小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第二部》』
作者:wanari()

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 アランは仲間たちをもう一度集合させた。そして号令一下、一丸となって溶岩原人に突撃する。溶岩原人の腕をかいくぐり、下から突き上げるように攻撃を加える。そしてすぐさま、見事な連携で溶岩原人から離れると、遠間から呪文による攻撃をしかける。火に強い溶岩原人だったが、アランたちの攻撃は少しずつ、確実に溶岩原人の体力を削っていく。

 攻撃と離脱を繰り返す。それは簡単な作業ではなかった。神経をすり減らす戦いが続く。そして――

『おお……』

 ついに一体の溶岩原人が光の粒子と消え、残り一体を残すのみとなった。

 しかしアランたちも無事ではない。『火炎の息』を受ける度に口からの火で迎撃を繰り返していたコドラン、先頭に立って炎を防いだサイモンの二人は消耗が激しく、少し前から後方に下がっている。攻撃に参加している仲間たちもまた疲労が激しく、あの勇猛なチロルでさえ舌を出しながら荒い息を吐いていた。

「あと一体……!」

 自らを鼓舞してアランは一歩前に踏み出す。バギマの呪文を唱えようと右手に力を集めたとき、彼は体の違和感を覚えた。

 精神力がもうほとんど残っていない。

 あと一発――何とかバギマを放つだけの力は残っているものの、それをしてしまえば脱出呪文が使えなくなる。仲間は疲労困憊、後ろには戦えなくなった仲間たちもいる状態で、たとえ今この場は溶岩原人を退けたとしても、火山洞窟を引き返すだけの余力を残すことができるかはわからない。

 アランは躊躇した。それが一瞬の隙となる。

 はっと我に返ったとき、アランの目の前に溶岩原人の拳が迫っていた。サイモンにかわり先頭に立っていたアランを狙い打っている。反射的に防御の姿勢をとるが、強烈な一撃を受けて体ごと吹き飛び、アランは崖から落ちた。息を呑む仲間たち。

「く、そっ!」

 アランはかろうじて剣を崖に突き立て溶岩の中に落ちることは回避したものの、無防備な状態を溶岩原人の前に晒した。すぐさま溶岩原人が火炎の息を吐く。まるでこの瞬間を狙っていたかのような攻撃の早さに、アランは全身を硬直させた。

 来るべき衝撃と熱に備える。

 だが、その瞬間は訪れなかった。

「フローラ嬢!」

 ピエールの声に顔を上げたアランは瞠目した。溶岩原人とアランとの間に仁王立ちしたフローラが、その手に呪文の光をまとわせ、火炎の息をひとりで食い止めていたのだ。

「……せません」

 歯を食いしばるフローラ。その華奢な体から、呪文とは別の神々しい光が溢れる。

「させません……! アランさんは、私が守ります!」

 その気迫に呼応して彼女の体から吹き出した光は火炎の息を押しのけ、さらには千々に霧散させた。

「あ……」

 フローラの体から力が抜ける。前のめりに倒れ込む彼女の姿を目の当たりにした瞬間、アランの中で何かが弾けた。
 上に上げようと腐心していたメッキーを余所に、アランは空いた手で崖のとっかかりをつかむ。そして次の瞬間、凄まじい瞬発力で自らの体を引き上げ、道の上に身を乗り上げるなり疾風の勢いで溶岩原人に突撃する。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 獣の雄叫び。それに応えるかのように、パパスの剣が鋭い光を放つ。

 名槍の一突きのように剣を溶岩原人の腹に突き刺したアランは、さらに雄叫びを上げながら渾身の力を込めて『横に薙(な)いだ』。不定形な溶岩原人の体は、その一撃を受けて腹の中心からわき腹までがごっそりとえぐり取られた。

 アラン、会心の一撃――

『……見事……』

 溶岩原人はそうつぶやくと、ゆっくりと形を崩しながら消えていった。

 煮えたぎる溶岩の音が低く耳を打つ。荒い息を吐きながらアランは膝を突いた。地面でこすれた剣身が甲高い音を立てる。ピエールが駆け寄ってくる。

「アラン。ご無事ですか」
「はぁっ、はぁっ……うん、大丈夫。それより、フローラは」

 振り返る。彼女は仲間たちに介抱されていた。その様子を見たアランは汗だくのまま肩の力を抜いた。どうやら彼女は気を失っているだけのようだった。

 どこかはにかんだような笑みを浮かべる。

「助けられた、かな」
「そうですね。特に先ほどの光。あのような力、私は初めて見ました」
「うん……それに」

 何か言いたげな主の横顔をピエールが見る。アランは立ち上がった。頬を掻く。

「あんなふうに女の人に助けられるのって、いつ以来だろうな」



 それから仲間たちの体調がある程度落ち着くのを待って、アランは岩山に近づいた。その表面に埋め込まれた、赤く光る指輪を取る。アランが手にした瞬間、指輪の宝石に宿っていた光はゆっくりと消えていった。まるで主の手に収まって安心するかのように。

 アランは自らの胸のうちにさまざまな感情が去来することを感じながら、仲間たちに告げた。

「さあ。帰ろう」




 

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