小説『鎌の骨が鳴るとき』
作者:ぽてち()

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◆『地位比べ』

・何事も競争


私が死神になってから知った事だが、どうやら死神同士にも対抗意識というのがあるらしい。
どれだけ仕事をこなしたかによって、偉さ……つまり、地位が変わってくるのだ。
私達アルフレッド・エドガーのチームは上から三番目の『参ノ使徒』という位を持っている。
数字が減るにつれて偉くなっていくわけだが、中には『零ノ使徒』と呼ばれる特別な位を持ち、オシリスの側近として働く死神もいるらしい。
現世で言えば彼らは大統領や国王、皇帝の地位に値するが、それよりも上のオシリスはどれほど偉いのだろうと身震いしてしまう。
私達よりも上の立場の者達がいるが、必ず従わなければいけないという決まりは一切無い。
というより、あったとしても、きっとアルフレッドは絶対に従う事はないだろう。
何故なら、彼は他人から上から物を言われる事を何よりも嫌うからだ。
もちろん、私が言ってもすぐにふてくされるし、親と喧嘩した年頃の青年みたいにとにかくどこかへ飛び出して辺りをふら付いて来る。
まあ、そのうちケロッとした態度で帰ってくるので、あまり私は気にはしていない。
しかし、仕事(満月の復讐劇)が終わって冥界へ戻ったある日の事。
私と些細な事で喧嘩したアルフレッドは、案の定、死神荘(死神の寮)から飛び出して行った。
今回の喧嘩は、誰が聞いても私が悪い。目玉が無いのに見えるという彼の目を見てみたくて、無理矢理見せてもらおうと執拗に迫った私が悪いのだ。
気遣いより興味が上回ってしまい、私は彼が目がコンプレックスだという事を忘れてしまっていたようだ。
気分が落ち込み、反省しきっていた私は、アルフレッドに謝ろうと彼が帰って来るのを待っていた。
私達の部屋は死神荘の三階の端っこだ。中は現世の下宿部屋と変わらず、暖炉もあれば、椅子や時計もる。
ただし、電気だけは無い。というより、あったとしても使わないだろう。

私は窓際の椅子に座り、外を見ていた。
ウール湖のほとりに建つ死神荘。裏に当たるこの窓からは、日光に照らされて輝く穏やかな湖が一望できた。
だが、今はその光景に見惚れている場合ではない。私の心がざわめき出す。
今日は結構粘るなと思っていると、玄関のドアがドン、と鳴った。
私が驚いてドアの方に視線を移すと、弱々しくてか細い声が聞えてきた。アルフレッドのものだ。

「……エドガー、いるかい? ちょっと、ドアを開けてくれないかな」

私は急いで駆け寄りドアを開けた瞬間、ボロボロになったアルフレッドが力無く倒れてきた。
慌てて彼を受け止めると、ぐったりとした様子で微笑した。

「今日は運が悪かったみたいだ……。アイツらと鉢合わせしてしまったよ」

「アイツ? 誰の事だい?」

「弐の使徒……ギルバートとジムのチームさ。アイツらは俺の同期でね。オシリス様に可愛がられている俺が憎くて仕方がないんだよ」

「それって、ただの嫉妬じゃないか。……抵抗しなかったのか?」

そう聞くと、彼は私の腕から転がり落ちて、自力で立ち上がってソファに寝転んだ。

「抵抗したってどうにもならないよ。俺より遥かに強いんだからね。それに二対一だよ? 勝ち目はゼロに等しいよ」

「それなら逃げればよかったじゃないか」

すると、アルフレッドは私の言葉に対して溜め息を吐き、口元から出た血を手で拭った。

「これでも必死に逃げてきたんだよ? ああ……もう、全身打撲だらけだ。痛くて動けないよ。
全く、アイツらには悩まされるよ。おや、聞きたそうな顔をしてるね。じゃあ、俺がこうなるまでの経緯を話してあげるよ。
俺はエドガーと喧嘩して、部屋を飛び出したね。あの後、オシリス様の所に行って仕事にちょっかいを出して遊んでいたんだ。
しばらくして飽きてきたから、エドガーは反省してるかなと思って死神荘へ帰ろうとしたその帰り道。奴らとバッタリ出会ってしまった。
『よお、アルフレッド。新しい相棒ができたんだって? めでてぇこった』
相変わらず口が悪いギルバートが嫌味ったらしく言ってきたから、俺は適当に返事をして、どうにかしてこの場から逃げようとしたんだ。
『ああ、そうだよ。お前の相棒より何百倍も良い奴さ』
しかし、そこで俺の悪い癖が出てしまった。気持ちをすぐに言葉にして出してしまう事さ。
気付いた時には、もう手遅れだったよ。俺の言葉で気分を悪くしたギルバートとジムは、徹底的に俺をぶちのめそうとした。
でも、詰めが甘かったね。ちょっと油断した隙に俺は二人に目潰しをして怯ませ、できる限り走ってここに戻って来たわけさ」

「大変だなあ。女だらけも怖いけど、男だらけも怖いんだね」

そして、私はある事に気が付いた。

「そういえば、女性の死神をまだ見かけた事がないな……」

私がそう呟くと、アルフレッドは目を真ん丸くして口をポカンと開けた。

「まさか……エドガー、知らないのかい?」

「何が?」

「何がって……。死神は男だらけの集団だって事だよ」

「そんなの聞いてないよ。でも、どうして男だらけなんだ?」

私が聞くと、彼はだるそうに首をポキポキと鳴らした。

「参ったな……聞いていると思ったんだが。仕方がない、俺が教えてあげるよ。
理由はいたって簡単さ。単にオシリス様が女性嫌いなだけだよ。嫌いなのに自分の配下になんて置きたくないからね」

「本当にそれだけなのか?」

「俺が何でこんな事で嘘を言わなきゃいけないんだよ。
ま、オシリス様の女性嫌いは、俺達死神が良い代表例だね。ああ、それともう一つ。冥界に女性は誰一人といないよ」

私は驚きのあまり、開いた口が戻らなかった。
女性を見かけないなと思えば……なるほど、そういう事だったのか。
それなら女性の姿を見かけないのは当たり前だろう。
あ、そういえば、彼に謝らなければいけないんだった。
そう思い出した時には既に、アルフレッドはソファの上で深い眠りについてしまっていた。
しまった、と思いながら私は彼が起きるまで自分も昼寝をする事にした。

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