小説『裏方で奥の手な主人公(?)』
作者:作者B(トライアル☆プロダクト)

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第5問 最後の晩餐(主人公は逃亡)

物理
 問 以下の文章の( )に正しい言葉を入れなさい。
『光は波であって、( )である』


 姫路瑞希の答え
『粒子』

 教師のコメント
 よくできました。


 土屋康太の答え
『寄せては返すの』

 教師のコメント
 君の解答はいつも先生の度肝を抜きます。


 吉井明久の答え
『勇者の武器』

 教師のコメント
 先生もRPGは好きです。


 橘悠里の答え
『ゲ○ター線』

 教師のコメント
目だ!耳だ!鼻だ!





Dクラス代表 平賀源二 討死


『うぉぉーーっ!』

その報せを聞いたFクラスの勝鬨と、Dクラスの悲鳴が混ざり、耳が痛くなるような大音響が校舎に響き渡る。

『すげぇよ!Dクラスに勝てるなんて!』

『坂本雄二サマサマだな!』

『坂本万歳!』

『姫路さん愛してます』

至るところから雄二を褒め称える声が聞こえている。

『坂本!握手してくれ!』

『俺も!』

皆が雄二に駆け寄る。もはや英雄扱いだ。余程Fクラスの設備が嫌だったらしい。

「雄二!」

「ん?明久か」

明久もその集団に混ざり、雄二に駆け寄る。

「僕も握手を―――」

「ふんっ!」

ガシッ(雄二が明久の手首を捻り上げる)

「ぐぉっ!」

カランッ(明久の手から包丁が落ちる)

