小説『鎌の骨が鳴るとき』
作者:ぽてち()

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◆『地位比べ』

・対抗意識を持たれても……



しばらくして、私は誰かに額を叩かれた。
驚いて飛び起きると、目の前にはアルフレッドと見知らぬ男が私を面白そうに見ていた。
顔が整った黒髪の青年。まるで風を受けているような前髪は、アルフレッドとそっくりだった。
驚きのあまり私は何も言えずに黙っていると、二人は笑い声を上げた。
しかし、腹を抱えてまで笑い転げるものだから、私はムッとして言った。

「そこまで笑う事は無いだろ」

「いや、ゴメン、ゴメン。反応が面白くってね。ああ、こっちは俺の友人のフェリックス。君より年上だよ」

「初めまして、エドガー。アルフレッドが世話になってるよ」

「こちらこそ、私が世話になっているくらいだよ」

私とフェリックスは握手を交わす。
その間、アルフレッドはというと、自分の椅子に座り、足を組んで赤く染まりつつある空を眺めていた。
そういえば、怪我の方は大丈夫なのだろうか。

「アルフレッド、怪我の方は……」

私がそこまで言いかけると、彼は振り返って笑った。

「俺の回復力をなめないでほしいね。二時間も寝たから、もうどこも痛くないよ。
ああ、そうだ、フェリックス。また手伝ってほしいんだけど……。あ、もちろんエドガーもね」

アルフレッドはそう言うと、自分の机の引き出しから一通の黒い封筒を取り出した。
骸骨(がいこつ)の模様が刻まれたその封筒から、一枚の白い便箋を出し、フェリックスに手渡す。
私も横から手紙を覗く。どうやら、血液で書かれたようだ。既に若干茶色くなっていた。



『アルフレッド・グローリア

今夜の九時。ウール湖に来い。

                G・I』



「G・I? 誰だろう……」

「ギルバート・イジューイの頭文字だ」

アルフレッドの代わりにフェリックスが答えてくれた。

「果たし状か……後四時間後……行くのか?」

「もちろんだよ」とアルフレッドが手紙を受け取って引き出しへ戻す。「そろそろギルバートと決着をつけないとと思っていたからね。丁度良い機会だよ」

彼はごそごそと山のように物が置かれた所から、細長い西洋風の剣を取り出して眺めた。

「死神の決闘はこの剣を使って行われるんだ。鎌じゃないよ。そして、相手が倒れるまで闘い続ける。案外過酷だろう?」

鞘から刃を引き抜き、音を立てて空気を切るように振り回す。
危なく私の頭に直撃するところだったが、すぐさま反応して低くしゃがんだ。私の頭上ギリギリを鋭い刃が通過する。

「私の首は切らないでくれよ」

「たまたまだってば。別にわざとじゃないからね」

彼は剣を回転させて鞘に収めた。
そして、細長い剣を机の上に置いてソファに深く座る。

「とにかく、エドガーとフェリックスも一緒に来てほしいんだ。近くの茂みに隠れていてくれよ。
もしかしたら俺が刺されるかもしれないからね。その時は頼んだよ」

それからというものの、誰も一切口を利かず、嫌な沈黙が続いた。
刻一刻と迫る決闘の時間。一時間、二時間と過ぎ、いつの間にか残り三十分しかなくなっていた。
ソファに座ったまま考えにふけっていたアルフレッドは、未だに行動を起こそうとしない。
ただ、じっと横の机に置いた剣を見つめ、指一つ動かそうとしなかった。
微動だにしない彼の様子を遠めで見ていた私とフェリックスは、アルフレッドの心理状態があまり良くない事を悟る。
自分よりも圧倒的に強い敵と一騎打ちで勝負なんて、奇跡が起こらなければどう考えたって負ける。
そんな極限状態の中で、彼はどんな事を考えているのだろうか。自分が勝つ事か、負ける事か、それとも死ぬ事だろうか。
私には全くわからなかった。きっと、このような状況に陥った者しか味わえない感覚だろうから。

決闘時間の五分前まで迫った時、ようやくの事でアルフレッドが動き出した。
唇をキュッと噛み、剣を持ってさっさと部屋を出て行く。
私達も急いで小さなナイフをローブの内ポケットに入れてアルフレッドの後を追った。
少々欠けた月と無数の星が輝く冥界の夜空。
私とフェリックスはアルフレッドの指示通り、彼から十メートルほど離れた茂みに身を潜めた。
アルフレッドが湖のほとりに行くと、後ろで青い髪の毛を縛り、大きなイヤリングを左耳に付けた男が彼を待ち受けていた。
五メートルほどの間隔を開けて、アルフレッドは立ち止まった。

「時間ギリギリに来るなんて珍しいな……あ? 怖気づいたか?」

確かに彼が言っていた通り、ギルバートという男の口は悪い。とても挑戦的な感じだ。
しかし、アルフレッドは動じずに答える。

「待つのが嫌だったんだよ。さあて、始めようか。これで最後だぞ。
俺が勝ったら、俺に付きまとうのを辞める事。俺が万が一負けたら……そうだな、依頼を受ける時以外、オシリス様に近付かない。それでいいか?」

「ああ、いいぜ。そんじゃ、本気でいかせてもらうからな!」

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