小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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この間までは昼間は暑くて、5分も歩こうものなら物が二重に見えそうなくらい頭が痛くなった。

最近じゃあ、外を歩くと風が冷たくなってきて鼻の頭が少し冷える

昔は手の先程度だったかぼちゃの苗も、今じゃ立派に成長し鮮やかな緑の大きな実をいくつもつけている。

子どもたちがかぼちゃを見てはしゃいでいる。

「これ、俺収穫するからね」

「じゃあ私達こっち」

「駄目だよ、俺こっちって決めたもん」

「いつも自分達ばっかりいいとことって」

慌てて助け舟を出す。

「順番はじゃんけんだよ。先にいいやつとられちゃったら嫌でしょ。そしたらみんな平等でしょ?」

子ども達が満足そうに頷く。

「ねえ先生、晃にもこのかぼちゃ見せてあげたい」

「そうだよ。一緒に植えたんだから」

意外な所で晃っていう名前が出てきて少し心臓が高鳴った。

「晃さんは……仕事が忙しいからね」

テレビ大好きのみきちゃんが得意げに言う。

「晃って、なんかね今朝ドラとってるから超忙しいらしいよ」

「でも忙しくたって、かぼちゃぐらい見にこれるよね?」

「そんなわけないじゃん、馬鹿。東京ってここからうんとうんと離れてて、遠いんだからね」

いたたまれなくなり、空を見上げると飛行機が雲と雲の切れ目から飛行機雲を出しながら一直線に東の方角に向かっていた。

「東京ってそんなに遠いの?じゃあさ……晃って俺達のこと忘れちゃったかな?」

休み時間をつげるチャイムが鳴り、校舎からはつかの間の休憩を待ちきれなかった子ども達が一斉に飛び出して来た。

対称的にここにいる子ども達は誰ひとりとして休み時間だから遊ぼうと言いだすことはなかった。


「大丈夫、忘れてないよ」

「本当?」

「大丈夫、晃のこと信じようよ。ほら今休み時間だよ。遊びに行かなくてもいいの?」

子どもに言い聞かせるふりをして、自分に言い聞かせた。

子ども達は久々の笑顔を見せた。

「あっ、その前に晃に送る写真撮るよ。きっと喜ぶよ、ほら並んで並んで」
   
まだ思春期前のカメラ大好きの子どもたちの100点満点の笑顔と私にとっても子ども達にとっても大事なかぼちゃ、二つともバインダー越しに
キラキラと輝いていた。


風呂上がりに髪をかわかすのをやめた。

こんなことをしている場合じゃない気がするから。

改まって机の前に座った。

手には携帯を持ち、メールをつくっている。

今日、かぼちゃを収穫しました。
子ども達が晃さんに会いたがっていましたよ。
写真送ります。

「よしできた!送信と!」

何故か送信ボタンを押す時にてが震えた。

「早く返信がくればいいのに」

携帯電話を持ったまま椅子に寄りかかって寝てしまう。


いつもどおりに鳥の泣き声で目が覚めた。

気がつくと大事に携帯電話を握りしめながら、床で大の字になって寝ている。

急いで携帯電話をチェックするが、携帯電話は何の変化もなかった。

その日何度も何度も問い合わせをしたが、結局携帯電話に緑のランプが着くことはなかった。


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