「…………」

「ゆ、雄二、皆で何かをやり遂げるって、素晴らしいね」

「…………」

「僕、仲間と一致団結して戦うことがこんなにも手首の関節が折れるように痛いぃぃぃっ!」

「ほれ、雄二。これを使え」

「おっ、サンキュー」

「す、ストップ!僕が悪かった!悠里もペンチ渡さないで!」

「……チッ」

そこまでやって、やっと解放された明久。

「痛たたた……。あっ、そういえば雄二、何で姫路さんが出てくること教えてくれなかったんだよ」

「お前に話したら、何時情報が漏れるかわかったもんじゃないからな」

「なんだと!ゆう―――すいません!謝るからペンチは止めて!」

二度と逆らうまい、そう誓う明久だった。
すると、雄二がまだ意気消沈しているDクラス代表のもとへ歩いていく。

「さて、Dクラス代表。一つ提案があるんだが」

「提案?」

「ああ、設備の交換だが、条件付きで免除してやってもいい」

「ちょ、ちょっと雄二、どういうこと?」

その予想だにしなかった会話に、明久は思わず口を挟む。

「明久、忘れたのか?俺たちの目標はAクラスだろ?」

「なら、何で最初からAクラスに挑まないのさ」

「はぁ……。少しは自分で考えろ。そんなんだから、近所の中学生に『バカなお兄ちゃん』なんて呼ばれるんだ」

「違うぞ、雄二。小学生だろ?」

「ははは、それは流石に―――」

「……まだ園児には言われてないし……」

「まさか……本当に言われたことがあるのか……?」

雄二と悠里の冗談は、冗談ではなかったようだ。

「と、とにかくだな。Dクラスの設備には一切手を出すつもりはない」

「それはありがたいが、その条件というのは?」

「まあ、大したことじゃない。俺が指示をしたら、"あれ"を動かなくしてもらえればいい」

雄二が指したのは、スペースの関係でDクラスの近くにある―――

「Bクラスのエアコンの室外機か」

「教師にある程度睨まれるかもしれんが、悪い取引じゃないだろう?」

確かに……と平賀は呟く。

「雄二、次はBクラスを狙うのか?」

「ああ」

「……成る程な」

悠里の問いかけを肯定する雄二。悠里も雄二の考えを読み取ったのか、思案顔になる。

「……わかった。その提案を呑もう」

「タイミングは後日伝える。今日はもう帰っていいぞ」

「ああ、わかった」

じゃあ、と手を挙げて平賀は去っていった。

「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくりと休んでくれ!解散!」

雄二の号令と共に、皆雑談を交えながら帰っていった。

「雄二、悠里。僕らも帰ろうか」

「おう」

「そうだな」

明久たちも帰路についた。





「それにしてもさ」

「ん?」

「Dクラスとの勝負って本当に必要だったの?エアコンの室外機くらい他の方法でも壊せたと思うけど」

「ああ、そのことか」

帰り道、明久が雄二に訪ねる。

「確かに室外機を壊すくらいわけないが、理由は他にもある。試召戦争に慣れさせる為だとか、他のクラスにプレッシャーを与える為だとか、自信をつけて士気を上げる為だとかな」

「それじゃ、Dクラスの設備を手に入れなかったのは?せっかく卓袱台から机になるチャンスだったのに」

「戦争反対派の抑制と不満によるモチベーションの維持、ってところか?雄二」

「そうだ。俺達が目指してるのは最新鋭の設備だからな。あんな校舎の隅にあるような小部屋で満足されても困る」

「そういえばここの学校って、クラスの並びがバラバラだよね」

二年生の教室は新校舎の端から向かい合わせにC、Dクラス、その隣にA、Bクラス、階段を挟み旧校舎にEクラス、そのさらに隣にFクラスという配置になっているのだ。

「まあ、クラスによって設備の質も広さも違うからそれは仕方ないだろ」

「でも早いところ良い設備にしないと、明久が暴れまわったら教室が持たないかもな」

「あはは、僕の点数じゃ殴ったって罅(ひび)くらいしか入らないよ」

「……いや、それでも十分まずいと思うんだが」

笑い惚ける明久に対し深々と溜め息をつく悠里。

「はぁ……まあいい。今日くらいは少しは勉強しとけよ明久。一度でいいから、壁を突き破れるくらいの点数をとってみてほしいものだがな」

「はいはーい。精々教科書くらいは読んで……」

明久が、鞄を漁る手を止める。

「ん?どうした?」

「……教室に忘れてきたみたい」

「あほか、お前は。さっさと取って来い」

「うん、二人は先に帰ってて」

そう言うと、明久は駆け足で来た道を戻っていった。

「全く……あいつは何をやってるんだか」

「……そんなことより、悠里」

「なんだ?」

「Bクラスとの戦争時にお前に頼みたいことがある」

「頼みたいこと?何だ?」

「ああ。実は―――」





「WAWAWA忘れ物〜」

明久は教室の前に着き、扉を開ける。

「よ、吉井君!?」

「あれ?姫路さん?」

中には、何か手紙を書いている瑞希が居た。

「あ、あのっ、これはっ」

必死に手紙を隠そうとする瑞希。

「えっと―――ふあっ」

コテン、と卓袱台につまずいて転ける。その拍子に、手紙の一枚が明久の前に飛んできた。


(あなたのことが好きです)


瑞希が書いたであろう綺麗な字で、そう書かれていた。

「ち、違うんです!いえ、違わないんですけど……兎に角、違うんです!」

「…………」

明久は飛んで来た手紙を綺麗にたたみ、オロオロしている瑞希に手渡す。そして、何か悟りを開いたかのように一言。

「変わった不幸の手紙だね」

『コイツ認めない気だ!』と、誰かが居たらツッコんでいただろう。

「そ、そう解釈されても困るんですけど……」

「大丈夫、僕に任せて。正しい不幸の手紙の書き方を教えてあげるよ」

「あの……これは不幸の手紙じゃないんですよ?」

「嘘だ!事実、僕は今こんなにも不幸な気分になっているじゃないか!」

必死に現実逃避をしている明久。すると、瑞希が落ち着かせようと手を握る。

「落ち着いて下さい。そんなに暴れると、危ないですよ」

「……仕方ない。現実を見よう……」

瑞希の言葉に冷静さを取り戻した明久は、ガックリと膝をつく。

「それはうちのクラスメイトに?」

「……はい」

「……そっか。でも、そいつのどこがいいの?」

「その……優しいところ、とか」

(ゆ、雄二が優しい!?(主に僕には)何時も酷い目に遭わせるのに……)

