小説『とある朱緋の超元浮遊《ディメンジョンマスター》』
作者:白兎()

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   ? Guards of Offense armor ?


 「確認しますが、あなたは緋奈遥斗で超間違いないですね?」

 茜色の夕陽が降り注ぐ公園に、絹旗最愛と名乗る少女と緋奈はいた。コンビニから出た後、少女に導かれるがまま公園へ連れて行かれたのだ。緋奈は木製のところどころ塗装が剥げたベンチに腰掛けて、温めてもらった唐揚げ弁当を食べていた。

 「ええ、そうですけど。どうして知ってるんですか?」

 「それは超知ってますよ。超重大な任務の対象者ですから」

 隣に座る絹旗が自動販売機で購入したジュースを口に含んだ。

 「任務? 暗殺とか、そういう類いのものですか?」

 割り箸で唐揚げをつまむと、何かの脱皮みたいに衣から鶏肉が滑り落ちた。緋奈は溜め息をつき、衣だけを口に入れた。

 「まあ、そういう依頼もあることには超ありますが、今回は超違います。学園都市最大規模のプラン、その被験者の身辺警護。要するに超護衛ですね」

 超あるんだ、と思いつつも口に出さずに緋奈は裸の鶏肉を口に放り込んだ。鶏肉は硬すぎず柔らかすぎず、かといって美味しくもなかった。ただ独特の匂いがする油が口の中で激しく暴れただけだった。

 「いえ、大丈夫ですよ。警護なんて」

 「それを決めるのはあなたじゃありません。それに?こちら?も依頼を超受けたわけですから。対象者が超断った、なんて結果を?上?に報告できるわけもないですし」

 少し強い口調で絹旗は言った。

 「なら、期間はいつまでですか?」

 「それは超聞いてませんでした……」

 絹旗はワンピースのポケットから携帯電話を取り出すと誰かに発信した。恐らくは関係者だろう。その間に緋奈は黙々と弁当を食べ進めた。弁当は全てがぐちゃぐちゃしていて、やはり美味しくなかった。

 「もしもし、絹旗ですけど。麦野、シークレットプランを対象とした護衛の件なんですが……」

 『あぁ、あれね。護衛くらいお手のものでしょ。こっちも今忙しいから、それじゃね』

 通話音量はさほど大きくもなかったが、周囲が無音に包まれていたため会話の内容が聞こえた。麦野と呼ばれた声は女性のものだったが、その言葉の節々にはやたら尖った響きがあった。

 「超待ってください、麦野! 任務の期間を超聞いてないんですが!」

 会話と呼んでいいのかすら分からない一方的な言葉を残して電波を切ろうとする声を絹旗は必死に引き止める。

 『期間? 言ってなかったっけ? プランのクリアまで。一週間周期で私以外のメンバーにローテーション形式でやってもらうから。他の仕事も忙しいし、これが一番効率的でしょ。ま、安心して。大抵の依頼は残った私たちだけで事足りるわ。もし本当に重大な依頼が来たら一時的に呼び戻すこともできるし、そっちにはシークレットプランもいるから逆に手伝ってもらったりできるんじゃない?』

 「そっちが超目的ですね、麦野……」

 『人聞きの悪いこと言わないでほしいにゃーん? それじゃ、頑張ってね』

 通話の終了を告げる電波の切断される音が細く響いた。弁当を食べ終えた緋奈はそれをビニール袋に戻し、すぐ横に設置されていたゴミ箱に捨てた。衝撃で割り箸が跳ねる音が聞こえた。

 「……超聞こえてましたよね」

 「まあ、そうですね」

 自然と二人の口から漏れる溜め息が重なる。地の底(という表現が正しいのかは分からないが)まで響きそうな、重く鈍い溜め息だった。

 「あの……疲れてるんで、もう帰っていいですか?」

 先に口を開いたのは緋奈だった。それほど時間が経ったわけではなかったのだが、いつの間にか雲の端が黒く染まり始めていた。緋奈がベンチから腰を上げると、絹旗も同じように立ち上がった。

 「え、ええ、帰りましょう」

 「いや、あの……」

 緋奈は左手で額を押さえた。その姿には対処の施しようがない数の軍隊を目の前にして、全てを諦めた小隊の兵長のような謎の哀愁が漂っていた。

 「仕方がないでしょう! その代わり、この私が護衛している限りは超安心して自由に行動してもらって結構ですよ。窒素装甲(オフェンスアーマー)は超簡単には破れませんから」

 そして敢えなく小隊は押し潰された。

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