小説『裏方で奥の手な主人公(?)』
作者:作者B(トライアル☆プロダクト)

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第3問 ここから主人公の影が薄くなります

英語
【第三問】

 問 以下の英文を訳しなさい。
[This is the bookshelf that my grandmother had used regularly.]


 姫路瑞希の答え
[これは私の祖母が愛用していた本棚です。]

 教師のコメント
 正解です。きちんと勉強していますね。

 土屋康太の答え
[これは                ]

 教師のコメント
 訳せたのはThisだけですか。

 吉井明久の答え
[☆●◆▽┌♪*×           ]

 教師のコメント
 できれば地球の言語で。

 橘悠里の答え
[Dies ist das Bucherregal,dass meine Grobmutter hatte regelmabig genutzt.]

 教師のコメント
 贅沢をいえば日本語でお願いします。





Aクラスへの宣戦布告。それはFクラスにとっては無謀にも近い提案だ。

『そんなの勝てるわけがないじゃないか』

『これ以上設備のランクを落としたらどうする気だよ』

『姫路さんがいたら別に何もいらないな』

それを証拠に、クラスの至るところから弱気な声が上がる。

「そんなことは無い。必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる」

しかし雄二は、心配無用と言わんばかりの表情をしながら言い放つ。

「このFクラスには試験召喚戦争で勝つための要素が全て揃っている。今からそれを説明してやる」

そんな雄二の言葉に皆がざわめく。それを知ってか知らずか雄二は教室を見渡し、ある人物を探す。

「……おい、康太。床に顔をつけて姫路のスカートの中を撮影しようとするのは止めろ」

「…………!!(ブンブン)」

「はッ、はわッ!?」

必死になって顔と手を左右に振り否定のポーズをとる康太。
そして、顔についた畳の跡を隠しながら壇上へと歩き出した。

「土屋康太。こいつがあの有名な『寡黙なる性識者』ムッツリーニだ」

「…………!!(ブンブン)」

ムッツリーニ。本名はそれほど知られていないが、男子生徒には畏怖と尊敬の、女子生徒には軽蔑の眼差しを向けられている。
更に裏ではムッツリーニ商会なるものも存在し、日々裏取引が行われている。……もっとも、取引されているのは主に写真だが。

『ムッツリーニだと……!?』

『馬鹿な、奴がそうだというのか……?』

『だが見ろ。鼻血にカメラ、あそこまで明らか覗きの証拠があるのに誤魔化す気だぞ……』

『流石ムッツリ界の帝王、手鏡しか思い付かない俺とは格が違う……!』

既にばれているのにも関わらず畳の跡を必死に隠そうとしている姿は、雄二の言葉に信憑性を持たせた。

「姫路のことは説明する必要もないな」

「わ、私ですかっ?」

「ウチの戦力の要だ。期待しているぞ」

実際はAクラスの上位に食い込む程の実力を持つ彼女なら、これ程心強い存在はいないだろう。

『そうだ!俺達には姫路さんがいる!』

『彼女ならAクラスが相手でも戦える』

『彼女さえいれば何もいらないな』

クラスの反応を見て満足した雄二は話を進める。

「木下秀吉、それに橘悠里だっている」

『おお……!演劇部コンビ!』

『ああ。アイツ確か木下優子の……』

『橘って確か、もっと成績良くなかったか?』

『じゃあ奴も体調不良だったのか』

「勿論俺も全力を尽くす」

『確かに、なんだかんだ言ってやってくれそうな奴だな』

『そういえば坂本って、小学生の頃は神童って呼ばれてなかったか?』

『マジで!?それじゃあ、Aクラスレベルが二人もいるってことかよ!』

気が付けば、クラスの士気はどんどん上がっていき、もはや最高潮に近かった……

「それに、吉井明久がいる」


……シン――


そして一気に下がった。
明久は完全にオチ扱いだった。

「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!全くそんな必要ないよね!」

『誰だよ、吉井明久って』

『聞いたことないぞ』

『それ以前にこのクラスにいたか?』

「もう忘れられてる!?……ホ、ホラ!折角上がってきた士気に翳りが見えてるし!僕は雄二たちと違って普通の人間なんだから―――って、なんで僕を睨むの?僕のせいじゃないでしょう!」

