小説『日本式魔術師の旅〜とある魔術編〜』
作者:ヨハン()

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「れ、れい・・・ご?」


目の前の現実を認識できず、呆けたような声が広場に広がる

しかし認めたくなくとも、一が倒れている現実は変わらない。


「一!!」


オリアナはようやく現実を認識できたのか、
急いで一のもとへ駆けつける


「一!しっかりして!!
 っ!ひどい怪我・・・」


倒れている一を起き上がらせ、怪我の確認を行う。

一の怪我は大きく、
左目を切り裂かれ、体も右肩から左腰下まで一文字に切り裂かれている。


「治療をするならば早くすることだな」

「!!」


怪我を見つめ呆然としているオリアナに対し声がかかる。


「そいつはお前を助けるために怪我をしたのだ。
 ・・・・私たちのような戦いの中で、少しでも隙を見せたらそれが致命傷になる。
 それでもこいつはお前を助けたんだ、感謝するんだな。
 最も私自身殺す気で切りかかったのだが・・・・
 串刺しにする気の一撃は片目だけを、
 体を両断するつもりの一撃は身体強化によって切り飛ばすだけに収まってしまった。
 凄まじい技能の持ち主だよ、本当に」


ジルが何かを喋っている。
しかし最初の言葉以外オリアナは聞いていなかった。

オリアナの心の中では後悔のみ
私がもっと早く降伏をしていれば一は怪我をしなかったのではないか?
そもそも私がここにいない方がよかったのではないのか?


「ジル殿、魔道書『螺湮城教本』を手に入れました。」

「ご苦労、今から準備に入る。
 敵を近づけさせるな。」

「御意」


オリアナが一の許に駆けつけるときに投げ捨てた魔道書を、
副リーダーはいつの間にか回収しジルに手渡している。

今まで必死になって守っていたものが奪われているのにオリアナは動かない。
後悔が彼女を縛り付けている


「・・・オリアナ・・・泣かなくてもいいのですよ?」

「一!?・・・でも私のせいで、あなたは」

「私自身が選んだことです、あなたが罪を感じる必要はありません」


オリアナのぬくもりを、悲しみを感じたのか一が目をさましオリアナに語りかける。

指がそっとオリアナの目元をぬぐう
そして愛おしいものを見つめるような目で見る


「私は大切な存在が傷つくのが嫌いなんです。
 それに・・・オリアナを目標のためにも、あなたを支えると言いましたし・・・
 大けがをしてしまったら目標も遠のいてしまうでしょうしね?」

