小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 学校が始まった。もりもり休んでしまったけど、単位も足りてるし、これから就職活動か……海乃が居ないけ

りゃ、学校なんてただの四角い箱で、何をするところかなのかも忘れてしまった。

 海乃は本が読みたくて、文章が書きたくて、文学部を選んで、何も考えてなかった私は、海乃の後についてき

て……でも、あまりにも一緒じゃ海乃のやりたい事を邪魔してしまうから、英文科に進んだ。国文と英文だと、

同じ授業やゼミも多いし、でも一人一人で足場を持ってる気にもなるじゃない!

 ……そんな適当な気持ちで大学に来ていたのだが、友達なんかも共有していて、そこにのぶなんかも交えて、

謳歌しちゃってたのに……

 学食でカレーを食べていたら、国文科の方の友達が3人で私の前に座った。それは酷い形相でだ。

「のぶくんと付き合ってるんだって?七恵」

 ユキコが口火を切った。

「誰から聞いたの?」

「サツキとミドリがのぶくんに告白してフラれたって。七恵と付き合ってるからって」

 サツキとミドリは英文科で、一緒のゼミも多い。……やっぱりのぶ目当てでつるんでたのか、私と。

 という事より、のぶが例え断る理由にしろ、私を彼女として堂々と言ってのけたことに驚いた。

「何なの!?いつの間にそういう関係になったのよ?……ミドリなんか、ずっと好きだったんだよ、でも海乃が居

たからって、片想いしてきてたのに……」

 口惜しそうに唇を噛む。一緒にいるヨシエとミカも同じ顔して頷いている。

「当のミドリと……あとサツキは?どうして本人たちが言って来ないの?」

「サツキは……!」

 言いかけたミカが言葉を詰まらせて涙ぐんだ。

 女の子たちの友情って時々わからない。同情だけでしか動けないくせに、周りの同情だけで助けられると思っ

てる……

 ミカの背中を擦りながらヨシエが続けた。

「サツキもフラれたんだけど、諦められないから1度だけ抱いて欲しいって言ったんだって。戸川さんは、いい

けど二度と会わないって……お金出したらしいわ。サツキ、すごく傷ついてたわ。七恵にはもう会いたくないっ

て」

 ……のぶ、本当にお買い物しようとしたんだ。私はプロ相手にしろって意味で言ったんだけど……まあ、傷つ

けるわね、売春か風俗扱いされた気になるでしょう。

 でも、私と会いたくないって、同じ学校で同じ学部と学科でどう会わないわけよ。

 にしてもよ。友達の彼氏に『1度だけ抱いてくれ』とか言っちゃう友達に同情って出来るの?……それってさ

ぁ?

「……それで?私に何が言いたいの?」

 ユキコがテーブルを叩いた。

「本当なの?本当にのぶくんと付き合ってるの?恋人として?身体の関係もあるの?」

「うん」……気持ちは嘘だけど。

「……最低……!」

 ミカがもう殆ど泣きべそ状態の顔で吐き捨てた。

「じゃあ、七恵が誰より先に、戸川さんを寝盗ったんだ、海乃から。海乃が居なくなった途端に、親友を裏切っ

たんだ……最低ね」

 ヨシエが冷静に言う。

 言われる通りなだけに、それはちょっと心にズキッと来る。

「うん、そう。最低よね。だけど、アンタたち、何に対して怒ってるわけ?のぶがミドリをフッた事?サツキを

売春扱いに傷つけた事?私が海乃を裏切った事?のぶを寝盗った事?のぶと私が付き合ってる事?」

 ユキコたちが怯んだ。

「だいたい、今まで海乃とデキてると思ってのぶに何もアクション起こさなかったくせに、海乃が居なくなっ

て、のぶに告白って何?アンタたちも順番に告る予定なんじゃないの?あわよくば、みんなののぶにしたかった

とか?」

 ユキコがコップに半分位入ってた水を顔に掛けて来た。

「誰が誰を好きになろうと勝手じゃない!何よ!結局自分の一人勝ちだって、あたしらを笑ってるんでしょう!

もう七恵とは友達やめるわ!顔も見たくない」

 三人が三人共、涙を流しながら私を蔑み、去って行った。

 何だ。みんなのぶ狙いだったのか……そして、私が悪人か……いいけど。それくらい。



 のぶと付き合った代償に、私は大学の友達を全て失った。



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