第70箱 「りゅういち…………?」
めだかは、目の前の光景を……理解するのに、時間がかかっていた。
ただ……見えているのは……。
大切な……大切な男が………。
爆炎と共に宙に浮いている光景。
それはスローモーションのように見えていた。
「りゅっ!!りゅういちぃぃぃぃ!!!!」
固まっていためだかとは裏腹に真っ先に駆け寄ろうとするのは善吉だ。
目の前で吹き飛んだ親友を前に、気が狂いそうになりながら駆け寄る!
「くそぉっ!!!!」
阿久根先輩も同様だ。
後輩に助けられ……そしてその後輩が……。
「いやあああああああっ!!!!りゅういちくううううんっ!!」
もがなも……手で顔を押さえながら叫んだ。
が……。
「おおっと!テメぇら動くな!」
「ッ!!」
善吉だけでなく、阿久根先輩やもがなも動けてないようだ。
雲仙が炎を構える……。
いつの間にか……集めたはずのボールが再び回りに飛び散っていた。
「ふぅ…危なかったぜ?今ので誘爆してりゃオレもやばかったしなぁ。」
そう言って笑う。
そして、倒れている劉一を前にし、
「オレも色々と考えてんのよ。バケモンが2人……1人だったら、この炸裂弾だけで、十分だったんだがなぁ。お前って言う存在を知って急遽武器を変えたんだよ。【改良型】炸裂弾「黒きシンデレラ」。これはリモコン式でな、燃焼の三要素の一つ、火がなくたっていけんだよ。」
にやりと笑いながらそう言う。
「はっ、さっきも言ったがおれにゃあ、賄賂は通じねえ。それに情なんかに流されでもすりゃあ悪を裁くことなんざできねえだろうが。」
倒れている劉一を足蹴にしながらそう言う。
“ピキッ……!”
めだかの中で……何かが切れたような音がする。
「さぁ〜〜〜て……。」
劉一から目線をそらせると……。
手に持った炎を…!
「オレはぁ…ルールで人を縛る。そして、正義として必ず、確実に悪を裁く……。」
そして、軽く皆を見て……。軽く笑うと……。
「正義は勝つんだよ!ボケが!」
“ボッ!”
“ドオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!”
爆音が辺りを包み込んだ。
剣道部 side
練習に勤しんでいるのは剣道部。
もちろん。劉一を超えるために!……それにめだかちゃんに言われ「じゃねええ!!!!」………。
ナレーションに突っ込んでるのは勿論日向くんだ。
その日向は……。
「ったく……ん?」
練習中に何かが聞こえ、その方を向いていた。
「どーしたよ?日向。」
他の部員がそう聞く。
「いや、なーんかあっちの方から爆発音が聞こえた気がしまして―――。」
そう言いながら指をさす。
「ん?あっちって確か、生徒会室があるんじゃなかったか?」
そう言うと……。
まあ、皆肯定する。
「っつってっと……。ま〜〜たあの生徒会長が何かやらかしたんじゃねえか?あの補佐あたりを使ってよ?」
勝手な想像してるし……。
まあ、いつもがいつもだから、普段は否定できない…… 苦笑
んで、勿論他の部員も……。
「あーそっか!そうですね?そんなところでしょ!」
「そうそう!驚くに全くあたらねえ!」
はっはっは〜〜〜♪と愉快な笑い声が♪
そして…まあ、皆おなじみのセリフを……。
「「「普通だな普通普通☆」」」
Side out
生徒会室……
そこは今は見る影もなくなっている。
辺りの壁という壁は吹き飛び……。
雲仙がいたところは勿論、瓦礫の山となっている。
雲仙のいた場所近辺はまるで瓦礫に囲まれているようだ。
「ケッ!」
“ドゴンッ!!”
自分に積もりに積もった瓦礫を蹴飛ばして出てくるのは雲仙だ。
服を払いながら……。
「風紀委員会特服『|白虎』……これはダンプにはねられてもへっちゃらだっつー触れ込みの耐圧繊維で縫製された最新科学の産物だ。ド深海で作業する潜水艦とかでつかわれているそざいなんだが、うごきづらいのが最大の難点だな!」
“ドゴンッ!!”
