小説『鎌の骨が鳴るとき』
作者:ぽてち()

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◆『死神の意地』

・世界の危機



アルフレッドによる大きな出来事が起こった翌日、現世へ移る準備が整ったので、早速向かう事になった。
まだ誰も行動はしていないだろうと思われる早朝に、ジュリル海側の死神荘の前に六人が集合する。
それぞれ荷物が入った大きめの鞄と愛用の一本の鎌を持ち、準備は万端だ。
私の鞄にはあまり物は入ってはいないが、メモ帳や原稿用紙、インクと万年筆といったところか。ほとんど物語を書く道具ばかりだ。
フェリックスがロードを開け、言った。

「とりあえず、ロードはゴルゴンに繋げた。行くぞ」

「ちょっと待ってくれ」と左目に黒い眼帯をしたアルフレッドが止めた。「何でよりによってゴルゴンなんだい? 他の地域でもいいじゃないか」

「ゴルゴンはデス・サターンがいるグリウ・デ・ロから最も距離が離れているからだ。近いよりはいいだろ?」

「近かろうが遠かろうが、ゴルゴンはダメだ。まだ内戦が治まってない。行ったら巻き込まれるよ」

「でも、確か内戦が起こっているのは北ゴルゴン地区だけだろ?」

「今現在は全区域に広がってるのを知らないのかい?」

「わかった、わかった」

フェリックスは溜め息を吐き、今開けたばかりのロードを閉じて新しいロードの入り口を作った。

「行き先はアズレイ(ゴルゴンの隣国)。これでいいか?」

彼が呆れた様子で聞くと、アルフレッドは満足そうに頷いた。
ようやく目的地が決まった私達はロードを通り、現世のアズレイに到着した。
アズレイはまさしく都会といったような国で、特に都心近くのレイマード通りには、沢山のダンスクラブやバー、スナック、居酒屋が立ち並んでいる。
私はこの国への旅行を計画していたのだが、その前に死んでしまい、こんな形になったがアズレイに来れて嬉しい。
ルンルン気分の私だったが、現世に足を踏み入れた瞬間、四方八方から殺意が込められた視線を感じ、背筋が凍った。
いや、その前に一つ、疑問に思う事がある。

「……何じゃこりゃ……」

ギルバートが全員の気持ちを代弁して言った。
そう、今いるのは先程説明したレイマード通りのほぼ中央。左右の店からは消えかけの炎がチラチラと見え、黒煙が上がっている。
瓦礫や石ころが道に転がり落ちており、更には傷だらけで血を流した死体までもが私達の視界に映っていた。
もう、それは酷いとしか言いようがなかった。死体の肉が焼けたような刺激臭が鼻を衝く。
アルフレッドが腕で鼻を覆いながら辺りを見回した。

「もしかして、デス・サターンの仕業か? 少し、調べる必要があるみたいだ。
けど、安易にウロウロする事はできない。俺達がデス・サターンの力を抑えていた建物を壊しちゃったから、今は実体化している状態と同じだしね。
とりあえず、人目が無さそうな隠れ家を探そう。まずはそこからだね」

荒れ果てたレイマード通りを歩きながら隠れ家を探す。が、探したくないものが私達六人の死神の前に現われた。
同じ死神だが、どこかで見た事があるような体型だ。
私達は足を止め、鎌を持って行く道を塞ぐ死神を警戒する。

「そこのお前、死神だな。名乗れ」

アルフレッドが警戒心たっぷりに言い放つと、その死神は顔を隠していたフードを脱いだ。
血で染めたような真っ赤な瞳、肩まで垂れた金髪、そして睨むような目付き。一瞬で私は零ノ使徒だと確信した。
死神の男は薄紫色の唇を微かに動かし、言葉を発した。頬に刻まれた一本の傷を指で示す。

「名はアンドリュー・スコット。そして、そこの者はエドガー・バックスだな? 俺の顔に傷を付けた者を忘れなどしない。
それから貴様ら全員、冥界からの逃亡者だな。情報通り、三チーム六名。オシリス様の命令により、今ここで抹殺する」

最後の言葉を言い終えた途端、上空高く飛び上がって私達の真上に到達し、鎌を下に向けて急降下してきた。
焦って私達六人はバラバラに散開してアンドリューという死神の攻撃を避ける。
振り下ろした鎌は轟音を立てて地面を抉り、大きな傷跡を残す。そして、死神は人差し指と親指を口でくわえて笛の音を鳴らした。