どうやら明久は、手紙の相手は雄二だと思っているらしい。

「優しくて、明るくて、いつも楽しそうで……私の憧れなんです」

「…………」

その真剣な口調から、茶化すなんてできそうもない程強い想いを、明久は感じ取った。

「その手紙」

「は、はい」

「良い返事が貰えるといいね」

「!はいっ!」

まあもっとも、実は明久宛てだったりするのだが、知らぬは本人のみだったりする。

「ところで……いつ告白するの?」

下世話な話を振る明久。本人としては、なんともやるせない気持ちなのだろう。

「え、ええっと……全部が終わったら……」

顔を真っ赤にしながらも律儀に答える瑞希。

「そっか。でも、それなら直接言ってもいいんじゃないかな?」

「そ、そっちの方がいいんでしょうか?」

「う〜ん。少なくとも僕なら、面と向かって言ってもらった方が嬉しいかな?」

「本当ですか?今言ったこと、忘れないで下さいね」

「へ?あ、うん」

呆気に取られている明久とは対照的に、言質を取れて嬉しそうな瑞希。

「それじゃ、私はこれで!」

瑞希は元気よく、とても軽やかな足取りで教室を出て行った。





翌朝、いつも通り学校に向かう一同。今日は点数の補給の為に一日テスト漬けである。

「おはよ!」

「よう、明久」

「今日は遅刻しなかったな」

明久は挨拶をすると、自分の席に着く。

「そういえばお前、昨日の後始末はいいのか?」

「後始末?ああ〜あれね」

雄二が明久に訪ねる。明久にも心当たりがあるようだ。

「いくら僕でも、生爪を剥がされるとわかっていながら、雄二に報復なんてしないよ」

「いや、そっちじゃなくて」

「へ?」

どうやら雄二への反逆ではないようだ。

「一体何を―――」

「吉井ッ!」

「ひでぶっ!」

明久の言葉が美波のハイキックにより遮られる。

「アンタ、昨日はウチを見捨てただけじゃ飽き足らず、器物損壊の罪まで着せたわね……!おかげで彼女にしたくない女子ランキングが上がっちゃったじゃない!」

(まだ上がる余地があったんだ……)

「―――と、本来は掴みかかってるところだけど」

美波が急に冷静さを取り戻す。既に手を出してるだろ、というツッコミはNGで。

「アンタにはもう充分罰が与えられているようだし、許してあげる」

「うん。さっきから鼻血が止まらないんだ」

「いや、それじゃなくてね」

「?」

「今日の一限の数学ね、船越先せ―――」

バッ(明久がダッシュでその場から離れる)

スッ(悠里が明久の前に足を出す)

グシャァッ(明久がヘッドスライディングする)

ガシッ(雄二が明久を押さえつける)

「サボろうとしないで、きちんとテストを受けろ」

「悠里の言う通りだぞ、明久」

「離せ!これには(僕の)命がかかってるんだ!」

「……それだけ聞けば、別の意味に取れるから不思議じゃのう」

必死に逃れようとする明久。しかし、雄二に掴まれているためそれは叶わないようだ。

「やれやれ。それじゃあお前に、この"お見合い写真 独身男性ver"をやろう」

「えっ本当に!?悠里、ありがと―――」

パラッ(明久の写真&プロフィール)

