第72箱 「何度でも言うが小賢しいを通り越して呆れるなぁ!貴様はこの程度なのか!?」
雲仙の表情……それは虚勢でもない、絶対的な自信の表れだった。
「ぬ……?」
そう感じたときには直ぐに違和感が来た。
「へっ……それでも漸くかよ……。ケケケ……テメーでもそんな顔できんだな?溜飲下がるってやつだ。」
そう言いながら……ゆらりと立ち上がる。
「ふ…ん……大したもんだ。立ち上がれるのか?力抜いちまったのか……?オレは。」
劉一は雲仙を見ながらそう言う。
「ケッ……言ってろよぉ、テメーはもう身動きが取れねえんだからよぉ!!」
敵が弱みを見せたら…即元気になる…か。
まあ、ありきたりと言えばありきたりか……。
「オレ様は優しいからな。勿論 解説してやるから安心しな!さっき投げつけたヤツ……まあ、テメーは全部避わしちまったがな、これは スーパーボールでもなく、火薬玉でもない!スーパーボールがフェイクで火薬玉が本筋だとしたらこいつはオレの切り札……最後の切り札……鋼糸玉(ストリングボール)だ!!」
頼んでも無いが……なにやら勝手に説明している。
「……体中に巻きついてるな、うっとうしいことここに極まれり…だ。」
劉一は体を見てそう言う。
「……極細の糸が何重……何百にも巻きついちまってんよ!こいつは一度使ったら二度と使えない奥の手!そりゃそうだ!巻き取れねえんだからな。当然ただの糸じゃねえ、商品名『アリアドネ』!この服、『白虎』を縫製してんのと同じ糸だ!」
体のあちこちがガタが来ているのか、
ある程度は気分がよさそうなんだが、立つ事、歩く事はまだまだ、辛そうだ。
「コイツは一本で5tの重量を吊り下げられるアホみてえな最新の科学技術!細すぎて普通は何百っつっても、見えるもんじゃねえが……まあ、テメーは見えてるみてえだが、その全てが身体を拘束しているとおもいな!」
そして、目の前に来ると…。
「オレ様名物霞網!!見たか聞いたか感じたかァ!?これが人間の知恵だ!獣……いや!【化獣】かァ??」
笑いながらそう言い放つ!
だが、内心はそこまで余裕は無いようだ。
(もっともこれで正真正銘…もうタネはねえ 一発喰らって【白虎】は破損……次で完全にぶっ壊れた。出すモンは全て出したんだ。ぎりぎりどころじゃないな、ほんとに刹那の差ってやつだったなぁ。)
その表情の奥には……心底安堵した心が……あったのだ。
「……見えない糸、ルールで縛るか?そして、ルール同様、【糸】で雁字鹹め。らしいと言えばらしいか。風紀委員長だったらな。」
糸を見ながらそう言う。
「ケケケ!そうだよ!その通りだ!これがオレのやり方!これが正義だ!糸【ルール】で縛り、網【ペナルティ】で捕らえる!これが一番手っ取り早い!身動きの一つとれなきゃ、悪事もしようがないだろ?」
そういい……指を劉一にさす。
「テメーみてーな猛獣を…化獣を捕らえるのには頑丈な折が必要だろ?こうやって縛り上げちまえば、テメーの暴れっぷり!見世物んにもなるかもしれねえぜ?ケケケケケ!」
心底嬉しそうだ。
「もう一度、いや!何度でも言ってやる!正しい、正しくないに関わらず!正義は絶対に勝つんだよ!」
ついには両手を広げながら朗らかに……高らかに笑う。
「ふぅ……なら、オレも もう一度言ってやろうか?」
劉一はため息を一つしながら…そう言う。
雲仙は劉一の姿に戦慄した……。
圧倒的有利な立場になったと確信したはずなのに……だ。
(な……何故だ……。心底安心しているのに、……なんで今になってこんなに不安が押し寄せてくる?)
