小説『短編集』
作者:tetsuya()

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西田浩太は、一ヶ月前に原因不明の病気にかかった。前触れなく身体が痛くなったり、痺れたり、背中が曲がったりする。

 入院生活を送っており、いつ退院できるかは分からないらしい。下手したら一生入院したままかもしれないとのこと。

 病院生活の孤独が何よりも寂しかった。学校に登校していろいろな仲間とはしゃいだりしたい。
  
 彼はゲームを手に取った。病院にずっといても退屈だろうと、父が買ってくれたものだ。ゲームタイトルは『本当の人間の心を映し出す』となっている。かなり珍しいタイトルだ。
     
 彼がゲームを開始すると、一つ目の質問が現れた。『道端に財布が落ちていたらあなたはどうしますか』というものだった。

 選択肢は、『絶対に警察に届ける』、『見てみぬフリをする』、『額によってはネコババする』、『ネコババする』の四択だった。

 彼は自分の常日頃の行動から『警察に絶対に届ける』というのを選んだ。正直に回答したい。

 次の質問が現れた。『自分のタイプの好みの女性がいきなり現れたらどうしますか』で、回答は『すぐに告白する』、『声をかけてみる』、『思わずみとれてしまう』、『見なかったことにする』の四択だった。

 人として完璧なのは『見なかったことにする』なのだろう。相手にすでに交際している異性がいるなどの可能性があるため、迷惑はかけられない。だけど、タイプの人が現れたらみとれてしまうくらいはするだろう。彼は正直に『思わず見とれてしまう』を選んだ。

 その後もいろいろな質問が表示され、選択肢を選んでいく。自分に出来ることはいい選択肢を選び、到底できなさそうなものについては現実的なものにする。嘘はつきたくない。

 全ての質問に回答すると、何の前触れもなくおじいさんが現れた。ゲームからおじいさんが出てくるなんて聞いたことがないので、西田は混乱した。目の前のおじいさんはどこの誰なんだろう。

「いきなり驚かせてしまいすまんな。わしはゲームの仙人なんじゃよ」 

 仙人といわれても脳がついていかない。漫画に出てくるような架空人物がどうしているのだろう。

 仙人は西田の反応など気にせず、いきなり思っても見ないことをいった。

「お前の病気を全部治してやろう」

 西田疑いの目をしながら呟く。先進医療を駆使しても治せないといわれたのに、いきなり現れた仙人に治せるはずがないという想いが強かった。

「本当に治していただけるんですか?」

 仙人は自信満々そうにしている。それが彼を不安にさせる。病気を治すとか言っておいて、あの世に連れて行くなんてことはないだろうな。

「ああ、おぬしの優しさ、正直さが気に入ったからもう一度生きる権利を与えよう。病気が全て治る魔法をかけるぞ」
 
 魔法がかけられると、身体がみるみるうちに軽くなる。本当に病気が治ったかのようだ。

 魔法をかけ終えた仙人は最後にこういい残していなくなった。

「このゲームは心の優しさを試すために開発されたもので、本当に心から優しくて、正直な人にもう一度生きるチャンスを与えようというものなんじゃ。おぬしは記念すべき合格第一号じゃ。これまで数え切れない人がプレイしたんたが、いい選択肢は選ぶものの、行動がちっとも伴わないプレイヤーばかりだったので、嫌気がさしていた。どうして人間はおぬしみたいに素直になれないのかな」

 お礼をいう前に、仙人はいなくなっていた。せっかちなおじいさんだと西田は思った。

 後日病院で検査すると、異常はどこにも見当たらなかった。検査を担当した医師は、唐突な出来事に口をポカーンと開けて何を話していいのか分からないようだった。

 難病を仙人に治療してもらった浩太は、無事退院した。難病が治ったのを知った、父と母は涙を流して喜んでいた。自分は家族から必要とされているのを見ると、胸が熱くなってくる。

 心の底から優しい人は、どんな病気であっても治療してもらえる。現実でこういうことがたくさんおきればいいな。病気で苦しんだからこそうまれる、優しさで溢れる世界になってほしい。

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