「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!」

こんなやり取りが、船越先生が来るまで続けられた。





「うあー……づがれだー」

とりあえずテストを四教科受け終わり、机に突っ伏す明久。
ちなみに船越先生には近所のお兄さん(三十九歳・独身)を紹介し、事なきを得たようだ。

「うむ。疲れたのう」

「…………(コクコク)」

いつの間にか近づいて来ていた秀吉とムッツリーニが答える。

「よし、昼飯食いに行くぞ!今日は何にすっかな」

「じゃ、僕はいつものソルトウォーターを」

「普段塩分ばかり取ってるんだから、レインウォーター(雨水)かスプリングウォーター(湧き水)にでもしとけよ」

「それで生きていけるのはおかしいと思うがのう……」

「あ、あの。皆さん……」

立ち上がり、学食に行こうとしたところで瑞希が皆に声を掛ける。

「うん?どうしたの?姫路さん」

「あ、いえ。え、えっと……、その、昨日の約束の……」

瑞希はもじもじしながら皆を見ている。

「おお、もしや弁当かの?」

「は、はいっ。迷惑でなかったら……」

「迷惑なもんか!ね、雄二!」

「ああ、そうだな。ありがたい」

皆は和気藹々とした雰囲気に包まれていた。一人を除いて……

「すっ、すまんな、姫路。お、俺は遠慮しておく」

「え?悠里、何か用事?」

「あ、ああ。次のBクラス戦の仕込みをやらないといけなくてっ」

「へ?仕込み?雄二、どういうこと?」

「ああ、色々と悠里に頼み事をしていてな」

「ふーん、そうなんだ。」

「ああ。じゃあ、行ってくる。……明久、グットラック」ボソッ

そうして悠里は皆と別れ、教室を出ていった。残りのメンバーは、せっかくだからと屋上へ向かうことになった。

「先に行ってて。ウチはちょっと片付けてから行くから」

「ああ、分かったよ、島田さん。」

一旦美波とは別れ、一行は屋上へ向かった。

「それにしても悠里の奴、一体どうしたんだ?」

「明らかに挙動不審だったのう」

「…………(コクコク)」

「だよね。でも、わかってたなら、なんで雄二は止めなかったのさ」

「Bクラス戦の仕込みを頼んだのは事実だしな。それを出されたら、引き留める訳にもいかないだろ?」

皆、やはり悠里の行動に違和感を持っていたようだ。

「ま、大丈夫だろ」

「そうだね。別に命の危険があるわけでも無いし」

「そうじゃな」


―――その言葉が現実のものになろうとは、その時誰も思わなかった―――


話し合っているうちに、屋上に到着した明久達。

「天気が良くて何よりじゃ」

「そうですね」

扉の外は抜けるような青空。絶好のお弁当日和である。

「あの、あんまり自信はないんですけど……」

そう言いながら、瑞希が弁当箱の蓋を開ける。

「おおっ!」

明久達は一斉に歓声をあげた。そこには、見るからに美味しそうなおかず達が並んでいた。

(なんだ、普通に旨そうな弁当じゃないか)

(そうだよね。警戒して損したよ)

(悠里は何に慌てていたんじゃろうか)

(…………謎)

