小説『「KONFRONTATION」』
作者:銀虎()

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(哀・踏切)
壱はコンを乗せて荷台にくくったトランクケースの中に入れて。こんなに犬を連れて行くので出発は夕方になってから、狂は昨日祭りだった反動で店は休業。仕込みは親父だけでできるだろうけど、そこまで遅くなる気はなかった。


カンカンカン

そこは踏切だった。壱がさしかかると丁度バーが降りてきた。
「ついてないのう。」
壱がヘルメットのアイシールドを挙げる。踏切の端に、花と一本の缶ジュースが供えられていた。
「真新しいのう・・・。可哀そうに。」
壱はバイクから降りると、

パンパン

手を叩いて冥福を祈る。
「旦那は優しいんだな。」
トランクケースから、コンが首を出す。
「ぬし・わっちも都市伝説の一員にする気かや。」
人面犬を乗せた黒いバイクなんてなんて丁度いい話だろう。
「大丈夫だよ。旦那、もともと人通りもすくねぇし。」
ズルズル

何か、アスファルトをこする音がした。
「なんだ。」
冥福を祈る壱を余所にコンはそっちらを見る。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁああ」
「きゃぁぁぁぁぁあぁっぁぁあああぁ。」
犬と多分、女子高生の悲鳴。

チッッ
壱はアイシールドを下す。
そして、アイシールド越しの暗い視界で見たのは、
失神している人面犬と腰とぬかしている足が付き根から切れている血まみれの女子高生
(踏切の幽霊)
踏み切りで女性が列車に撥ねられ、上半身と下半身が切断されたが、あまりの寒さに血管が収縮したために出血が止まり、即死できずに数分間もがき苦しんで死んでいったという女性霊。まれに男性。亡くなった足を探してる。

女子高生は、壱を見つけると
「足が…足が…」
と下手なほふく前進で近づいてくる。
壱はしゃがみ込んで、
「あれは、ぬしへのお供え物かや。」
踏切の根っこにある花とジュースを差す。
「足・・」

ズッッ
壱は、女子高生の脇に手を入れると持ち上げて抱きしめる。
「辛かったの、痛かったの。もう大丈夫じゃ。わっちは逃げぬ。わっちはぬしを置いてどこにも行かん。」
耳元で囁いた。
「エッッ。」
足なし女子高生は、驚きの声を挙げる。
「足がないのならわ地位が探してやろう。一緒に、ぬしをおぶっての。体がここにあるんじゃ。足もまだどこかにあるじゃろ。」
壱は、優しく接した
「大体、人面犬に腰を抜かしている様な幽霊にわっちは驚かぬ。」
「うっっ。」
女子高生は、気まずそうな声を挙げた。
「名を、名を教えてくりゃれ。」

「鈴音、戸崎鈴音。」
女子高生は、・・・鈴音は答えた。
「そうかや。いい名じゃな。」
壱はまだ抱きしめる
「足探すかや。」
そう言って、壱は器用に鈴音を抱きしめた格好から背負う。
「しっかりつかまっててくりゃれ、ヘルメットを外し、バイクにかけるとコンの頭を叩く。
「落ちる・・・・。」
鈴音が悲痛の声を挙げる。ひっかける足が鈴音にはない。よって、ずり落ちる。
「んっっ、旦那・・・ぎゃぁぁ」

ゴン
また気絶する気だったコンをまた叩く
 「起きろ。」
 「すいません・・・でも、やっぱり、旦那やっぱり・あんたイカれてる。」
 コンは、空きいれた様にいった
「人面犬に言われる筋合いはない。」
「私もそう思う。」
鈴音もいう。
「うるせぇ。お前にいわれたくねぇよ。」
「どっちもどっちじゃ。」
壱は二人の喧嘩を止める。
踏切の幽霊を背負い人面犬と喧嘩を止める壱・・・シュールすぎる画。
「あ、あと・・・あの・・・えっと。」
「わっちの名は壱じゃ」
戸惑う鈴音に壱は声をかける。
「じゃぁ壱さん。」
「さん付するな。気持悪い。」
「じゃぁ、イチ。あの・・・お尻触ってる。」
ちなみに、胸も当たってる。
「足がないんじゃから、しょうがなかろう。」
全くの正論なのだが、鈴音は頬を紅潮させる。
「コン、この子の匂いを嗅いで足を見つけろ。」
と、コンを片手で持ち、鈴音を片手で支え
コンに匂いを嗅がす。
「わかったかや。」
「ンッッ。ばっちり」
コンはしっぽを振ってこたえる。
壱は地面にコンを落とす。
すると、クンクンと地面の匂いを嗅ぎ出した。
「警察犬ほど、役には立たんが丁度のいい奴じゃよ。」
「ヘッッ、警察犬はしゃべれるかよ。」
コンと壱は言葉を交わす。
「ありがとうございます。」
鈴音は、俯く。そのまま、コンは草の茂みやちらこちらを嗅ぎまわる。
「まだかや。」
壱は、待ちくたびれて言った。
「あの・・、重いですか。」
鈴音は、恥ずかしそうにいった。
「ん。大丈夫じゃ。足がない分軽い。」
「えっっ。」
「ジョークじゃジョーク。」
鈴音と壱がそんなトークをしていると
「ん、んんん。」
コンの尾がピンと勃った。
「みつかったかや。」
壱は聞く。
「匂いはあったが、ここにゃねぇ・・それになんか匂いが混ざってる。」
「どういうことじゃ。」
壱の声かけに、コンの眼が鋭く探偵の様になる。
「お嬢さん、ストーカーにでも会ってましたか。」
「えっっ、はい。」
鈴音はうなづく
「事故の時に誰かから後ろを押されたりしましたか。」
「はっはい。」
鈴音は、身を乗り出して答える。
「なっなんじゃ。」
壱は追いつけずにいた。
「旦那見つからないはずです。愛はもってかれています。」
「なんじゃと。」
「場所はわかります。一芝居打ちましょう。」
「ん。」
「えっ。」
鈴音と壱は、疑問詞を浮かべる。
コンの案内で連れてこられたのは、100mほど先のマンション。
「大きいな。」
高給で家賃高そうな。マンションだったが、出入りはオープンだった。エレベーターもない古いタイプらしい。
「こっちだ。」
コンは階段を上る、人は通らない。先ほど新聞受けを見たが、入居数は疎らだ。
「ここだ。」
5階・最上階。
表札には、在賀と書いてあった。
「旦那、いいですかい。」
フルフェイスヘルメットのアイシールドを再び占める。
こんこん
扉を開けると、壱はドアの陰になる様に下がる。
「はいはい。」
声がして、扉が開く。

