小説『裏方で奥の手な主人公(?)』
作者:作者B(トライアル☆プロダクト)

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第4問 Dクラス戦開幕!(ただし主人公、てめぇは駄目だ)

数学
【第四問】

 問 以下の問いに答えなさい。
『(1)4 sin X + 3 cos 3X = 2 の方程式を満たし、かつ第一象限に存在するXの値を一つ答えなさい。
 (2)sin (A + B)と等しい式を示すのは次のどれか、?〜?の中から選びなさい。
    ?sin A + cos B   ?sin A - cos B
    ?sin A cos B    ?sin A cos B + cos A sin B』


 姫路瑞希の答え
『(1) X = π/6
 (2)?       』

 教師のコメント
 そうですね。角度を『゜』ではなく『π』で書いてありますし、完璧です。

 土屋康太の答え
『(1) X = およそ3』

 教師のコメント
 およそをつけて誤魔化したい気持ちもわかりますが、これでは解答に近くても点数はあげられません。


 吉井明久の答え
『(2) およそ?』

 教師のコメント
 先生は今まで沢山の生徒を見てきましたが、選択問題でおよそをつける生徒は君が初めてです。

 橘悠里の答え
『(吉井)?』

 教師のコメント
 吉井という問題も、?という回答番号もありません。





「吉井!木下達がDクラスの連中と渡り廊下で交戦状態に入ったわよ!」

声を上げて明久のところへ来たのは、同じ部隊に配属された美波だ。

(改めて見ると、背は高くて脚も綺麗なのに、どこか女性として魅力に欠けるのは何故なんだろう)