吉井明久。確かに余り特筆すべき点は無いと思われる。ある一点を除いて……

「そうか、まあ知らないのも無理はない。教えてやろう。こいつは……」

一息おいて、雄二が再び口を開く。

「この吉井明久は、学園唯一の" 観 察 処 分 者 "だ!」

『『『なっ、なんだってェー!!』』』

雄二が言葉を告げた途端、クラスが喧騒に包まれた。

『マジかよ。観察処分者だって』

『そんな奴がこのクラスに!?』

『俺初めて見たぞ』

『まさかこんなのだったとは……』

『絶望した!』

「あの……」

その中で一人、瑞希が手を挙げていた。

「どうした?姫路」

「観察処分者って、そんなにすごいんですか?」

瑞希が小首を傾げている。彼女には馴染みのない言葉らしい。

「ああ、これは誰しもなれるものじゃない。成績が悪く、学習意欲に欠ける問題児(バカ)に与えられる特別待遇だ。」

「ほぇ〜凄いんですね」

「やめて!今はその純真な瞳がとても痛い!」

観察処分者。要は学園一の問題児であり、バカの代名詞とも呼ばれている。

「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服しようと思う」

「あれ?散々弄ばれた挙げ句に放置されてる!?」

使い捨てカイロの如く、場を暖め終えた明久は雄二によって忘却の彼方へと飛ばされた。

「いいか!我々は最下位だ!」

『おおーーっ!!』

「学園の底辺だ!」

『おおーーっ!!』

「誰からも見向きもされない、これ以上下のない屑の集まりだ!」

『おおーーっ!!』

「つまり、もう落ちるところはないということだ!」

『『『おおーーっ!!』』』

「皆、この境遇は大いに不満か?」

『『『当然だ!!』』』

「ならば全員|筆(ペン)を執()れ!俺達に必要なのは卓袱台ではない!システムデスクだ!」

『『『おおぉぉぉーーっ!!』』』

士気は充分に高まったといえる。そして、クラスメイトにさえスルーされた明久に雄二は更に追い討ちをかける。

「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。頼んだぞ明久」

「えっ!?……下位勢力の宣戦布告の使者って大抵酷い目に遭うよね?」

「それは映画や小説の中の話だ。大事な使者に失礼な真似をするわけないだろう?」

「で、でも……」

「心配するな明久。なんだかんだ言って、雄二は親友を傷つけるような真似はしない」

不安そうな明久に、悠里がフォローをかける。

「悠里の言う通りだぞ。騙されたと思って行ってみろ」

「……わかったよ。それじゃあ、行って来るね」

「ああ、頼んだぞ」

『がんばれよ!』

『お前ならできる!!』

クラスメイトの歓声と拍手をバックに、明久はDクラスへ向かっていった。





「……何か弁解は?」

「予定調和だな」

「やっぱり騙してたんだね!こっちは大変だったんだから!」

制服がところどころ破れ、顔もボロボロになっている。どうやらDクラスから報復を受けたようだ。

「おい、人聞きの悪いことを言うな。俺は嘘をついてないぞ」

「その通りだ明久。悠里は嘘をついてない」

「オレァクサマヲムッコロス」

明久の呪詛を雄二達が華麗に受け流していると、瑞希と美波が心配そうに近づいてきた。

「吉井君、大丈夫ですか?」

「吉井、大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫。ほとんどかすり傷」

瑞希と美波が明久に声をかける。こうやって心配されるのも悪くないなぁ、と明久は自らの幸運を噛み締めていた。

「平気だよ。心配してくれてありが―――」

「そう、良かった……。ウチが殴る余地はまだあるんだ」

「それどんな心配なの!?」

しかし人生そう上手くはいかない。それが明久クオリティ。

「ほら。遊んでないで、今からミーティングを行うぞ」

そして、そんな明久に一ミクロンの優しさすら見せずに皆を誘導する雄二。本当にこいつは友達なのだろうか、と週に七回ほど疑問に思う明久であった。

「大変じゃったの」

「あの、痛いかったら言って下さいね?」

そう告げて、秀吉と瑞希は雄二の後を追う。

「ほら、吉井。アンタも来るの」

明久は美波に腕を引っ張られた。

「あーはいはい」

「返事は一回!」

「へーい」

「……一度、Das Brechen――ええと、日本語だと……」

「…………調教」

いつの間にか近くに来ていたムッツリーニが答えた。

「そう!調教の必要がありそうね」

「調教って……せめて教育か指導って言ってくれない?」

「それじゃ、間をとってZuhtigung――」

「…………それはわからない」

「確か、折檻とかじゃかなったか?」

答えたのは悠里だった。

「それ悪化してるよね」

「そう?」

「というかムッツリーニ。どうして『調教』なんてドイツ語を知ってるの?」

「…………一般教養」

(なんて嫌な教養なんだ)

「ウチはむしろ、橘がドイツ語を知ってるほうが驚きよ」

「あ、そういえば」

「ん?ああ、ちょっと私生活で必要に……」

(どんな私生活なんだろう)