そう呟きながら……辺りの瓦礫を蹴飛ばしていく……が。
………雲仙はそこに違和感を覚えた。
「っつーか……なんで、オレを中心に……ってかオレの前に瓦礫があるんだ…?あの炸裂弾なら、周りに吹き飛んでもおかしくねーってのに。っ…まだ外につかねーのか…?」
次々と蹴っ飛ばしていくが……。
外につかない。
違和感……どころじゃない。不自然な現象だ。
内側が爆発したら普通は外に飛び散る。
爆弾はそう言うものだ。
飛び散る破片で相手を殺傷する。
様々なものがある密室の教室の中での爆発はまさにそれと同じだ。
同じ現象が起こるはずなのだ。
全て外に吹き飛んで【いなければ】おかしいのだ。
なのに何故だ?
「なんで、こうも内に残る?瓦礫が………って、ことはぁまさか。」
よぎったのは……黒神めだかの姿。
補佐の男は吹き飛んでいるから消去法でだ。
……何かしたのか?
「いや……間違いねえ……この不自然現象はそうじゃねえと説明つかねえな。何をしやがったのかは想像できねえが……」
バケモンがした事……想像しようがない。
だが……。心配するほどのことではないようだ。
「何をしようが、無理だ。普段の3倍以上の量をもってきたっつんだ。メチャ重てえの我慢してな。どんなバケモンでも…どんなサイボーグでも、スクラップはまぬがれねえはずだ…」
そう言う。
その言葉の中には……不安がまぎれているような気がしていた。
本人が無意識に……。
そして……暫くして……。
見えたもの……それは、
「ッ!!」
壊れた教室……割れた窓。
そして……
「…………。」
【4人】の前に立っているもの。
「は…?」
それはまさに弁慶の仁王立ちのようだ。
「なんだと……?てめっ、あの爆撃を至近距離で喰らって……。何で立って、いやっ、何で他の連中も無事なんだよ!こっともそれなりに命掛けだったんだぜ!?何しやがった!!」
叫びながらそう言う相手は、
「何しやがったんだ!てめぇは!御剣ぃ!!!!」
初めに吹き飛ばされた劉一だった。
「……簡単な事だ。」
劉一は……口を開く。
「爆弾……爆発の最も注意しなければならないのは爆熱より寧ろ爆風。それを遮るんだったら……。」
劉一は、校舎を指差す。
「コンクリート……瓦礫の山がこの場で用意できる最も良い物……適材だった。だから、使わせてもらった。……友達を守るために。」
そういった……。
「ッ!!!」
雲仙は、瓦礫に覆われていた状況を思い出していた。
(って事は、コイツ…… 吹き飛ばされて爆発させる僅かな時間で、校舎を爆発よりも速い速度で瓦礫にして、オレの前に積み上げたってのか??その上、オレに気づかれないように?簡単に言ってるみてーだが、何も簡単じゃねえ!寧ろ、どんだけの事を一瞬でこなしてんだよ!時間を止めたとしか思えねえ!仲間達を一箇所に集めて、何より…あの至近距離を受けた後で?)
体中に冷や汗が湧き出る。
(それだけの力量なら、自分だけ助かろうと思えば問題ないだろう。それより、)
「てめえ!それだけの事ができて、何であの爆弾を受けたってんだよ!」
最初の爆発の事だ。
それだけの以上速度で動けるなら……。
間違いなく防げたはず……だからだ。
「……信じたんだろうな。めだかちゃんと同じように。お前を。」
劉一はそう言う。
皆は気づいているだろうか?
いつもと明らかに違う事に。
「りゅ……りゅういち……。」
善吉は……心配していた。
心底心配していた。
それは爆発を受ける前からだ。
今もいつもと違うが……違っていたのは、それは最初の雲仙の爆撃を防いだときからだ。
劉一の雰囲気が変わってから……。
そして、今も心の底から心配している。
【また……いなくなってしまいそうで】
「よく……よく無事だった!劉一ッ!!」
後ろで守られていためだかは直ぐに劉一の隣へ行く。
……勿論雲仙に怒りをあらわにしながら……。
その姿は……いつもと違っていた。
「…………悪いんだけど、ここから離れててくれないか?」
劉一はめだかの方を視ずに、そう言う。
「すまないが……。劉一、お前の頼みでもそれは聞けそうに無い相談だ。」
めだかは……普段の姿ではなかった。
髪の色…そして目つき。
雰囲気。
「私はこの男をどうしても許せそうに無い!」
“ズギャッ!!!!”