「なッ何よ、じろじろ見て」

「あぁ胸か」

「……アンタの指を折るわ、小指から順に」

「そッそれよりホラ!試召戦争に集中しないと!」

今現在前線にいるのは、秀吉率いる先攻部隊。その後ろに明久率いる中堅部隊が配置されている。
何故こんな状況になっているのかというと、それは数時間前にさかのぼる……



―――――
――――――――――
―――――――――――――――


「まず作戦として、秀吉には先攻部隊を率いて貰う」

「承知」

「そして明久。お前は隊長として、その後方にいる中堅部隊を指揮しろ」

「えっ!?ぼ、僕!?」

「そうだ。補佐に島田もつける。お前らの仕事は、先攻部隊が戦闘で消耗した点数を補給している間前線を維持することだ」

「ま、待ってよ雄二!それなら点数も高くて人望がある姫路さんがやったほうが……」

「それは無理だ」

「どうして?」

「召喚獣の戦闘力は最後に受けたテストの点数に比例する。明久、俺達が最後に受けたテストは何だ?」

「振り分け試験……あっ」

「……私は途中退席したから0点なんです」

「姫路さん……」

「だが、試召戦争が開戦したら回復試験を受けることができる」

「ということは、姫路と悠里は途中から参戦するということかの?」

「いや。姫路はともかく、悠里は今回参加しない」

「なんでさ!?」

「今回は悠里を使わなくても勝てる。手札は多いに越したことはないからな。悠里は回復試験が終わり次第、俺と一緒に後方部隊で待機だ」

「りょーかい」

「いいか!この作戦は前線が鍵を握る。なんとしても、戦線を維持するんだ!」


―――――――――――――――
――――――――――
―――――



そんなわけで成り行きで隊長を任された明久だったが、今はきちんとその責務を果たそうと前線に耳を傾けていた。

『0点になった戦死者は補習だ!』

『げぇーっ!鉄人!?』

『捕虜は全員この戦闘が終わるまで特別講義だ!何時間かかるかわからんが、戦争が終わるまでたっぷりと指導してやる』

『お、鬼の補習はいやだ!』

『あれは補習なんかじゃない!拷問だ!』

『これは立派な教育だ。趣味は勉強、尊敬する人は二宮金次郎という理想的な生徒に仕立て上げてやるから覚悟しろ』

『だ、誰かっ!助けっ―――イヤァァァ―――(バタン、ガチャ)』



だいたいの状況を掴んだ明久は、美波に指示を出す。

「島田さん、中堅部隊全員に通達」

「ん、なに?作戦?何て伝えるの?」

「後ろに向かって全速前進―――」

「この意気地無し!」

「目が、目がぁっ!」

途端に美波にチョキで殴られた。別名バ○ス。

「目を覚ましなさい、この馬鹿!アンタは中堅部隊の隊長でしょう!臆病風に吹かれてどうするのよ!」

「ぐぉぉぉ……せめてグーかパーで殴って欲しい……」

「ウチらの役割は前線部隊の援護でしょう?アイツらが消耗した点数を補給している間、ウチらが前線を維持しないといけないんだから」

その通り。この役割は作戦において大きなファクターを占める。働き次第で戦況を大きく左右しかねない。

(島田さん、君はなんて男らしいんだ!涙と激痛が止まらないよ!)

こんなことではいけない、と明久は自らを奮い起たせて立ち上がった。

「ごめん、僕が間違っていた―――」

「大変だ!島田、前線部隊が後退を開始したぞ!」

「総員退避よ!」

「七行前の台詞はどうしたの!?」

ものすごい変わり身である。

「やっぱりウチらには荷が重すぎたのよ」

「そ、そうだね。僕らは精一杯努力したし」

くるりとFクラスに向かって方向転換する明久と美波。するとその前には、本陣に配置されているはずのFクラス横田がいた。

「ん?横田じゃない。どうしたの?」

「代表が、中堅部隊が後退した時に伝えろと伝令を預かっています」

メモを見ながら横田がハキハキとした声で告げる。

「『爪って、二十も必要無いと思うんだが―――』」

「全員突撃しろぉーっ!」

いつの間にか二人は部隊を率いて戦場へ向かってダッシュをしていた。余程雄二の伝令が効いたらしい。
すると、前方からこちらに向かって走ってくる人影を見つけた。

「明久、援護に来てくれたんじゃな!」

どうやらやって来たのは秀吉のようだ。秀吉は明久達の姿を見つけると思わず安堵の笑みをこぼす。その背景に花が咲き乱れて見えるのはきっと気のせいだろう。

「秀吉いつも可愛……大丈夫?」

「うむ。戦死は免れておるが、もうこれ以上の戦闘は無理じゃ」

「そっか。それなら早く戻ってテストを受け直してこないと」

「そうじゃな。全教科は無理でも、一、二教科くらいは受けてくるとしよう」

言うや否や、秀吉は教科に向かって走っていき、その後ろに前線部隊が続く。

「吉井!ちゃんと試召戦争のルールは覚えてきたでしょうね?」

「もちろん。悠里に言われてきちんと確認してきたから」

ここで、試召戦争のルールについて確認しておこう。



 文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール


一、原則としてクラス対抗戦とする。各科目担当教師の立会いにより試験召喚システムが起動し、召喚が可能となる。なお、総合科目勝負は学年主任の立会いのもとでのみ可能。

二、召喚獣は各人一体のみ所有。この召喚獣は、該当科目において最も近い時期に受けたテストの点数に比例した力を持つ。総合科目については各科目最新の点数の和がこれにあたる。

