「晃、お前が思ってるよりも深刻じゃない。優海ちゃんと熱愛宣言すればいい。簡単だろ」
社長が俺に顔を近づけて、いつもよりもゆっくりと喋った。
そんなことだろうと思った……。
向かい側に座っていた優海ちゃんの方を見ると、優海ちゃんは感情を押し殺したお人形さんのままだった。
「優海もそろそろアイドルから大人の女優へ転進していきたいと思ってね」
相須社長が煙草に火をつけ、一呼吸吐いた。
「あのトップ女優の尾崎洋子だって昔は清純派アイドルだったんだぞ。ところが相手役とのスキャンダルが出た。けれども映画は大ヒット
本人もアイドルから演技はへステップアップだ」
社長がいつもより少し早口で得意げに俺に語りかけてくる。
「はぁ……」
俺は間の抜けた返事しかできなかった。
確かに俺には悪い話ではない。映画の宣伝も兼ねて熱愛宣言すれば大ヒット間違いなしだ。
それにこの相須社長の言うことは聞いておいた方がいい。
味方にしてこれほど心強い人物もいないだろう。
けれど……俺には他にもっと大切なものがある。
もうこれ以上傷つけるわけにはいかない。
「晃、連れないな。優海ちゃん一筋って所を見せれば、また抱かれたい男ランキング1位に戻れるぞ」
俺の心の中を見透かした社長が明るく言った。
「……社長、相須社長、二人とも本当に申し訳ありません。でも俺は好感度なんかもうどうでもいいんです。守りたいものがあるんです。失礼します」
それだけ言うとソファから立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
「小学校の先生もあなたと付き合ってることで大変な状況みたいですね」
後ろから相須社長の迫力のある声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、相須社長が穏やかで、でもとても厳しい表情で俺を見ていた。
部屋に入ってくる太陽の光が段々と少なくなり、人の影もどんどん小さくなっていた。