小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 学校に行っても、ひとりきりで過ごす事になっていたが、思ってたより楽だった。

 友達とつるんで遊ぶのは嫌いではなかったが、バーゲンの時期には丸井巡り、合コンやナンパのお付き合い、

週末にはわけのわからないパーティチケットを買わされる……ブランドの洋服と化粧品をお金持ってるカッコイ

イ男と付き合う為の戦闘服に、気合いを入れる月並みの女の子たちと行動するのには、いい加減疲れていた。

 私と海乃は毎度毎度付き合ってられないから、のぶと遊んでいたら、彼女たちが逆についてきて、今度はのぶ

とつるみたがった。でもそれは、のぶ狙いだったのか……

 友達を無くしたとナーバスになるより、解放感でいっぱいだ。……くらいに思ってないと、やってけない

よ。



「お前、学校の友達と何かあったろ?」

 また急に呼び出されたのぶに、いきなり痛いところを突かれた。

「何で?最近3人くらいに告られたとか?」

 笑って誤魔化したつもりが大当たりで、私は呆れた。

「どうでもいいことなんだけど、サツキ、ミドリ、ユキコ、ヨシエ、ミカ……誰に告られた?」

「全員な、だから呼んだんだろ」

 それで呼ぶか?

「全員と……寝たの?誰と寝た?ホント、どうでもいいことだけど」

「いねえよ!海乃とお前の友達とヤれるかよ」

 ……本当に?

「サツキは?お買い上げしなかったの?」

 のぶはちょっと嫌な顔をする。

「お前がどう聞いたか知らねえけど、ヤってない。俺には彼女がいるから、女は金払ってしか抱かないって言っ

たら、逃げ出した。けど、それ、クリスマスの後の話だぜ?」

「知ってる。どうして言わなかったの?」

「付き合ってないし、断ったし、ヤってないし、どうでもいいかと思った」

 ……そりゃそうだ。

「じゃ、今日は何で呼んだの?」

「ミカだよ」

 ミカ?いちばん大人しくてサツキの為に泣いちゃうような彼女が何を?

「あの娘は前々から一人で店とか来るんだわ。しかも下着着けないで」

 は!?

「何アピールだか知らねえけど……いや、そういうアピールなんだろうけど、昨日も来てさ、誘うの!いつもは

誘われんの待ってんだけど、告って誘ったんだよ。だからサツキとかと同じ事言ったら、七恵と友達やめたから

安心しろって言われた」

 あの雌ブタ……!

 ……は、酷いかな?

「でも……友達じゃないお誘いだからお買い上げしちゃった……とか?」

「するか!!怖いじゃん!そんな女!コートの下にノーパンノーブラで白のロンT着てカウンターに座んだぜ!?マ

ジ怖い。……って、そうじゃなくてさ……」

 のぶはキュッと私の手を握った。勝手知ったるのぶの家で、私が淹れたコーヒーのマグカップごと、両手で私

の手を包んだ。

「七恵、学校で一人なんだろ?大丈夫か?」

 嘘!?私の事心配してくれてるの!?ちょっとジンと来ちゃう。

「大丈夫だよ。彼女たちとは元々合わなかったから……せいせいしてる。それより、友達が怖い事して、ごめ

ん」

「もう友達じゃないんだろ?」

「うん」と笑って見せたのに、涙が出てきた。

 すかさずのぶが、自分の肩に私の頭を抱いてくれた。

「ほらな。お前、独りが慣れてないんだから……ちょっとキツいだろ」

 ああそっか……私、あんな友達でも無くして寂しかったかもしれないな……隣に海乃が居ない分、寂しがり屋

になっていたかもしれない。肩を貸してくれたのぶに安心する。

「……ごめんな、俺がモテるばっかりに」

 全くだわ……どいつもこいつも、のぶのぶのぶのぶ!

「でも、どうしてみんな俺がいいの?」

 何をこいつは真顔で言ってんだ!?まさか、マジに美男子の自覚がないのか!?

「なあ?」

 ヤバい。赤面する!見慣れた美しい顔に赤面してしまう!

「そ、そんなの海乃に訊いてよ!」

 苦し紛れに言ったのに、のぶは人の髪をグイと引いて、耳元に唇をあてる。

「じゃ、訊いていい?」

 やっぱりソレじゃん!

「だから、ここは嫌だって!」

 のぶを引き剥がして訴える。のぶは尚もキョトンとしながら真顔で訊く。

「七恵は俺のどこが好きなの?」

 ……う。そんな答えは用意してなかったよ!

「……えーと、その……長く一緒に居るからねぇ……まあその……全部よ、全部!」

 のぶは、ちょっと上の方を眺めてから立ち上がって、車のキーを手に取った。

「俺、もう少し、お前の事好きになんなきゃな。行くぞ!」

 ドキッとさせてくれたけど、それはいい!今くらいで充分だから!それより!

「どこ行くの?」

「ホテル」

 ……やっぱりどうして恋人たちには、コレが纏わりつくわけか……!


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