小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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「ああもう、考えたくないのに。」

私は夜の誰もいない教室でテストの採点をしていたが一向にはかどらなかった。

天井を見ながらつぶやいた。

「3.1415………」

いい感じ。何にも考えられない。心が落ち着いて行く。

円周率を唱えれば無にたどり着けることを昨日風呂場で発見した。

円周率ってメロディつけたら、良さそうじゃない。

どうでもいいことを思いついた。

迷子の子猫ちゃんに合わせて歌ってみる。

「3.1415〜♪」

意外にいいんじゃない?

気分がよくなってくる。

「これyoutubeeにアップしたら流行ったりして。」

「流行るわけねえだろ!」

いきなり声をかけられて私は椅子から落ちて狼狽した。

窓の方を見るとあいつがいた。

「……い、いつからそこに」

「最初からだよ最初から」

あいつはこ馬鹿にしたように笑う。

「……なにしにきたの」

「何しにって、おれのかぼちゃちゃんの様子見にきたんだよ!」

といい、あいつは花壇のほうへ歩いていく

数歩進んだ所で

「おい、美香、お前も来いよ」

あいつが言う。

「ああ」

私は返事をした。美香っていつの間に呼び捨てに呼んでんだよ。

何だか恥ずかしくてあいつの顔が見られない。

「何さまだ。」

「ちょっと呼び捨てって……」

「なれなしくしないでよ。」

「最初は虫食い女とか言ってたくせに。」

「美香って呼び捨てで呼ぶなんて気持ち悪い」

なんて心とは裏腹な文句を心の中だけで思いながら私は、晃の後ろをついていく

「かぼちゃちゃんまた少し大きくなってるな」

あいつが言う。

「うん」

上の空で返事をする。

晃は突然私の顔を見つめ言う。

「お前……さっきから何ニヤニヤしてんだよ。気持ちわりいな」

この一言で我に返った。

そう、私が照れてたら気持ち悪いんだ。

本当に私どうかしてる。

あと一週間で東京に帰るんだから。

「馬鹿」

あいつに聞こえないように小さな声でつぶやく。

今日はトニーで佐和子とてっちゃんが飲もうって言ってた。

もう帰ろう。

私はかぼちゃを愛しそうになでている晃に言った。

「ごめん。もう帰るわ。今日用事があるから……」

「……あっ……そう」

あいつがちょっと不機嫌そうに言う。

「じゃあね」

そう言い残してその場を離れる。

「ちょっと待てよ」

あいつがそう言い私の腕を掴む。

私は驚いて晃を見つめた。

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