約されるわ!!

 私はポカポカのぶの頭を殴っておいた。

 帰り際にのぶが呼び止めた。

「……七恵、お前には好きなヤツいないのか?」

「いるよ。…………のぶだよ」

 ――の好きな娘だよ。とは言えなくて、嘘をついた。



 クリスマスを前に、私はまた、夜の街を自転車で走る。……仕方ないじゃないか。私だって、可哀想なんだか

ら!

 眠らない街は、この時期は朝までホントに眠らない。怨めしいぞ!全国の幸せな恋人ども!

 小さなパブの扉をくぐっても、今日会えないのはわかってる。

「いらっしゃいま……七恵ちゃん、今日マスター……」

「クリスマスはあっちでしょ。知ってる。今日は飲みに単に来たの。気にしないで」

 カウンターでジンバックを空けながら考えていた。

 のぶの性公式がわかってしまった……

 のぶにとってセックスなんて、昔から、TV見たりゲームしたりと同じなんだ。たぶん、気持ちいいからより楽

しいから……だから誰でも良かったんだ。


「のぶー大貧民やらなーい?」

「いいけど俺、強いよ」


 ……程度の会話。

 今になって悪いと思うのは……好きな娘を抱きたいと思うからなんだろう……

 ……って、やっぱりアイツ、海乃に何かしてるよな……許せないけどそうだといい、この先まさか私に惚れた

りしないよね?

 たぶんこの先も、のぶは遊ぶ度に私を呼び出すだろう……そんな顔してた。代わりになるって言ったのは私だ

けど……ズルいよ!のぶばっかり…………とか、カウンターに突っ伏してる私はどうなんだ!?確実に、代わりに

してるよね!?今までだって、海乃に告白出来ない抱けないと、イライラしてはここに来る……のぶに抱かれたと

イライラしてはここに来る……サイテーだ。



「もしかして、アナタが七恵ちゃん?」

 聞きなれない声に顔を上げると、隣の席に見慣れない……オカマがバチンとウインクを寄越してきた。

 ……誰?


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