そんな会話をしながら校内を歩いている明久一行は、屋上にたどり着いた。

「明久。宣戦布告はしてきたな?」

雄二がフェンスの前にある段差に腰を下ろす。

「一応今日の午後に開戦予定と告げて来たけど」

他の人達もそれにならって各々腰を下ろした。

「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」

「そうなるな。明久、今日の昼ぐらいはまともな物を食べろよ?」

「そう思うなら……お腹いっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」

「お前は踏みつけられたヤキソバパンや酸味の効いた野菜炒めでも食ってろ」

明久を容赦なく切り捨てる悠里。

「えっ?吉井君ってお昼食べない人なんですか?」

「いや……最近はきちんと三食食べてるよ」

「ほう。そこまで言うなら、弁当のひとつくらい持ってきたんだろうな?」

「持ってきたよ……塩と水……」

その瞬間、皆から明久に憐れみの視線が向けられる。

「明久。食事はきちんと取らぬとダメじゃろうに」

「こいつは親からの仕送りを全部漫画やゲームに注ぎ込んで食費を削ってるんだ。同情の余地もない」

「吉井……」ジトーッ

「ぼ、僕は悪くないぞ!仕送りが少ないだけだ!」

「あの……」

明久が反論していると、瑞希が明久に話し掛けてきた。

「……良かったら私、お弁当作ってきましょうか?」

「……え?いいの?」

「はい。明日のお昼で良ければ」

「ありがとう!僕、塩と水以外のものを食べるなんて久しぶりだよ!」

「良かったじゃないか明久。手作り弁当だぞ?」

「うん!」

雄二のちょっかいも素直に受け流すほど舞い上がる明久。それほど手料理が嬉しいらしい。

「……ふーん。瑞希って随分優しいのね。"吉井だけ"に作ってくるなんて」

「あ、いえ!その、皆さんにも……」

「俺達にも?いいのか?」

「はい。嫌じゃなかったら」

「それは楽しみじゃのう」

「…………(コクコク)」

「……お手並み拝見ね」

これで一同は瑞希の手作り弁当を食べれることになって、皆楽しみのようだ。
――――一人を除いて…………

「さて、話が結構逸れたな。試召戦争の話に戻ろう」

いよいよ本題を切り出す雄二。

「雄二よ。一つ気になっていたんじゃが、どうして戦う相手がAでもEでもなくDクラスなんじゃ?」

「そういえばそうね」

「ああ、そのことか」

雄二が悠然とうなずく

「当然考えがあっての事だ。理由は色々とあるんだが……一番の理由は"戦うまでもない相手だから"だな」

「え?でも、僕らよりはクラスが上だよ?」

「試験の時点では向こうの方が強かったかもしれないが、実際は違う。お前の周りにいる面子をよく見てみろ」

「えーっと……」

雄二に言われてその場にいるメンバーを見回してみる明久。

「美少女二人と馬鹿が三人とムッツリが一人いるね」

「誰が美少女だと!?」

「ええっ!!雄二が美少女に反応するの!?」

「…………(ポッ)」

「もうっ、吉井ったら正直ね〜」

「どうしよう!僕一人だけじゃツッコミ切れない!」

「まぁまぁ。落ち着くのじゃ、雄二、ムッツリーニ、島田」

そう二人を宥めたのは、カテゴリー美少女に含まれる秀吉だ。

「そ、そうだな」

コホン、と咳払いして雄二が説明を再開する。

「まず、Dクラスと戦う理由の一つは試召戦争に慣れることだ。」

「それなら、なおのことEクラスのほうが良いんじゃない?」

「Eクラス相手だと、姫路が健在の今、正面からやり合っても勝てる。だが、Dクラス以上となると話は別だ。」

「?Dクラスとは正面からぶつかると厳しいの?」

「ああ。確実に勝てるとは言えないな」

「???」

「要するに今後雄二の策をスムーズに行う為にも、Dクラス辺りで試召戦争を経験しておく方が後々のためになるということだ。正面突破じゃ練習にもならないし」

明久の様子を見兼ねて、悠里が補足をする。

「そういうことだ。それに景気づけにしたいしな。何より、さっき言いかけた打倒Aクラスの作戦への保険だ」

「あ、あの!」

と、そこで少し大きめな瑞希の声で遮られた。

「ん?どうした姫路」

「えっと、その。さっき言いかけた、って……吉井君と坂本君と橘君は、前から試召戦争について話し合ってたんですか?」

「ああ、それか」

「それはついさっき、姫路の為にって明久に相談されて―――」

「それはそうと!」

二人の台詞を遮るように、大きな声を出す明久。

(そこで邪魔しても手遅れなんじゃ……)

「さっきの話、Dクラスに勝てなかったら意味がないよ」

「負けるわけがないさ」

明久の心配を笑い飛ばす雄二。

「お前らが俺に協力してくれるなら勝てる。いいか、ウチのクラスは―――最強だ」

雄二の言葉は、まるで根拠がないのに、なぜかその気にさせる。そんな力があった。

「まっ、当然だな。」

「いいわね。面白そうじゃない!」

「そうじゃな。Aクラスの連中を引きずり落としてやるかの」

「…………(グッ)」

「が、頑張りますっ」

打倒Aクラス。字面だけ見れば無謀かもしれない。しかし、ここにいる人は誰一人として、その実現を疑う者は居なかった。

「そうか。それじゃ、作戦を説明しよう」

涼しい風がそよぐ屋上で、悠里たちは勝利の為の作戦に耳を傾けていた。









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