三、召喚獣が消耗するとその割合に応じて点数も減算され、戦死に至ると0点となり、その戦争を行っている間は補修室にて補習を受講する義務を負う。

四、召喚獣はとどめを刺されて戦死しない限りは、テストを受け直して点数を補充することで何度でも回復可能である。

五、相手が召喚獣を呼び出したにも関わらず召喚を行わなかった場合は戦闘放棄とみなし、戦死者同様に補習室にて戦争終了まで補習を受ける。

六、召喚可能範囲は、担当教師の周囲半径10メートル程度(個人差あり)。

七、戦闘は召喚獣同士で行うこと。召喚者自身の戦闘参加は反則行為として処罰の対象となる。



今回は学年主任の立ち会いなので、総合科目の召喚獣勝負となっている。

「吉井、見て!」

明久の隣で一緒に走っていた瑞希が叫ぶ。

「五十嵐先生と布施先生よ!Dクラスの奴ら、化学教師を引っ張ってきたわね!」

そこには、二年化学担当の五十嵐教諭と布施教諭が渡り廊下にいた。どうやらDクラスは、立会人を増やして一気に片をつけるようだ。

「島田さん、化学の点数は?」

「60点台常連よ」

流石にFクラスというだけあって、お世辞にも良い点数とは言えない。

「よし、それならあの二人の先生に近付かないように学年主任のところに行こう」

「高橋先生のところね?了解!」

目立たないように隅へ移動する明久と美波。するとそこへ……

「あっ、そこにいるのはもしや美波お姉さま!」

「くっ!ぬかったわ!」

Dクラスの一人に美波が見つかってしまった。五十嵐先生教諭を伴って近づいてくる。このままでは、二人とも補習室送りにされてしまうだろう。
明久は考える。この状況を打開するには……
?ハンサムな明久は突如反撃のアイディアをひらめく。
?仲間がきて助けてくれる。
?見捨てる。現実は非情である。

(ここで丸を付けたいのは答え?だが期待は出来ない……。同じ部隊の皆は既にDクラスの人との戦闘をしているし、自陣に居る雄二達があと数秒の内に颯爽と現れて助けてくれるようなご都合主義展開があるとは思えない。それに、雄二みたいに頭の回転が良くない僕には僅かな時間で打開策を思い付くなんて不可能だ。つまり―――)

答え―? 答え? 答え? 見捨てる。現実は非情である。

「よし。島田さん、ここは君に任せて先に行く!」

「ちょっ!普通『ここは僕に任せて先に行け!』じゃないの!?」

「そんな台詞、リアルじゃ通用しない!」

「このウジ虫野郎!」

「お姉さま!逃がしません!」

「くっ!美春!やるしかないってことね……!」

「「―――試獣召喚(サモン)っ!」」

喚び声に応じて美波の足元に幾何学模様の魔方陣が現れ、召喚獣が姿を見せる。
現れたソレは、軍服姿で手にはサーベルを持っている。しかし、それ以外は本人にそっくりで、言うなれば『デフォルメされた島田美波』である。相手も同様に召喚獣を従えている。最も、得物はちゃんとした剣だか。

「愛し合っている者同士が戦う宿命だなんて、やっぱり美春とお姉さまは運命の仲なんですね!」

「ウチは普通に男子が好きなの!」

「そんなはずはありません!お姉さまは下らない倫理に縛られているだけです!美春には分かります!」

「このわからずや!」

(……なんだか、島田さんが遠いや)

「行きます、お姉さま!」

二人の召喚獣の距離が詰まる。そして……

「はあぁぁっ!」

「やあぁぁっ!」

戦いの火蓋が切られた。





「こ――のっ!」

「負けません!」

それぞれの召喚獣が正面からぶつかり合い、一進一退の攻防を繰り返している。

「島田さん!真正面からじゃ不利だ!」

「そんなこと!言われなくたってッわかってるけどっ!」

直後、均衡が崩れ相手の剣が喉元へ突き付けられる。

『Fクラス 島田美波 vs Dクラス 清水美春
 化学 53点 vs 94点』

(島田さん、60点いってないじゃないか……)