ギィ

「どなたさま・・・ってあれ。」
出てきたのは小太りの分厚い眼鏡をかけた脂症でアニメキャラのTシャツでハーフフィンガーグローブをして、バンダナで前髪を挙げた男。
「ここだ、ここ。」
足元で声がした。
そこには人面犬。
「ぎゃぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
在賀は、恐怖にそこに腰ぬかした。
「在賀さん。戸崎鈴音さんの足をお返し願いに来たのですが。」
コンはそういうと
「あっあし、そんなの知らないよぉぉぉぉおぉ。」
在賀は呂律の回っていない口で言った。
「嘘が、通じると思ってんか。俺様に。」
吠える声で、全身の毛を逆立てコンは言った。
「ひっつ。」
「狂は本人にも、お越しいただいてでいるんだよ。」
「はっっ、馬鹿な鈴音の遺体はとっくに火葬…。」

ズルズル

引き摺り音、
「教えてやる。タンパク質だけが人じゃねぇゾ。魂ってもんがるんだよ。お前みたいなキモヲタに体を預けられていると思うと、心ってもんが何時までも、ここにとどまっちまうのさ。」
「足を・・・・あしを・・・。、あしをかえしてぇぇぇぇぇぇぇえぇっぇぇえぇ。」
壱の背か降りて、下手糞な匍匐前進で進んでいく鈴音。
「あれは、流石に怖いな」
壱は、素直に思った。
鈴音は、在賀に爪を立てる。
コンは、そのうちに室内に入り足を見つける。
「うっっ。旦那ぁ・・・ここだ。」
呼びかけが有ったので、わっちは室内に入る。
「たしゅ・・・」
コンと鈴音に襲われて、半狂乱の在賀は壱の足に抱きつく。

ドカっ

重いきつけり飛ばす。そして、無言でコンの方へ行く。
「こりゃ・・・」
そこには、ホルマリン漬けの女性の足。ニーソックスから女子高生と推定。
「悪趣味な野郎だ。」
コンは言った。
「コン、鈴音を呼んでくりゃれ。」
「読んだっていいが、これじゃ上の装置もしっかりと固定されてる。」
スッッ
壱は足を振り上げる。
「旦那・・・それは無茶って」
「はやくしてくりゃれ。」
コンは鈴音を呼びに行った
ガツ

バリリ
ジャぁー
振り上げられた足が振り下ろされ硝子を砕く。

ダタッっ

足が横たわる。
「足だ。」
ここまではってきた鈴音は足を見つけて声を挙げる。
壱はそんな鈴音を持ち上げて足の上に乗せる。
「あたしの足ィ・・。」
そういう鈴音の体は、光る胞子になって空中に浮き始めた。
「成仏ってやつか。」
コンは座っていった。
「そうじゃな。」
足を撫でている足のない女の子、普通は恐怖と感じるのだろうが、わっちは感じない。わっちがおかしいのじゃろうか。それとも、これに怖がる世間がおかしいのか。どちらにせよ、その答えにわっち興味がない。
本当にうれしいそうな鈴音の顔。
形が色がなくなる最後の胞子の時。鈴音は一人と一匹を見て、
「ありがとう。あっちで待ってるから、ゆっくり来てね。いっぱいお礼するからさ。」
そう言って、これ以上ない綺麗な笑顔が向けられた。
「おう。」
「待てっての。」
一匹と一人はそう答えた。
残ったのは、足だけ
「行くかや。」
壱は言うと、最後に在賀の足を踏みつけ、膝の皿を割った。コンは小便をひっかけたようだ。

マンションから出るときに、一階に設置してあった。公衆電話から警察に通報した。在賀には、他の他殺のにも関連がるそうだ。なんでも、ホテルの屋上から女性を突き落としたとか。

樹海への道の途中、
「なぁ、旦那。」
「なんじゃ、コン。」
「どうして、鈴音を助けたんですかい。」
コンは聞いた
「あの子、足がないじゃろ。」
「えっ、ええ。」
「移動に背負うのは、何ら不自然じゃないじゃろ。」
「ええ、まぁ」
「足がないから、手で支えるのは臀部になるじゃろ。背負うから乳房も背に当たる」
「そうですね・・・って。下心ですかい」
「まぁ、わっちも、雄じゃからの。」
壱は笑みを浮かべる。
「なんだよ。感心して損した。」
「ハハッッ。」
壱はケラケ笑う。
たくっ、下心だけの人間が犯人の膝の皿割ったり、人面犬を樹海まで送ってくれるかよ。
なぁ、鈴音。

「そうですね。」と星が瞬いた。

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