小声で話し合う明久達。

「あ、お箸を持って来るのを忘れました。取って来ますね」

そう言うと、瑞希は立ち上がって教室へ向かっていった。

「ああ、姫路さん。可愛くて頭も良くて、その上料理まで出来るだなんて」

「お前にはもったいないくらいだな」

そう言うと、雄二は弁当の中身を指で摘まんで口に入れる。

「あっ、雄二!ずるい!」

「わしも相伴に預かろうかの」

「あーっ、秀吉まで!」

「…………(モグモグ)」

雄二に続き、秀吉とムッツリーニも弁当を摘まむ。

「いいじゃないか、少しくらいグボハァッ」

バタンッ、ガタガタガタガタガタ

「ゆ、雄二?」

「グフッ」

バタン、ピクッピクッピクッ

「秀吉!?どうしたんだ二人とも!大変だよムッツリーニ、二人を保険室に―――」

パタン、ブルブルブルブルブル

「ムッツリーニ!?」

雄二、秀吉、ムッツリーニの三人が突然その場に倒れ痙攣し始めた。

「まさか、このお弁当が……。そんな馬鹿な、こんな美味しそうなのに……」

くんくん パタリ



―――――
――――――――――
―――――――――――――――


「あれ?ここは……」

気付くと明久は、見知らぬ道に立っていた。

『オイデ。コッチニオイデ』

「ん?なんだろう?この声」

不気味な声が聞こえた明久は、おそるおそる振り向く。すると―――

「暗闇の向こうから無数の手が手招きしてるぅぅぅ!」

『オイデ。コッチニオイデ』

「ちょっ、離して!誰か、誰か助けてぇぇぇ!」


―――――――――――――――
――――――――――
―――――



「―――はっ!あ、危なかった。危うく魂を持っていかれるところだった……」

致死量に至らなかったお陰か、明久は無事に生還できた。

「間違いない。皆が倒れたのは、このお弁当が原因だ。匂いだけでこんなに危険だなんて……」

瑞希はまさに必殺料理人といったところである。

「……あ、明久……」

「秀吉!?」

どうやら秀吉の意識が戻ったようだ。

「……明久よ、……皿を取って、くれないか……」

「皿?」

「……この世には、"毒を食らわば皿まで"という言葉があって……それは、皿を食べれば毒が消えるという……」

「まずい……思考能力が麻痺している」

瑞希の料理によって精神面にも多大な被害を受けている秀吉。
そこへ、瑞希が教室から帰ってきた。

「お待たせしました。あら、皆さんどうしたんですか?」

「お待たせー……って、何してるのよ」

どうやら美波とも途中で合流したようだ。二人とも、明久の近くに座る。

「え、えっと、食べたら眠くなったからって、食休みだって」

「全く。だらしないわね」

「ふふっ。食べてすぐ寝ると牛になっちゃいますよ」

命があるなら、牛の方がましである。

「(まずい。まずはこの二人を何とかしないと……)ところで島田さん。その手をついてるあたりさ」

美波が床につけている手のあたりを指す。

「ん?何?」

「さっきまで虫の死骸があったよ」

勿論、真っ赤な嘘だが。

「えぇ!?早く言ってよ!」

慌てて床から手をどける美波。

「ごめんごめん。とにかく手を洗ってきた方が良いよ」

「そうね。ちょっと行ってくる」

そう言うと美波は立ち上がり、そのまま手洗い場へ向かって走っていった。

「島田さんはなかなか食事にありつけないね」

「そうですね」

あははうふふと表面上は和やかなムードに包まれた二人。しかし明久にはまだ、死のカウントダウンが刻一刻と迫っていた。

「(何とか話題を逸らさないと)ひ、姫路さんってさ、料理を作る時に味見とかするの?」

「味見ですか?……料理の途中で味見をすると太るって聞きましたし、それに……」

「それに?」

「その……吉井君(・・・)達に一番に食べて欲しくて……」

(姫路さん……今はその心遣いが痛いよ……)

完全に退路を断たれた明久。

「……明久」

「雄二!?」

雄二も目を覚ましたようだ。

「坂本君?」

「……姫路、悪いが俺達に飲み物を……烏龍茶を買ってきてくれないか……」

「はい、いいですよ」

そう言うと瑞希は立ち上がり、屋上を後にした。

「雄二、何か作戦が!?」

「ああ。明久、よく聞け。古来よりスパイスは毒消しとして使われたものが多数存在する。冷蔵庫の無い時代は、その高い殺菌力を食料の保存に役立てていた。
そして、女の子の手料理では愛情こそが最大のスパイスと言われている。」

「それは……まさか!」

「そうだ明久。愛情という名のスパイスで、毒を消すんだ……」

バタリッ

再び地に伏す雄二。

「雄二……そうか、分かったよ。これは僕に与えられた試練なんだ。大丈夫、僕は愛の為にどんな苦難でも乗り越えてみせるよ。
愛情という名のスパイスがあれば、例えどんな毒物だって!」

パクパク



―――――
――――――――――
―――――――――――――――


『オイデ。コッチニオイデ』

ズズズズズ

「あはははは、あはは、あはははは……」

ズズズズズ


―――――――――――――――
――――――――――
―――――



パタリ チーーーン

「……愛に、解毒作用は無し、と……」

「……明久は勇者じゃのう……」

「…………合掌」

こうして、悪夢の昼休みは過ぎていった。





「そういえば坂本、次の目標だけど」

「ん?試召戦争のか?」

「うん」

|最後の晩餐(ちゅうしょく)を終え、美波や瑞希と、一緒に合流した悠里を入れて皆でのんびりお茶をすする明久たち。因みに美波はお昼ご飯がなくなっていたことに腹を立てていたが、悠里が持ってきた惣菜パンにより事なきを得た。