「さ、お姉さま。勝負はつきましたね?」

「い、嫌ぁっ!補習室は嫌ぁっ!」

美波が取り乱す。余程鬼の補習は嫌らしい。

「補習室?……フフッ」

楽しそうに笑いながら、美春は美波の手を引っ張り歩き出す。

「ふふっ。お姉さま、この時間なら保健室のベッドは空いていますわね」

「よ、吉井、早くフォローを!このままだとウチ、二度と表舞台に戻って来れなくなる気がする!」

流石に、美波のピンチに動き出す明久。

「う、うん。わかっ―――

「……美春とお姉さまの邪魔をする者は、消しますわよ」

―――島田さん、|Hail 2 U(君に幸あれ)!」

その時、明久が無意識にとったのは敬礼のポーズだった。

「何で戦う前から別れの言葉なのよ!」

「邪魔者は、殺()ってやるです!」

美波の召喚獣を動けなくして、明久の方へ向かっていく美春。

「まずいっ!」

「吉井、ここは任せろ!―――試獣召喚っ」

『Fクラス 須川亮 vs Dクラス 清水美春
 化学 76点 vs 41点』

須川の召喚獣が敵を倒す。先の戦闘で、結構点数を消耗していたようだ。

「島田、大丈夫か?」

「ええ、助かったわ須川君。ありがとう。西村先生!早くこの危険物を補習室へお願いします!」

「おお、清水か。たっぷりと勉強漬けにしてやる。こっちへ来い」

召喚獣に止めを刺され、『戦死』した美春は、補習室へ連行された。

「無駄ですわよお姉さま!たとえ美春が倒れても、第二、第三の美春がお姉さまを手に入れ(バタンッ、ガチャ)」

何か不吉な言葉を残し、美春は補習室へ連行されていった。

「吉井」

「島田さん、お疲れ。危ない戦いだったね」

「吉井」

「さ、行こう須川君。僕達の戦いはこれからだ」

「吉井ぃっ!」ガシッ

「は、はいぃぃぃっ!」

肩を掴まれ、思わず返事をする明久。

「……何処へ行こうというのかしら?」

「……片腹が痛いのでちょっと保険室へ」

「…………」

「…………」

流石は戦場といったところか、殺気がそこらじゅうに蔓延している。……主に明久の後ろから。

「痛みは一瞬よ!試獣召―――」

「誰か!島田さんが錯乱した!本陣に連行してくれ!」

「落ち着け、島田!吉井隊長は味方だ!」

須川が美波を羽交い締めにしてなだめる。

「HA☆NA☆SE!コイツは敵!ウチの倒すべき敵なの!」

「す、須川君、よろしく」

「了解」

「こら、離しなさい!吉井!絶対に許さないからねッ!」

「は、早く連れて行って!その見ただけで相手を石にしそうな視線は危険だ!」

「ちょっと、放し―――殺してやるんだからぁーっ!」

物騒な捨て台詞を残し、連れていかれる美波。

「と、とにかく、秀吉達が補給している間、前線を維持するんだ!」

怒声や悲鳴が飛び交う廊下で、明久は声を張り上げる。

「させるな!前線を落とせば、後ろに居るのは補給中の連中ばかりだ!一気に攻め落とせ!」

明久の指示に対抗するように、Dクラスの指揮官の命令が響き渡る。

(よし、ここからが正念場だ!)

明久は気合いを入れて、戦場へ向かって行った。





「吉井隊長!横溝がやられた!布施先生側の守りは残り二人だ!」

「五十嵐先生側の通路には俺しかいない!援軍を頼む!」

「藤堂がやられそうだ!助けてやってくれ!」

予想以上の劣勢に、明久は指示を出す。

「布施先生側の人は防御に専念して!五十嵐先生側の人は総合科目の人とうまく交代しながら効率良く勝負するように!藤堂君は……諦めるんだ!」

皆が明久の指示に従って陣形を組み始める。

「Fクラスめ、何をするつもりだ!?」

「明らかに時間稼ぎをしているぞ!一体何をやる気だ!?」

どうやらDクラスの連中が意図に気付き始めたようだ。

「大変だ!斥候からの報告だと、Fクラスに世界史の田中が呼ばれたらしい!」

「な、何!?」

「Fクラスの奴ら、長期戦に持ち込む気か!」

Dクラスの偵察部隊に田中教諭が見つかったらしい。
世界史の田中教諭はおっとりとした初老の男性で、採点の甘さには定評がある。
その代わり採点に時間がかかるが、長期戦に於いては田中教諭の方が重宝される。

「吉井、Dクラスは数字の木内を連れ出したらしい」

先程美波を連行した須川が報告してくる。
木内教諭は田中教諭と逆に、採点は厳しいがその早さは群を抜いている。

(Dクラスは一気にケリをつける気だな。それなら……)

