小説『自由に短編[完]』
作者:ハル()

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問2(ちょっとだけ悩み相談をした結果って?)



…やっぱり、うざい。食い逃げは罪だ。食い逃げ犯は逮捕できるだろうか。
カフェテリアから廊下へ場所を変え、その廊下をとぼとぼ歩きながらさっきの食い逃げの件についてねちねち考えていた。

あ、でも不思議だよね。ねちねち考えてる人嫌いなのにこうやってねちねち考えてる自分ってさ。
人の事いえないって奴。不思議だわー本当。
………どうしよ、うざいんだか不思議なんだかわからんくなってきた。

とりあえず、本でも読んで気を休めてしまおう。


吸い寄せられるように図書室に入った私。
入り口付近でトラップにかかってしまった。


「スズノリーっ! いい加減本返せー」


男のはっきりした声がガラーンとした中にこだまする。
声の主は図書委員の一人、正儀 陽介(マサキ・ヨウスケ)私と同い年であり、ある期間になると私の敵にもなる男。

嗚呼、どうやら今日は本を読むには最適な日ではなさそうだ。
出直そう。無視!
その場から2歩大股で下がって回れ右しようとした瞬間、すかさず正儀は私を呼び止める。



「おい鈴糊、無視すんな」

「……」

「…だんまりか、いい度胸だな。その様子だとあの貸し出し期間の過ぎ去った本は持ってきてないようだな。ソレが理由でここから逃げようとしたみたいだけど、俺にはすべてお見通しだったぞ」

「…ごめん、今日あの本持ってきてないから」

「ないから…?」

ああ、もう。楽しそうにカウンター席からニヤニヤしやがって!!!
その馬鹿にしたような聞きかえしが一番嫌いだ。

「明日、返しにきます…」

そう言った私のしおらしい姿に満足したのか、奴は含みのある微笑で「正直でよろしい」なんて、教師ぶったことを言うものだから軽度のイラつきを覚えた。そのことを奴にはいえないが。


…それにしてもこの男、暇そうだ。
カウンター席にだらしのない姿で背もたれに寄りかかり、愛用の黒縁めがねをいつもより少し下に下げてつけている。
黒いくせっ毛のついた髪をぐしゃぐしゃとかきまわしているし、ハハ、なんだおまえ。
今の正儀なら世界一だらしのない男ナンバーワンに輝けるはずだろう。


そんな空想を頭の中で繰り広げている最中も正儀が私をなぜか、ガン見している。
私自身ガン見されるのは好きではないし、落ち着かないが、頭の中でこのガン見してる奴のことを面白おかしく考えていることをこの男は知らないわけだから妙なスリリングさと楽しさを感じた。


「鈴糊、甘いもん食った?」

心の中でニヤニヤしていた私に突然投げかけられた質問。
終始戸惑い、この男はエスパーなんじゃないかと考えてしまった。
んなわけないはず。


「うん、食べた。なんで?」

「…顔にチョコついてる」






急いで手でぬぐった。







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