(悠里。悠里は姫路さんの料理知ってたんだよね)

(ああ。少なくとも俺は、肉じゃがを作ろうとして鍋を溶かすような奴を料理が出来るとは認めないぞ)

(そ、そうなんだ……じゃ、じゃあなんで一人だけ逃げたのさ)

(……明久、知ってるか?三途の川は本当に赤いんだぜ……)

(……ごめん)

(……いいんだ)

既に被害にあっていたようだ。

「相手はBクラスなの?」

「ああ。そうだ」

「どうしてBクラスなの?目標はAクラスなんでしょう?」

悠里と明久の周りに哀愁が漂っているうちに、話題はBクラス戦のことになっていた。

「正直に言おう。今の戦力では、どうやってもAクラスには勝てない。」

雄二らしくない、戦う前からの降伏宣言。それもそのはず、AクラスとFクラスでは個々の能力に差がありすぎる。その上、Aクラスの上位十人は他のクラスメイトでさえも寄せ付けないほどだ。

「どうやっても駄目なの?」

「ああ。奥の手を使っても、せいぜい勝率一割あれば良い方だな」

「奥の手?」

「それは気にするな」

「それじゃあ、目標はBクラスに変更するの?」

美波が再び雄二に質問する。

「いいや、そんなことはない。Aクラスをやる」

「?雄二、言ってることが違うじゃないか。さっきは勝てないって」

美波の台詞を引き継ぐように明久が間に入る。

「それはクラス単位の話だ。そうだろ?雄二」

「ああ。だから、Bクラスを使って一騎討ちに持ち込む」

「一騎討ち?」

「そうだ。明久、試召戦争で下位クラスが負けた場合、どうなるか言ってみろ」

「え?それは―――

「ムッツリーニ、ペンチだ」

「…………了解」

―――悲し……って最後まで言わせてよ!あと、そのペンチは何に使う気!?」

「?生爪に決まってるだろ」

「そこは決まってないで欲しかった!」

悲しみにうちひしがれる明久。

「え、えっと、確か設備のランクが一つ落とされるんでしたよね?坂本君」

瑞希のフォローにより、話は先に進む。

「ああ、その通りだ。つまり、BクラスならCクラスの設備に落とされるわけだ」

「そうだね。常識だね」

「……なら明久、上位クラスが負けた場合は?」

「勿論悔し―――どっせいッ!」

「……ちっ」

明久の身体を爪要らずの身体にせんとするペンチを、間一髪でかわす明久。

「上位クラスが負けた場合、相手のクラスと設備が入れ替えられちゃうんですよ」

またもや瑞希のフォローが入る。

「つまり、うちに負けたクラスは最低の設備と交換ってわけね?」

「ああ。それを利用して交渉をする」

「交渉?」

「Bクラスを倒したら、設備の入れ替えを免除する代わりにAクラスに攻め込むように交渉する。普通ならFクラスの設備になるが、Aクラスに負けるだけならCクラスで済むからな。問題はないだろう」

