小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第二部》』
作者:wanari()

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 けたたましい翼の音がアランたちの頭上を踊る。黒と白の羽根をはためかせ、二体の『キメラ』が上空で奇声を上げた。姿形はハゲタカのようだが、翼の雄々しさはむしろ竜を思わせる。アランの背後でフローラが息を呑む気配がした。

「あれがキメラ……!」
「フローラ、馬車の奥に下がって。サイモン、クックル、スラリン。馬車を守るんだ」

 上空に目を遣りながら仲間を呼び、アランは彼らに命じた。

 キメラが一際甲高い声を上げる。二体が同時に急降下し、アランたちに突進してくる。パパスの剣を油断なく構え迎撃の態勢を取ったアランは、真正面から迫ってくる一体に怯むことなく、一太刀のもとに斬って捨てる。片翼を断ち切られたキメラは態勢を崩し、そのまま地面に激突する。
 アランの剣は止まらない。返す刃でもう一体のキメラに斬りかかる。しかし急制動をかけたキメラに惜しくも躱され、そのまま背後へと取り逃がす。すかさずチロルが雄叫びを上げながら躍りかかったが、何とその一撃もキメラは避けて見せた。
 そのままキメラは負傷した仲間の元に辿り着くと、呪文の光を溢れさせる。回復呪文ベホイミ――斬られたキメラの翼はたちどころに復元した。アランはわずかに眉をしかめる。

「アラン。焦りは禁物ですよ」
「わかってる。まだモンスターは残ってる。チロル、メタリン。キメラを頼む」

 ピエールの静かな忠告を聞き入れ、アランはキメラに背を向けた。モンスターが出てきた岩場に再び鋭い視線を向ける。

 直後、地響きが辺りを揺るがした。

 岩場の向こうから巨大な影が姿を現す。太い四肢で大地を踏みしめる度に地響きが鳴り、その奏(かな)でに合せるように、湾曲した白く太い牙を右へ左へと振る。アランたちを完全に威嚇しているその影は、大きな像の姿をしたモンスター、『ダークマンモス』。
 鼻を振り乱し、ダークマンモスは突如として突進してきた。横飛びに躱そうと軸足に力を入れたアランは、すぐさま思いとどまる。このまま避ければ背後にいるフローラたちが危ない。

 ならば受けて立つまで――アランは即決した。

「ピエール、イオだ! モンスターの足元を狙え!」
「御意!」

 突進の凄まじい震動と音にも怯まず、アランは命令を下す。忠実な魔物の騎士は即座に主の要望に応えた。呪文の光がダークマンモスの足元に集中し、モンスターが一歩を踏み出そうとしたまさにその瞬間に炸裂する。爆風と、それにより地面にできた窪みに足を取られたダークマンモスは短く大きな悲鳴を上げ、その場に転倒した。

 激しくもがくモンスターにドラきちが上空からマヌーサをかけ、混乱に拍車を掛ける。その隙を狙い、アランとピエールは同時に攻撃へと転じた。アランは地上から、ピエールは上空に飛び上がって頭上からの斬撃を放つ。
 過たず腹と足を割いたアランたちの攻撃は、しかしダークマンモスの致命傷にはならなかった。直後モンスターは起き上がり、滅茶苦茶に暴れ始める。振り回される鼻と牙での攻撃に、アランは防御して耐える。必ず仲間が反撃すると信じて。

「グルォォォーッ」

 腹の底から出したコドランの咆哮。直後、彼の口から燃えさかる火炎の息が放たれ、ダークマンモスを包み込んだ。炎の直撃を受けたダークマンモスは次第に動きが鈍っていき、やがて完全に姿を消した。

 コドランが得意げにアランの肩に降りてくる。労うようにその背を叩いた。

 次の瞬間、アランは鋭い腰の回転で背後を向き、その勢いのまま剣を水平に振るった。後ろから高速で迫っていたキメラを一刀両断する。モンスターは光の粒子となって消え、パパスの剣には血曇ひとつつかなかった。

「アランごめーん! いっぴき逃がしちゃった……」

 足元までやってきたメタリンが詫びる。遅れてチロルが犬歯を剥き出しにしたまま小さく唸る。仕留め損なったことがよほど悔しかったのかもしれない。彼女をこれほど悔しがらせるとは、あのキメラはかなりの強さだったのだなと思う。

 アランは笑みを浮かべようとして、眉根をひそめた。――まだ、首筋のざらつきが消えない。

 振り返った彼の目に入ったのは、岩場に溶け込むようにして転がる一体のモンスター。大きな丸い岩にそのまま目口がつき、けたけたと笑っている。『ばくだんいわ』だ。

 けたけたけたけた……ごろごろごろ――!

 ばくだんいわの笑みが強くなる。

「いかん!」

 そう言って馬車から飛び出してきたのはマーリンだった。常からは想像できないほど機敏な動きでアランの横まで来ると、彼は唾を飛ばしながら叫んだ。

「ヤツを止めるんじゃ! アレを唱えさせてはならん!」

 疑問を差し挟む間もなかった。ばくだんいわから呪文の力が溢れ出る。その不気味な波動にアランの体は勝手に反応していた。腹の底からの大声で命じる。

「皆! 呪文で止めろ! 全力攻撃!」

 叫ぶと同時に自らも呪文を唱える。心なしか体積が小さく、そして呪文の力はより大きくなっていくばくだんいわに向け、アランたちの渾身の呪文が炸裂する。

「――、バギマ!」
「――、イオラ!」
「――、これで静まるのじゃ、ベギラマ!」

 渦巻く呪文の嵐がばくだんいわを飲み込む。直後、その嵐の音を上回る爆発音が轟き、爆風がアランたちに殺到した。


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交響組曲「ドラゴンクエストV」天空の花嫁
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