「須川君!」

「なんだ?」

「時間を稼ぐために、偽情報を流して欲しいんだ」

「偽情報?でもDクラスの奴らに流してもあまり効果は期待出来ないぞ」

今、Dクラスを指揮している塚本は声が大きい。よって、混乱してもあっという間に収められてしまうだろう。

「違うよ。対象はDクラスじゃなくて、先生だよ。他の所へ行ってくれるように」

「……成る程。確かに効果的だ」

「でしょう?」

「ああ。内容は任せてくれ。必ずや騙してみせよう」

「うん。よろしく」

須川はそう告げると、活き活きしながら走っていった。その光景に一抹の不安を感じながらも、明久は戦場に目を戻す。





「吉井ぃ……次会ったらコロス……」

「まあ、その、なんだ。少し落ち着け」

本陣に連行された美波は悠里になだめられていた。

「しっかし雄二。よく明久に指揮を任せたな。何時も小馬鹿にしてるのに」

悠里は雄二に話を振る。

「ん?ああ、アイツは基本的にはバカだが、こういうときには頼りになるからな」

「ふ〜ん、そこまで買ってるなんて……悪友ゆえに、ってところか?」

「……バカゆえに、だ。」

「まっ、そういうことにして置くか」

口ではこう言ってるが、雄二はなんだかんだで信頼してるんだなぁ、と悠里は思っていた。

「まぁ、心配しなくても前線は大丈夫そうだな」

「……そういうお前も、アイツを随分買ってるようだが」

「ん?そうだな……アイツは、他人の為に後先考えないで身体を張れる本物のバカだからな」

「そうか」

何気ない会話をする悠里と雄二。そこへ、須川が駆け込んできた。

「坂本!吉井が、先生達に有効な偽情報を流して欲しいって……」

「ヨシイ、|death(デス)ッテ……?」

「ひぃっ!」

美波は、もう暗黒面に堕ちてしまったようだ。

「落ち着け、島田。そうだな、Dクラスが呼びそうな先生は……。おっ!そうだ!」

「何か思い付いたのか?雄二」

「ああ。島田の鬱憤の解消と、作戦成功の両方を満たすアイディアがな」


………………

…………

……


「塚本、このままじゃ埒があかない!」

「もう少し待っていろ!今数学の船越先生も呼んでいる!」

しばらく拮抗した状態を続けているが、これ以上立合の先生を呼ばれるのは、実力差がはっきり出てしまうため危険である。

(どうしよう。僕もいよいよ戦闘に入らないとまずいかもしれない……)

ピンポンパンポーン(お知らせします)

と、ここで須川の声で校内放送が流れ出した。

(船越先生、至急連絡があります)

しかも相手は丁度話題に上がっていた船越教諭だ。

(ナイスタイミングだよ、須川君―――)

(吉井明久が体育館裏で待っています)

(―――えっ?)

(生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです)

数学教師船越。45歳女性独身。婚期を逃し、単位を盾に生徒に交際を申し込んでいるらしい。

「吉井隊長……アンタぁ男だよ!」

「ああ。感動したよ。まさかクラスの為にそこまでやってくれるなんて!」

前衛部隊の仲間たちが明久に握手を求めてくる。

「ち、違―――」

『おい、聞いたか今の』

『ああ。Fクラスの連中、本気で勝ちにきてるぞ』

『あんな確固たる覚悟を持った奴らに勝てるというのか?』

Dクラスからそんな声まで聞こえてくる。

「皆、吉井隊長の死を無駄にするな!」

「絶対に勝つぞーっ!」

いつの間にかFクラスの士気にまで影響を与えていた。

「隊長、このままいけますよ!」

「…………」

「……隊長?」

「……クカ、」

「?」

「クカキケコカカキクケキキコカカキクココクケケケコキクカクケケコカクケキカコケキキクククキキカキクコククケクケカキクコケクケクキクキコキカカカ―――――ッ!!」

「た、隊長?しっかりして下さい!隊長!隊長ぉぉぉぉぉ!!」





「工藤信也、戦死!」

「西村雄一郎、総合科目残り40点です!」

「森川が戻ってこない!やられたか!?」

怒涛の勢いで攻めていた明久達だったが、少しずつ戦力の影響が現れ始めた。
中堅部隊の残りはわずか五人。いよいよかという時―――

「明久、あと少し持ちこたえろ!」

遥か後方に雄二たちの援軍が見えた。

「援軍だ!合流される前に全滅させるんだ!」

Dクラスを指揮している塚本が声を張り上げる。

(まずい!このままじゃ全員補習室送りだ!)