啖呵をきっただけで、辺りの瓦礫が吹き飛ぶような感覚に襲われていた。
これが……真骨頂【乱神モード】なのだ。
「いつもと、違う雰囲気みたいだな……。でも、見られたくないんだ。」
劉一はめだかの事を見ていない。
雰囲気だけで、いつもと違う事を感じていた。
「今の顔…… 見られたくないんだ……!」
“ゴウッ!!!!”
その怒気・殺気・憤怒……
今もてる全ての感情が……1人の男に向かってゆく。
その相手……は。
「グぁッ!!!!」
雲仙だ。
「なッ!(馬鹿な…ビビらされた!?オレが?いや…ただ言っただけでだ。黒神のように睨まれたわけでもない、凄まれたわけでもない。異様な空気だけで!?思わず後ろに下がっちまった!倍以上の間合いを!?)」
ゾクリ…っと背筋が凍る思いがとまらない。
「……会長。めだかちゃんの信念はすばらしい。その信念のすばらしい所……思うそれは、自分自身を正しいと思ってないところだ。」
そう言う。
「それは、正しくあろうとしている!その事がよくわかる。伝わってくるんだ。補佐をしてるからかな。伝わる。本当に!…………だけどな。」
今度は雲仙を…本当ににらみつけた!
「ッ!!!!!」
今回最大の悪寒が体を貫いた。
「信念が素晴らしくても、その信念は友達を切り捨てるような、危険をあわせるようなものだったら……。信念の方を切り捨てる!」
そう言って前に立つ。
「劉一……。」
めだかは、明らかにいつもと違う劉一に困惑…を隠せない。
乱神モード。
それは怒りが頂点に達すると発動するものだ。
困惑が心を支配している状態では怒りも霧散していく。
否定したかった。自分も劉一と同じなのだと。
友達を危険にあわしてまで貫きたい信念などない!同じなのだ!と。
だが……、言葉が出てこない。
めだかも……善吉と同じだった。
言いようの無い不安が自分を支配していたのだ。
劉一が……また遠くへいってしまうような……。
あの時あの場所で感じたあの嫌な感じ。
また明日!といつもなら言うのだが…言わなかったあの時と。同じだった。
そんなめだかの心境とは関係なく劉一の怒りは増してゆく!
「がっかりさせてやるよ!ただ、怒りに任せて暴れてしまうような幼稚な存在だってなぁ!!」
睨みをきかせ!雲仙の方へと行く!!
「ッ…(おい…足!動けよ!!)」
雲仙は必死に足を確認する。
震えているのを隠しながら、
そして、
「はっ!おもしれえな!!怒りに任せて暴れる?サイボーグじゃなく人間じゃなく獣のようにってことか?」
そういいながら、炸裂弾を出す!
「獣なら火だろうが!!いやぁ!火山だな!!その前なら消し炭だろうが!!」
“バラバラバラバラバラバラバラ!!!!!”
跳躍し!頭上から一気に炸裂弾を撒き散らした!!
最初のと比べたら倍以上の量だ。
「吹き飛びやがれ!!仲間と一緒になぁ!!!」
そして、スイッチに指をかけたその時!!
“ガッ………。”
雲仙の腹部に……なにやら感触が伝わった。
「ん?……なっ!!」
腹部に感じるものを確認すると、それは劉一の拳。
跳躍したと言うのに、いつの間にか劉一も飛んでおり……。
そして、雲仙との距離を0にしていたのだ。
「ダンプにはねられてもへっちゃら…って言ってたっけ。……残念だったな。」
“キュボッ!!!”
ゼロ距離から一気に拳を伸ばす!!
“ズドオオオオオオッ!!!”
それは衝撃波か?
雲仙に何かが貫いたような空気の道筋ができていた。
「があぁぁぁぁっ!!!」
そして、遅れて雲仙の悲鳴がこだまする!
「その程度の強度だったら……1発でも もつかわからないぞ!!加減をしてないからなぁっ!!」
その拳は、制服に穴を開け……雲仙の体そのものに拳が到達していたのだ