「そんなことで・・・自分の命を・・」


オリアナの頭をそっと抱き寄せ、オリアナの言葉を途中で止めさせる。


「そんなことじゃありませんよ、
 先も言ったでしょう?あなたの夢は素晴らしいものだと。
 あなたはとても美しく、素晴らしい人間ですよ。」

「あり・・が・と・・・う」

「いえいえ。
 さてとあの儀式を止めなくてはいけませんね。」


致命傷にはなってはいないが、大けがには間違いないのに一は立ち上がる。
その眼はまだ死んでいない。

例え絶望的な状況でも、諦めず立ち向かう。

その行動にオリアナは驚愕を、そして必死に止めに入る

「無理よ!、そんな怪我では戦えないわ!!
 逃げましょう、治療もしなくちゃいけないしもうすぐ援軍も来るのでしょう?」

「そのほうが良いのかもしれませんね。
 しかしあの魔道書は危険な気がするんですよ、
 今止めなくてはまずいような気が・・・ね」


喋りながらも準備を進める一。
錫杖を地面に捨て、鉄扇と数枚の符を懐から取り出す。


「でも!」

「すみませんね、こればかりは聞けません。
 私の本能が、直観が警報を鳴らしているので・・・
 行きます!!」

「レイゴ―――!」


その言葉とともに一気に一は走り出す。
それは今までの戦闘でも出していないような速度。

一歩で地面は砕け、音速の速度をもって一気に接近をする。


「させません!!」


あらかじめ、一が突撃してくると予測していたのか副リーダーは迎撃に出る。
最初から全力の身体強化を行い、ギリギリ認識できる速度であったが

彼自体は戦うわけではない、彼にとって認識さえできれば後は指示を出すだけでいい。
そしてそれは何とか間に合い、ドラゴンが使い魔が迎撃に動く


「あまり相手はできないので、一気に行かせてもらいます。
 光よ!陰陽消長の理をもって我に仇なす敵を撃て!!」


ドラゴンや使い魔は陰に属し、
また副リーダーが使役しているドラゴンは影によって構成されている。
ゆえに


「GYAAAAAAAAAAAAAA!!」


効果は絶大、それでも攻撃範囲外に存在するものや
新たに召喚される使い魔たちが襲い掛かる。

しかしそれらの間を駆け抜け、技をもって吹き飛ばし、術をもって消し飛ばし前進する。

だが一は負傷しており、左目も見えぬ状況
しだいに怪我は増えていく

いつ倒れてもおかしくない状況なのに倒れず突き進む。


「倒させていただきます!」


そして、ついに儀式上までたどり着く。

すでに体は限界に近い、体力的に放てる攻撃は一撃のみ。
故に一撃必殺を誓い全力の一撃を放つ。


”円神理念流 剛の舞い 奥義 剛牙”

自分の持うるすべての力を、遠心力など得られる力を、人間が出せる限界の力を
一切の無駄なく一点に集中し放つ突き

それは自らの速度、敵の速度あらゆる要素によって威力が倍増になる奥義
相手の動き自身も威力に代えてしまうがゆえに、防御不可能な必殺の一撃


その一撃は人を紙屑のように吹き飛ばす。


「外し・・・・ましたか」

「怪我がなければ当たっていただろうな。
 左目が見えぬゆえにあいつの接近が見えず、
 大けが故に注意力が散漫になっている。
 だからこそ」


奥義をもって吹き飛ばされたのは、ジルではなく


「あいつが間に割って入ることができた。」


副リーダーであった。


「そのようですね」


その瞬間一の体に裂傷が走る。


「一!?」


それにオリアナが悲鳴を上げ駆け寄ってくる。
その手には即席の紙で作ったのか速記原典らしきものがある。


「ひどい、なんで怪我を・・・」


一の怪我を確認次第回復魔術を使用する。
速記原典の内容はどうやら回復魔術のようだ。


「簡単なことだ、あのような人外の威力。
 デメリットもあるに決まっている。」


ジルの言うとおり先ほどの奥義には危険性がある。
先の技はリミッターを外す大技であり、円神理念流の奥義。
奥義とは本来体が完成しきってから放つものである。

しかし一は無理やり奥義を放ったその代償が怪我である。
筋肉は裂け、骨は砕け、内臓などにも深刻的なダメージが走る。

また彼らには知る由もないが、円神理念流は一族に伝わる流派。
一族の肉体で行う武術であるため生まれ変わってしまった以上、
今の一の体は円神理念流に耐えることができない肉体になってしまっている。

今までは威力を下げたり、奥義を使わないなどして騙し騙し使っていたのだが。
本来ならば子供の状態でもここまでの怪我はしないのだが、

円神理念流にあっていない肉体かつ、子供の状態で全力を引き出したため
このような大けがになってしまっている。


「そんな・・・」

「そして、どうやら私たちの勝利のようだな。」

「えっ」


気絶している一を治療しているオリアナが驚きの声を上げ顔を上げる。
その先には勝利を確信し、笑みを浮かべているジルが立っている。


「準備が今まさに完成した」


その言葉によって、準備が終了したからと言って一体のどうなるのか、
オリアナにはわからない。
ただオリアナでもわかることは、まだ戦いは続くであることだけだ。

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