小説『鎌の骨が鳴るとき』
作者:ぽてち()

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◆『苦痛な心の傷』

・消したい過去



残った私とフェリックスは、早速部屋の掃除を開始した。
元々、暖色系統の刺繍が施されていたカーペットは、アルフレッドが立っていた所を中心に血液で赤く染まり、刺繍の模様は赤色で塗りつぶされている。
まずはこのカーペットを剥がさなければいけない。だが、全ての家具を動かす大仕事となった。
二人で協力して徐々にカーペットを端から丸めて、三十分ほどが経過したところでカーペット作業は終わった。
次はカーペットから染み出た血を拭く作業。濡れ雑巾でこげ茶色のフローリングを拭いている時、フェリックスが呟いた。

「まだ見つからないようだな……もう三十分以上経ってるっていうのに。それにしても、衝撃的な光景だったな……まさか目玉を潰す場面を見るとは、思ってもいなかった」

「私もだよ、フェリックス。触りたくなくて内容物をそのままカーペットと一緒に丸めちゃったけど……本音を言うなら、カーペットにすら触りたくなかったかな」

「それは俺も一緒だ。親友の血に濡れた絨毯を片付けるなんて、嫌に決まってる。……でも、アイツが望んだ事なんだ。俺達がどうこう言えるわけじゃないし、言ったら言ったできっと怒るしさ。
それに、他人のやった事にいちいち口を挟むのはよくないと思うんだ。自分が正しいと思ったなら、それは正しい。俺はそう考えるんだが、エドガーはどう思う?」

「私も同感だよ、フェリックス。けど、時にはやっていい事とやって悪い事もあると思うんだよね」

剥き出しの冷たい床を拭き終えたフェリックスは、立ち上がって大きく伸びをした。

「まあ、そうだけどさ。それを判断するのも自分自身……だと思うんだよなあ……」

彼の言葉に頷きながら立ち上がると、複数の足音が聞えてきた。
ジム、ギルバート、ジョシュアの三人に包囲されてトボトボと部屋へ戻ってきたアルフレッド。目の傷からの血は止まっていたので、私は少しだけ安心した。
話の前にまずはアルフレッドの血だらけの顔と手を拭き、痛々しい傷が残る左目にガーゼを張って応急処置を施す。
そして、アルフレッドを椅子に座らせて、その前にジムが腕を組んで立つ。

「で、これからどうするんだ。片目を無駄にして、生活できるのか?」

すると、アルフレッドはケロッとした様子で笑いを浮かべる。

「片目でも見えれば大丈夫だろ。そのうち慣れるし、後悔もしてない。何そんなに深刻そうな顔してるんだい?」

あまりにも開き直った態度にジムはイラッときたらしく、胸倉を掴んで大声で怒鳴り散らす。

「お前を心配しているから言ってるんだろうが! ……ニヤニヤするな、馬鹿弟め! 表へ出ろ! その態度を調教してやる!」

「あーあ……始まったよ……」

ジムがアルフレッドを蹴り飛ばし、首根っこを持って部屋の外へと引きずり出す。その様子を見ていたギルバートが溜め息を吐いた。
二人が出て行った後、外から聞える大声と雑音を気にせず、私達は苦笑しながらお茶を飲んでまったりと過ごしていた。
少々今後が心配だが、彼が言っているのならきっと大丈夫だろう。私はそう思いながらフェリックス達との雑談に花を咲かせる。
そして、相変わらずボコボコにされてアルフレッドが帰って来たのは言うまでも無い……。




(END)

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