「五十嵐先生、Dクラス鈴木が召喚します!」

「させるか!Fクラス田中、行きます!」

次々と餌食になるFクラスのメンバーたち。

(仕方ない。皆の気が逸れている今のうちに……)

吉井が最後の策にでる。

「ああっ!霧島さんのスカートが捲れてるっ!」

Dクラスの背後を指して叫ぶ。

『なにぃっ!?』

その言葉にDクラスの男子はおろか、Fクラスの男子、果てにはDクラスの女子まで振り返っている。

『霧島さんのパンツはどこだ!?』

『パンツは誰にも渡さないぞ!』

(怖いくらいうまくいったな……でも、これなら!)

皆の注意が逸れているうちに、明久は近くの窓におもいっきり上履きを投げつける。


ガシャァァン!


破砕音とともに、窓が砕け散る。

『な、なんだ!?何事だ!?』

突然の出来事にその場にいる人たちが混乱し始めた。

「うわっ!島田さん!そんな物をどうする気だよ!」

自らの保身の為に小芝居をうちながら、明久は壁に備え付けられている消火器を掴み取り、安全ピンを抜く。


ブシャァァッ!


そして、消火薬を辺り一帯に思いきり吹き掛ける。

「う、うわ!何事だ!?」

「ペッペッ!こりゃ、消火器の粉じゃねぇか!」

「前が何も見えないぞ!」

「島田さん、キミはなんてことを!」

白い粉が視界を遮り、これで戦闘は困難となった。明久といえば、ちゃっかり一芝居打って自らの保身に努めていた。

「Fクラスの島田め!よくもやってくれたな!」

「ゆ゙る゙ざん゙!彼女にしたくない女子ランキングに載せてやる!」

「在学中に絶対彼氏が出来ないようにしてやるからな!」

だが、寧ろ更なる死亡フラグを立てた気がしないでもない明久だった。
そうこうしているうちに……


シュワァァァーー


スプリンクラーが作動し、視界が晴れていく。

「待たせたな、吉井!Fクラス近藤、行きます!」

Fクラスの本陣が合流し、戦闘が再開される。

「まずいっ!ここは一旦引くぞ!」

Dクラスの塚本から撤退命令が発せられる。

「深追いはするな。俺たちも明久たちを回収したら戻るぞ」

指示したのは雄二だ。本人らしからぬ消極的な命令だが、恐らく万全を期す為だろう。そこへ明久が合流する。

「さて、無事なようだな。明久」

「うん、まぁね」

そして雄二たちは部隊を立て直すため、戦場を後にした。





「明久、ナイスファインプレーだったな」

「雄二が素直に褒めるなんて…………貴様、校内放送を―――」

「ああ。ばっちり聞いたぞ」

とてもいい笑顔で言ってのけた雄二。相変わらず明久の不幸が大好物のようだ。しかし、明久はそんな雄二には目もくれず―――

「雄二、須川君がどこに居るか知らない?」

「さあ、もうすぐ戻ってくるんじゃないか?」

やれる、僕なら殺()れる……と、譫言(うわごと)のように呟く明久。

「ああ、ちなみにだが」

「……包丁はすでにある。靴下には砂が。後は……」

「あの放送の発案は俺だ」

「キサマの首だぁぁぁぁぁ!!」

明久が雄二に飛びかかる。

「あ、船越先生」

「ちぃっ!」

雄二の言葉を聞くや否や掃除用具入れに飛び込む明久。

「さて、明久(バカ)は放っておいて、そろそろ行くか」

「そうじゃな。ちらほらと下校している生徒も出てきたようじゃしな。うまく紛れ込めるじゃろ」

「…………(コクコク)」

「よし、一応悠里もついて来てくれ」

「わかった」

「皆!Dクラス代表の首を獲りに行くぞ!」

『おうっ!』

皆が教室を出て行く中で、一人だけ途中で止まった。

「明久、さっき雄二が言ってた船越先生な」

立ち止まった一人、悠里が話しかける。

「ありゃ、嘘だぞ」

そう言うと、悠里も教室を出ていった。そしてあたりを静寂が支配した……刹那―――

「逃がすか、雄二!」

明久は勢いよく教室を飛び出し、雄二に追い付くべく走り出す。
そして雄二が居るであろう廊下へたどり着くと―――

『Dクラス塚本、討ち取ったり!』