「へへっ、良い獲物が罹ったな!」

突然、聞いた事が無い声が上がった。その声の方向へ顔を向けると、フードを脱いで鎌を手にした四人の死神が建物の上に立っていた。
後ろ髪を後頭部で縛った青色の髪色をした色白の男が呟く。

「逃亡者が六人……どうせ下衆どもの集まりにすぎねぇ」

男の言葉を合図に四人が建物から飛び降りてきた。私達は慌てて集合し、五人の死神を前に作戦を練る。

「六対五だが、力量的にはあの人数の五倍はあるな……。真っ向勝負でもしたら勝率ゼロパーセントだ。ここは意地でも逃げた方が利口かもしれないぞ」

ジムが薄笑いを浮かべながら呟いた。
確かに、彼の言うとおりだ。弐ノ使徒と参ノ使徒の集団と零ノ使徒の集団とではわけが違う。力の差はまさに雲泥の差だ。
すぐに状況を理解したジョシュアがこっそりと後ろでロードを開いた。私達は目で合図をしながら、時を待つ。

「全員血祭りだ。ぶっ殺せぇっ!」

男が叫んで指示を出した途端、私達は一斉にロードの中へと飛び込んだ。入り口が閉じ、安心しきっていたが、ヌウッと青白くて細い手が入ってきて閉じたはずの入り口を無理矢理こじ開けた。
入り口をこじ開けた当人の男は邪悪な笑みを浮かべて私達を見下す。もうダメかと思ったその時だった。
男の後ろに同じ容姿の男が現われ、鎌の刃を首に引っかける。

「零ノ使徒も馬鹿にされたもんだな。俺はそんな口調じゃないぞ。化けるならもっと正確に演じればいいものの……」

私には何が起こったのか理解できなかった。他の四人もそれぞれ同じ容姿の男達が鎌の刃で首を捕らえて身動きを封じている。
そして、青色の髪の男が大声で言った。

「哀れな天使よ、地獄で苦しめ」

その瞬間、五つの頭が首から落ちた。大量の血液が噴き出し、ゴロンと頭が地面に転がり落ちる。時間差で司令官を失った体も地面に伏した。
さすがにアルフレッドやフェリックス、ジムも全く状況を理解していないようだった。もちろん、ジョシュアとギルバートの二人もポカンと口を開けている。
青色の髪の男は倒れた同じ容姿の男の上に足を乗せて言う。

「お前達が死神の生き残りみたいだな……まあいい。とりあえず状況を一から説明してやろう。
コイツらは俺達零ノ使徒に化けた天使達だ。というより、今冥界にいる死神は全員、死神に化けた天使どもだな。
そして、今の冥界にいるオシリス様は実物じゃない。オシリスに化けたアレクサンドラだ。お前達、よく殺されなかったな。
だから冥界でめっきり死神を見かけなくなったというわけだ。ほとんどがアレクサンドラの餌食……助けてやれなかった俺達が情けない。
今、本物のオシリス様は天界で捕らわれている。俺達も一緒に捕まっていたが、オシリス様に逃がしてもらい、こうやって現世に来れた」

「じゃあ、オシリス様とアレクサンドラが入れ替わったのはいつ頃なんだ?」

アルフレッドが問うと、彼はすぐに答える。

「冥界へ使者がやって来た時にはもう、入れ替わっていたらしい。どういう風に入れ替わったかは誰も見ていないからわからないが……」

「ダミアン、奴らが来たぞ!」

アンドリューが青色の髪の男の名を呼び、叫んだ。私達はその時、彼がダミアン・ドイルだという事を知る。生前に会った時とはまるで別人のようだった。
ダミアンは私達に向き直り、即座に指示を出す。

「今すぐここからできるだけ遠くに逃げてくれ。デス・サターンは今、天界にいるから心配しなくていい。
お前達が死神の最後の希望だ。俺達がここを引き受けるから、早く行け!」

残酷な表情をした天使とガーゴイルなどの獣界に住むモンスターの大軍が迫り来る中、言われるがままに私達は新しいロードを開いて入った。
一千はいるであろう大軍を待ち受けるたった五人の死神。ダミアンが一度、振り向いて笑って頷くと、ロードの入り口は静かに閉じた――。

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