「なるほど。それで?」

「それをネタにAクラスと交渉する。Bクラスとの勝負の直後に攻め込むぞ、といった具合にな」

学年で自分たちの次に実力のあるBクラスと戦ったあとにすぐさま連戦。学力に優れているが体力のあまり無いAクラスにとっては、できるだけ避けたいところだろう。

「しかし、本当に大丈夫なのかのう?向こうとしては一騎討ちより試召戦争の方が確実じゃろうし、こちらは姫路の存在が知られておるのじゃぞ?」

Dクラスの代表を倒したとあれば、すぐさま瑞希の存在は広まる。当然相手も何かしらの対策をしてきてもおかしくない。

「その辺については心配するな。ちゃんと考えてある」

しかし、雄二はそんな心配とは裏腹に自信に満ちた様子である。

「まあ、もし一騎討ちに持ち込めなくても五対五までなら勝ちは十分狙えるさ。とにかくBクラスをやるぞ。細かいことはその後教えてやる」

「ふーん。まあ、雄二なら勝算がなければそんなこと言わないだろうし、いいんじゃない?」

「そうじゃな」

雄二の話に一同は納得したようだ。

「それでだ、明久」

「ん?」

「今日のテストが終わったら、Bクラスに宣戦布告して来い」

「断る。それなら悠里か雄二が行けばいいじゃないか」

「残念だが、悠里はもう居ないぞ」

「あれ?……本当だ」

明久が周りを見回すと、悠里は忽然と姿を消してした。

「昼飯も食べ終えたし、大方明日の準備に戻ったんだろう。と、いうわけで明久。頼んだぞ」

「嫌だ!だって行ったらボコボコにされるんだよ!?それなら、腕っ節の強い雄二が行けばいいじゃないか!」

「俺は嫌だ。行ったらボコボコにされるんだぞ。ふざけてるのか」

「ちょっ!」

「…………それならジャンケンで決めればいい」

二人の口論を見ていたムッツリーニが妥協案を出す。

「それはいい。どうだ?明久」

「ジャンケンか……いいよ、受けて立つ!」

「それじゃ、いくぞ」

雄二の言葉を合図に、二人は手を構える。

「「じゃんけん―――」」

「ポン!」(グーを出す明久)

「ポン!」(1テンポ遅れてパーを出す雄二)

「…………雄二の勝ち」

「今タイムラグなかった!?」

「…………何を言っているのかよく分からない」

「ほら、負けたんだから大人しく逝ってこい」

「嫌だ!やり直しを要求する!」

明久の反論に対し、雄二はポンッと明久の肩に手を置く。

「心配するな明久。さっきはああ言ったが、Bクラスは美少年好きが多いから殴られる心配はないぞ」

「そっか。それはまさしく、僕にしか出来ない仕事だね」

「でもお前、不細工だしな……」

「失敬な!365度どこからどう見ても、美少年じゃないか」

「5度多いな」

「つまるところ、微少年というところかの」

「二人とも嫌いだぁぁぁっ!」

捨て台詞と共に、明久は屋上を後にした。





「……言い分を聞こう」

「想定の範囲内だな」

「オデノカラダバボドボドダーッ!」

Bクラスの生徒の手によってボロボロになった制服の袖を押さえながら、明久は雄二に飛び掛かる。

「落ち着け」

「ぶべらッ!」

そんな明久に、雄二は容赦なく拳を突き出す。

「明日も朝からテストなんだから、お前も早く帰れよ」

「ぐぅぅぅ……何時かダメにしてやるぅ……」

雄二は明久を置いてさっさと教室から出て行ってしまった。明久はというと、雄二の攻撃が綺麗に決まったせいで未だに蹲っていた。

(痛たたた……ん?あれは姫路さん?)

身体が動かないので顔だけ上げて辺りを見回すと、明久はまだ教室に残っている瑞希を見つけた。

(どうしたんだろう?かなり挙動不審だけど……ああ、昨日の手紙を何処に置くか考えてるのかな?)

邪魔をすべきではないと思い、明久は匍匐前進をしながら教室を後にした。







とある教室の一角。そこには文月学園の生徒と思われる男女が椅子に腰掛けていた。

「あのバカのFクラス、Dクラスを下したそうね」

女がふと思い出したかのように話題を振る。

「ああ。しかも次は、俺達(Bクラス)に宣戦布告してきやがった」

「へぇ……、大丈夫なの?」

女は大して感情も込めずに形式的な言葉を投げかける。それは男なら大丈夫という自信の為か、はたまた全く興味がないのか……

「心配いらない。精々あいつらの鼻っ柱をへし折ってやるさ。徹底的にな。っははは、はははははは!」

その高笑いは、まるで男を助長するかのように教室中に響き渡った。





「どうでもいいけど、なんで私達悪役チックになってるの?」

「……さぁ?」







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