さっきまで気分がよかった……それは間違いない。
だが………。
今は違う。
そして、それが何故なのか、全て悟る事になる。
【これがお前の策か?小ざかしいを通り越して呆れる。この程度なのか?お前は。】
劉一は睨みを利かせながらそう言う。
それは先ほどにも聞いた言葉だ。
「なっ…!!」
そして、心底震える身体が…戻ってきたように、震えた。
「オレの好きな人間の知恵や技術はもっと尊い、【この】程度、ましてや、貴様程度が人間の全てを出し切れるはずが無いだろうが!!」
“グ…ググググ!!!”
徐々に劉一の身体が前に…!!
「なっ!!何してやがる!テメー!!この強度でこの細さだったらそれは鋭利な刃物と同じだ!八つ裂きになりてーのか!!」
雲仙はそう叫ぶ。
「馬鹿を言うんじゃなねえよ……。はっ八つ裂き?そんなモン生易しいものだ、……貴様は【オレ】を起こした。それはどんな激痛よりも勝る苦しみだ!身体の全てを奪われる方がまだマシだって思えるほどになぁ!!」
“ズ…ズズズズ………。”
この音は……?
「貴様は【劉一】の闇に触れた。アイツの底に眠ってるものをな……。……実際どうなるのかは【オレ】でもわからねえ。だが……【今回】来たのはオレみたいだった事が幸いだったかもな!」
“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!”
周りから音が……建物が崩壊していくかのような音が聞こえる。
「オレの標的はお前だけ何だから……!それが終われば……お前だけで全てが片付くからな!!」
“ガガガガガガガ!!!ドゴオオオオオオオオオ!!!”
ついには崩落を始めた!
(なっ……コイツ!何を言ってんのかさっぱりわからねえが……それよりも!力任せも力技もいいところじゃねえか!…どこが精神が弱い?どこが優秀なだけ?どこで間違えた?コイツは化獣どころじゃねえ!身体の隅から隅まで怪物…だ!化けてるんじゃねえ、ゴジラとかそんな奴が小さくなっただけで、それでいて力はそのままなのかよっ!!皮を剥いでもそれはかわらねえってか!!)
動揺がとまらないが、今の校舎を見るとそれどころではない。
「てめえ!!何を言ってやがっ!!い…いや!それより!なにが起こってやがる!?なっ!校舎が??」
壁にはヒビ……天井は崩れ……、
それは爆発の影響ではない。
今まさに起きているのだ。
「これの強度は大したもんだ。コレを粉々にするのは面倒くせえ!だったら、手っ取り早いだろ?これより校舎の方が脆いんだからよ!」
“ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!!”
崩れてゆく校舎。
「なっ!脆いッつっても!なんだよそれ!全部の糸はこの校舎のあちこちにも絡まってんだぞ!そんなモンを動かすっつったら!校舎ごと動かすしかねえだろうが!!」
周りの状況に驚きながらも必死に…否定してる。
今起きている【異常】を、
いや…【異常】でも片付けられそうに無い。
「はっ……何を今更、その大層な装備を【軽く】ぶっ壊してやったってのに、まだ目が覚めねえのか?校舎程度がなんだ…。いや……。言い方を変えようか?」
劉一?は一つ思う。
【もう……ここにはいられないだろうから……、最後くらい……。もう一度言おうか……。】
「オレは黒神めだかの補佐だぞ!?この学園の生徒会長の補佐だ!生徒会長を支えるために【いた】!ならば学園校舎の一つや二つ、当たり前だろうが!」
“ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!”
その言葉と同時に…校舎は崩れ……そして、糸も縛っていた支え……校舎を失い糸も全て解けた。
そして……その後に見える影は2つ。
小さな影と大きな影。
シルエットだけをみると……。
まさに大きい方が小さい方を……飲み込もうとしているような感じがしていた。