一際大きな声があがる。先程苦戦を強いられた塚本を、うまく倒したようだ。

「雄二、どこだ!」

だが、明久にとっては雄二の所在の方が重要らしい。
するとその時―――

「援軍に来たぞ!もう大丈夫だ!」

Dクラス代表の平賀が本隊を連れてやってきた。

「Dクラスの本隊か。皆気を付けてろ!」

「本隊の半分はFクラスの代表坂本を討て!他のメンバーは囲まれている奴らを助けるんだ!」

『おおー!』

平賀の指示により、あっという間に雄二たちはDクラスのメンバーに囲まれる。

「Fクラスは一旦、人混みに紛れて散開するんだ!」

「させるか!追い詰めて討ちとってやれ!」

(……ん?これは……)

個々人の実力に分があるDクラスは、Fクラスを追悼しにかかる。しかし、そのおかげで平賀の周りの防御も薄くなった。

「今だっ!」

これを好機と、明久は平賀に向かっていく。

「先生!Fクラス吉井が―――」

「そうはさせない!Dクラス玉野美紀、試獣召喚!」

「なっ!近衛部隊!?」

流石にFクラスの動向には注意していたのか、突如Dクラスの女子が明久の前に立ち塞がる。

「くっ、もう少しだったのに!」

「残念だったな。最も、お前の実力じゃ俺には勝てないけどな」

くうぅっ、と明久が悔しそうにしていると……

「何をやっている、明久」

突然雄二の言葉が飛んで来た。

「何の為にお前を生かしておいたのか、わからないのか?」

「雄二?」

「お前を先攻部隊ではなく中堅部隊の隊長にして、船越先生を使ってまでお前を温存しておいたのは、すべてこの時の為だろ?」

意味深な発言をする雄二。そして、何かに気が付いたのか、明久の目に力が入る。

「そうか。やれやれ、結局最後は僕が活躍することになるんだね」

「そいつは、一体……!」

「そう、この吉井明久は観察処分者だ!明久、お前の本当の力を見せてやれ!」

「いくぞ、試獣召喚!」

叫んだ直後、明久に魔方陣が顕(あらわ)れる。そして、その中から、明久の分身とも呼べる召喚獣が現れる。

「観察処分者の召喚獣には、特殊な能力が存在する。罰として、先生の雑用を手伝わされる為に、物体に触ることが出来る」

そう雄二が説明すると、召喚獣は、近くに置いてあった消火器を持ち上げてみせる。

「そして―――」

その瞬間、召喚獣が足を滑らせ―――

「召喚獣が受ける痛みは、召喚者にもフィードバックされる」

「ぐぉぉぉ!!頭に痛みがぁぁぁ!!」

明久は悶えながら、廊下に転がる。どうやら、消火器が召喚獣の頭にヒットしたようだ。
しばらくすると、明久は何事もなかったかのように立ち上がる。

「流石はDクラス代表。なかなかやるじゃないか」

「全く役に立たないな、そいつ」

「……なん……だと……!?」

「いや、十分役に立ったさ」

雄二は笑みを崩さず、次の言葉を放つ。

「姫路が来るまでの時間稼ぎとしてな」

「は?」

『何を言っているんだ?こいつは』といった顔をしている平賀。

「あ、あの……」

(ほう)けている平賀に、いつの間にか後ろに居た瑞希が申し訳なさそうに肩を叩く。

「Fクラス、姫路瑞希です。えっと……Dクラス平賀君に勝負を申し込みます」

「……は、はぁ。どうも?」

「ひ、姫路さん!?」

「えっと、あの……さ、試獣召喚です」

未だに状況の掴めない様子の平賀も、一応召喚獣を相対させる。明久も瑞希が来ることを知らなかったのか、驚きの声をあげていた。

『Fクラス 姫路瑞希 vs Dクラス 平賀源二
 現代国語 339点 vs 129点』

「え?あ、あれ?」

瑞希の召喚獣は、身の丈の倍はある大剣を軽々と構えている。対する平賀は、至って普通の武器。これでは勝負にならないだろう。

「ごッ、ごめんなさいッ!」

瑞希の召喚獣の一撃で、相手の反撃を許さず、Dクラス代表を下した。

「戦争終了!!勝者、Fクラス!!」

そうして、この戦いは幕を閉じた。






-4-
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